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チーム天狼院

「島時間」の言い訳

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:脇田七海(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
開いたドアからは人が溢れ、どう見ても乗れない。
隣の車両なんて、車掌さんが力一杯サラリーマンを押し込んでいる。
 
「すぐ来るし、次でいいか」
 
大学1年にして初めての東京。
朝のニュース番組で何度も見たこの風景に、今自分がいるのだ。ある程度の覚悟はしていたが、実際に目にすると凄いものだった。
 
急いでないわけではないが、5分もしないうちに来る次の電車を待とうと、私は並んでいた列から外れた。
 
「この電車じゃなきゃ死ぬのか」
 
そう思った時だ。ほんの一瞬の隙だった。
 
乗り継ぎ組が、物凄い形相で、一気にエスカレータを駆け下りて来た。
なんと彼らは、この電車に乗ろうとしているのだ。無理無理無理、もうこんなにはみ出てるというのに。
現状を把握した頃には、人の波に飲み込まれ、私まで車掌さんに押し込まれる羽目になったのだ。
 
「私は次でいい!」と外に出ようとするが、力及ばず、されるがままに。
 
無理やりではあるが、やっと電車のドアが閉まり、重たそうにゆっくりと動き出す。
 
中年オヤジの加齢臭、ギャルの香水、車内にこもった人の臭いと熱気と汗とで吐き気がする。
初めての東京旅行に浮かれ、おしゃれにかけた2時間が台無しではないか。
 
「こんなの一生乗るか」
 
これが私にとって最初で最後の、東京の通勤ラッシュの電車だ。
ふてくされながら、目的の駅に着くのを耐えた。
 
私は、小さな島出身だ。
スタバもマックもゲーセンもない、広大すぎる自然しかない島だ。
 
「島時間」という言葉があるように、高校までの18年間を本当にゆっくり生きてきた。
 
友達と遊ぶ約束をして、予定より1時間も遅刻することなんて日常茶飯事。
だいたいが集合時間に起床して、準備を始めている。
それでも、友達は怒らない。その友達も遅れることがあるからだ。
ただのんびりと、公園のベンチに座りながら時間を潰している。
 
私もそうだ、友達が遅刻しても怒らないし、遅れたらのんびり待つだけだ。
厳密には「怒れない」なのだが。
 
こうだから、島の人はルーズとよく言われる。
しかし、少し言い訳をさせてほしい。
 
良くないことだとは分かっているのだが、島にいると時間に追われることがないのだ。
 
電車なんてない。バスにはほとんど乗らない。
分刻みで来る公共交通機関の時刻表を見ながら、逆算して行動するという習慣が島にはないのだ。
 
高校を出るまでずっとそんな生活をしていたのだから、そうすぐに慣れるわけがないのだ。
 
逆にいうと、我々島出身の人にとって、内地の人は生き急ぎすぎる。
これも内地の人からすれば、「育ってきた環境」という言い訳があるかもしれない。
 
もっと通勤途中の道を楽しんではどうか。
朝の柔らかい日差しの中を歩くのは、最高だ。
鳥のさえずりが耳に心地よい。
パン屋さんのいい匂いもする。
公園の大きな木が、青々しくなった。
 
そんなことしたことないのではないかと思うほど、内地の人は生き急いでる。
私があの通勤ラッシュで見た東京のひとは、みんなロボットに見えた。
 
競歩選手のように、大股で、高速で、人混みをかき分けながら突き進む。
次の電車はすぐ来るというのに、1分のしのぎを削って、満員電車へと身を投じる。
そしてやっと1日の仕事が終わっても、また電車。
 
1日中、時間に管理されていて、一体何が楽しいのだろうか。
そんなに怒ったような顔をして歩いて、一体何と闘っているのだろうか。
 
見ていてすごく悲しくなった。
余計なお世話だと思いながら、助けたいと思った。
 
朝日の暖かさも、鳥の声も、パンの匂いも、木の緑も
 
生き急ぐ内地の人に伝えたいと思った。
 
「鳥が鳴いてますよ」
 
なんて直接声をかけるわけにはいかない。
 
だから私は、いつも通り生きる。
 
福岡に引っ越して4年目になる。
東京までとはいかないが、福岡の朝のサラリーマンもやっぱり楽しそうではない。
会社に行きたくないかのように、みんな暗い顔をして競歩をする。
 
だから私は、いつも通り生きる。
島で18年間生きてきたように、いつも通り生きる。
 
朝を満喫するために、少しだけ早めに出て、ゆっくり出勤する。
鼻からたくさんの空気を吸って、今日を感じる。
同じ季節でも、匂いは毎日違う。
 
殺伐としたサラリーマンの中、ゆっくり朝を楽しみながら出勤する人がいれば、それを見て少しでも伝わるのではないか。
そう願って、いつも通り生きる。
 
実際、伝わっているのかは分からない。
 
でも、それが私にできることだと思って、毎日続けている。
 
いつの間にか島時間は治っていた。
 
 
 
 
***

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