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メディアグランプリ

一番簡単で大切なコミュニケーションツール


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松尾美紀(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「ミキ、ミキ、ちょっとトイレ見てもらえる?」
の声で起こされたのは夜中の2時だった。
トイレまで行くと、便器の中も外も茶色い吐瀉物でいっぱいだった。
(一体何が起こったのか?)
と思いを巡らしながら、雑巾で拭きあげる。
 
「ちょっと調子悪いんだよね。数日前から、排泄物が黒っぽいんだよ」
と前日の夕方、胃をさすりながら苦笑していた主人。
ワタシもこの日は不調で
「コーヒーシェイクが飲みたい!」
とワガママを言って、夕ごはんも食べずに、主人にシェイクを買ってきてもらった。
そこから数時間後にこんな光景が広がっていようとは……。
 
茶色い吐瀉物が血だと判断して、嫌がる主人を説き伏せて、救急車を呼んだ。
病院へ運ばれるも、吐血の原因を探るべく胃カメラを作動させようとするも、不具合があって、なかなか作動しない。
現場がイライラしているのが待っているワタシにも伝わってきて、緊張しつつ胃カメラ室の前で待つ。
時計を見ると、朝の6時だった。
主人が営む会社の社員さんが7時前には出勤してくるからと、胃カメラの不具合で右往左往している病院側には告げることなく、病院を後にして、自宅兼会社へ帰り、主人が緊急搬送されたことを社員さんたちに告げて、まずは出来る仕事だけをしてもらうこととした。
数時間後、病院から
「なんで帰られたんですか!」
とお叱りの電話が入った。
「仕事の段取りがありまして……。夕方、顔を出しますので、ご勘弁ください」
と返事して、仕事が終わるのを待って、主人の荷物を取り揃えて病院へ向かった。
 
医師との面談時には
「申し訳ありませんでした。そしてあリがとうございました」
と深く頭を下げた。
医師の説明によると、吐血の原因は、胃カメラで見ても、ほとんど解らないような小さな胃潰瘍だった。
胃カメラで見つつ、その場で胃潰瘍の処置は終わったそうだ。
ワタシは『ご主人の緊急処置時に帰ってしまったダメ嫁』の烙印を押されたようだ。
主人よりも仕事を優先させたのだから、その烙印は心して受けとろう。
病室で横になっている主人に会いに行き、何度も「ごめんなさい」と言い続けた。
調子が悪いと言っていたのに、コーヒーシェイクを買いにいかせたオニ嫁でもある。
「ごめんなさい」だけでは事足りないであろう。
 
通常食が食べられるようになるまでの十数日間の入院となった。
その間、会社の仕事を回さねばならない。
生業は繊維加工業だが、要の部分は主人の判断が肝だった。
だから主人に指示をあおぐべく、毎夕方、病院へ足を運んだ。
それでもミスは起こった。
この十数日間のミスは、主人がいれば防げることばかりだった。
皆がどれだけ主人を頼りにしていたかが、明らかになった十数日間だった。
 
ワタシは入院中、そして退院後の数ヶ月間、事あるごとに主人に「ごめんなさい」を連呼していたらしい。
 
以前、周囲から
「アイツはごめんなさいも言わへん」
「絶対に謝らないよ」
「ごめんなさいぐらい言えばいいのに」
と、パートナーへの小言を幾度となく聞いたことがあった。
その時には、自分のことは棚に上げきって、そんなものかなぁと思っていたが、まさにそれはワタシの姿であった。
 
周囲に気を配りながらゆっくりと進む主人と、我が道を行く! となったらガシガシと障害物をなぎ倒してでも進むワタシ。
「ごめんなさい」を言わなければいけないシチュエーションが多いのは断然ワタシである。
しかし主人の入院以前は、ほとんど口にしたことがなかった。
口にしなくても態度でわかるはず! ぐらいの軽い気持ちだったのだろう。
何年一緒にいようとも、態度でわかることなんてありえない。
わかるとすれば、それは思い込みと誘導そして長年の観察のなせる技だと思う。
そんなワタシは、主人とのコミュニケーションはもちろんだが、他人とのコミュニケーションでも言葉足らずなことが多かった。
 
言葉は一番簡単で大切なコミュニケーションツールなのだ。
「ごめんなさい」
の一言でその場の空気がガラリと変わる。
「ありがとう」
を付け加えれば、もっと素敵な空気になる。
 
それを教えられた主人の入院だった。
 
そしてこの主人の入院の十数年後、弟がクモ膜下出血で高次脳機能障害となり、言語障害を負ったことで、より一層、言葉の大切さを再確認した。
言葉をなくした弟を目の当たりにして、せめて感謝の言葉が出れば、コミュニケーションが容易になるのにと感じた。
しかし簡単に覚えるのは粗野な言葉ばかり……。
「ありがとう」が言えるようになったなぁと思っていたら、いつの間にか「どうも」に変化していたりで、前途多難だ。
 
弟が「ごめんなさい」「ありがとう」を心から言えるようになるのはいつになるのだろうか。
そう考えながら、ワタシは今日も感謝の気持ちを言葉に乗せて、周囲に伝え続ける。
 
 
 
 
***
 
 
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2019-09-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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