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こな落語

カップ麺に隠された謎の数々(その二)《こな落語》


2021/04/19/公開
記事:山田将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
相変わらずの世情で、一向に気儘な外出が出来て居りません。家にいるってぇとついつい、備蓄用だった筈のカップ麺をおやつ代わりに頂いたりして……
しかし何ですね、カップ麺てぇ奴は間食にするにゃ、ちと多過ぎますなぁ。
 
本日、いつもの蘊蓄大家の所にやって来たのは、先達(せんだっ)てもカップ麺のことを聞きに来た、別嬪人妻のなつきさん。
何でも、新たな疑問が湧いてきた様で……
 
「こにちは、大家さん。御手隙(おてすき)でいらっしゃいますか?」
「はいはい。おぅこれはこれは、おなつさん。美人さんの為なら幾(いく)らでも、空(す)かせますよ。今日んとこは、どういった御用向きで」
「それがですね、大家さん。先日教えて頂いた、少量カップ麺のスープを増やす方法、早速やってみたんですよ。とても具合がよくって。助かりました。有難う御座います」
「おぅ、そりゃ良かった。お助けってぇ程の物(もん)じゃ無ぇけどな」
「いえいえ、有難い限りですよ。ただですね……」
「ただ、なんでぇ?」
「ちょいと言い辛いんですが、大家さんが言って下さった通り、半分のカップ麺を食べ終わってから、足りないなぁと思った分だけ汁(スープ)と御湯を足して頂いたんです。私、とっても満足して気分良かったですよ」
「それは良かった。つまらん蘊蓄も、時には役立つってぇこったな」
「ところがですね、大家さん。カップ麺と同じ、百(もも)さんでしたっけ? 社長さんは?」
「そうそう、安藤さんとこの百さんだね」
「それで、カップ麺の残りの汁に、百さんのとこの同じ種類の袋麺に付いている別添の汁を少し足して、御湯で溶(と)いて頂いたんです」
「おなつさんの満足気な顔が思い浮かぶねぇ」
「ところがなんですよ大家さん、今度(こんだ)は、麺ばかりが残っちゃうんですよ。それで、うちの宿六(御亭主のこと)の腹固め(御腹の足しのこと)にしようとしたんですよ」
「おなつさんは、面白いことを言うもんだ。そいつぁ、どういう寸法で?」
「ええ、うちの宿六は無芸大食で穀潰(ごくつぶ)しの代表なんでね。こないだも、休みの3時過ぎに、おやつだって言って普通のカップ麺を食べてたんですよ。それでも足りないって言うんですよ。ところがですね、ここんとこ私も忙しくって、買い出しに行ってなかったものだから、それ1個きりしかカップ麺が無かったんですよ」
「そういえば、おなつさんとこの近所の便利店(コンビニ)は、改装中だったねぇ。ちょいとした買い物(かいもん)が出来なくて、不便だろうが」
「ええ、大きい買い物は隣町まで行くんで問題無いんですけど、買い忘れとかがねぇ。って、便利店の話じゃないんですよ。まったく!」
「おぉ、そりゃ、失敬失敬」
「そいでですね、買い置きのカップ麺は無かったんですけど、私が別添の汁だけ少し使った即席麺が在ったんですよ。そいつを、宿六に喰わせようと」
「喰わせるって、おなつさん。別嬪さんには似つかわしくない言葉を使うのはおよしよぉ。でも、なんだかんだ言っても、おなつさんは旦那のこと考えてるんだねぇ」
「別に考えてるわけじゃないんですけど、おまんま食べさせないとうるさくてね。そいでですね、残ったカップ麺のスープに即席麺を4つの折って入れて、別添汁の残り多目に御湯を入れて、3分経ってから宿六に出したんですよ」
「おなつさん、そりゃあんまり賢い方法じゃないなぁ。旦那は、麺が硬いって言っただろ?」
「あら、大家さん。流石に御見通しで。宿六ったら、一丁前に『硬くて喰えねぇ』なんて抜かすんですよ。何とか言ってやりたくて、こうやって大家さんに知恵を借りに来たって訳なんです」
「なんか、長ぇ話になったなぁ。おなつさん、よく御聞き。そいつぁ、土台無理な相談だなんだなぁ」
「あら、どうしてなんです、大家さん。確か、カップ麺に誕生は、メリケン(アメリカ人)が百さんとこの“鶏麺”を割って、紙器(紙コップ)に入れて食べたところから出来たって、教えて下さったじゃないですか」
「そこなんだよ、おなつさん。そん時も言ったけど、同じ即席麺でも“鶏麺”と他のは違うって言っただろ?」
「ええ、お聞きしましたよ。でも、汁が別添に為っているかどうかだって……」
「もう一つ有るんだよ。即席麺の中で“鶏麺”だけが鍋で茹でなくてもいいだろ? カップ麺と同じ様に。他の即席麺はてぇと、必ず鍋で湯搔(ゆが)く様に書いてあるだろうに」
「そういえばそうですねぇ。でも、何でなんです?」
「そりゃな、おなつさんや。“鶏麺”やカップ麺の麺には、表面に小さな気泡が沢山開く様に製造されているんだ。だから、鍋で茹でなくとも御湯を掛けて蓋をして、3分待つだけで食べられるてぇ寸法なんだよ。あ、ただ、こうした麺の製法は、百さんとこの会社が持ってる特許なんだよ」
「そうなんですか。でも、カップ麺を作っている会社は、百さんのところに特許使用料を支払っているんですか?」
「そこんところは、よく解らないんだが、多分払ってないと思うよ。なにせ、どこの会社も同じ値段でカップ麺を売ってるからねぇ」
「そうですよね」
「だからな、おなつさん。お前さんが別添汁を使っちまった袋麺を、旦那さんに食べてもらおうとするなら、ちゃんと鍋で作ってやんなさい。そいでもって、お前さんが使っちまった汁の不足分を、旦那が食べたカップ麺の残り汁を使えばいいんだよ」
「そうですね。余分に鍋を洗うのは面倒だけど、それは宿六にやらせればいいんですね」
「おいおい、それはいけないよ、おなつさん。問題が汁だけに、消えるといけ無ぇ」
 
 
 
 
≪お後が宜しいようで≫
*諸説有ります
 
【監修協力】
落語立川流真打 立川小談志

❏ライタープロフィール
山田将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))

1959年生まれ 東京生まれ東京育ち
天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター
天狼院落語部見習い
家業が麺類製造工場だった為、麺及び小麦に関する知識が豊富で蘊蓄が面倒。
また、東京下町生まれの為、無類の落語好き。普段から、江戸弁で捲し立て喧しいところが最大の欠点。

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2021-04-19 | Posted in こな落語

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