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心の目覚まし時計を持つこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:一ノ瀬 朔(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「いいかげんにせいやっ!」
 
響き渡った怒鳴り声に、それまで活気づいていたテニスコートの空気が一瞬にして凍りついた。
 
楽しそうにラリーをしていた部員は思わずボールを空振りし、ラリーの順番を待つ間に雑談に華を咲かせていた部員は一斉に口を固く結んだ。
 
みんなの視線の先には、険しい表情で私たちを睨む、テニス部顧問の先生がいた。
 
先生が怒りを含んだ声で「集合」と言えば、それまで自分たちのことに夢中になっていた私たちは途端に団結力を見せ、駆け足で先生の前に集まった。
 
「どうして怒られているかわかるか」
 
答える部員はいなかった。ただただ、みんな黙り込む。
 
ある者は俯き、先生と目を合わせることから逃げ。
 
当時、中学生だった私たちは、普段は優しくフレンドリーな先生の怒りを前に、蛇に睨まれた蛙状態になっていた。
 
「お前、答えてみろ」と、前に並んでいた部員が睨まれる。
 
「……喋っていたからです」
 
「次、隣」
 
「……他の人の練習を見ていなかったから」
 
「他は」
 
「………集中、できていなかったから」
 
「どうして、集中しなかった?」
 
重たい沈黙が再来する。
 
とてもシンプルな問いかけに、ただでさえ開かない口がさらに硬直する。
 
先生に怒鳴られたことで委縮してしまったのも理由だったが、それよりも、「何故」に返せる明確な答えを見つけられなかった。
 
もちろん、真面目にテニスと向き合って練習に徹していた部員もいる。
 
けれども、完全に集中していなかった部員の方が圧倒的に多かったと、その時の私たちは認めてしまっていた。
 
「ここにいる部員は全部で何人だと思う」
 
男子テニス部の部長が「男女、合わせて70人くらい、だと思います」と答えた。
 
「その70人の部員が使えるコートは、何面だ?」
 
「1面と、その、半分です」
 
先生の言いたいことが明確になるにつれて、私たちの後悔は色濃くなっていった。
 
70人の部員で、たった1面半のコートしか使えないというのに、何故、お前たちは限られた練習時間を大切にしないのだ、と言っている。
 
痛いほどの正論を目の前に、自分の甘えが恥ずかしくて、思わず視線を下に落とした。
 
「集中する気がないなら、練習しない方がいいよ。喋りたいなら他の場所で喋りなよ。俺は止めないから、遠慮せずにコートから出ていきなさい」
 
「嫌です」
 
「別に、俺は困らないから。出て行ってもいいって言っているんだ」
 
「嫌です。テニスをさせてください」
 
部長の迷いのない声に、心の中で頷いた。そうだ、私はテニスがしたくてここにいるのだ、と。
 
とてもシンプルな目標でさえ見失っていたことを痛感し、このままではダメだと、そのときやっと気持ちを入れ替えることができた。
 
「お前たちは、何を目標にしているんだ」
 
「関東大会に出ることです」
 
「今の状態じゃ無理だろ。関東大会どころか、県大会だって勝てるか分からない」
 
他の学校よりも練習場所が少ない私たちが関東大会に出られるなんて夢物語同然。
 
それでも、その夢物語を誰よりも叶えようとしていたのは先生だったんだと、気がついたのは随分と後の話。
 
だから、怒っていたのだ。
 
可能性があるのに、それをないがしろにしようとしている私たちを。
 
導いてやらなければと思ってくれていたのだ。
 
誰よりも、私たちの目標を応援してくれていたから。
 
「お願いします。頑張らせてください」
 
黙り込む部員たちを代表して先生と対峙していた男子テニス部の部長が深々と頭を下げると、私たちもみんな頭を下げて「お願いします!」と声を張った。
 
「だったら、今この時に、集中しなさい」
 
「はい!!!」
 
先生は、ひとりひとりの意思を確認するように、ゆっくりと私たちを見渡した。
 
私は、私たちは、先生の本気に応えるように、真っ直ぐに先生を見つめ返していた。
 
「練習、再開しなさい」
 
「はい!!!」
 
先生の怒鳴り声よりも響き渡る声で返事をした私たちは、テニスのこと以外を考えないようにと、表情を引き締め、練習を再開した。
 
それまでは雑談していた部員も、掛け声以外に発しなくなり、ラリーだって怒られた後の方が長く続いているように見えた。
 
それから、私たちは心を入れ替えたようにテニスの練習に集中する日々を過ごした、というほど上手い話はなく。
 
まだ子供であった私たちは、その数週間後も、そのあとだって、同じような理由で先生から怒られた。
 
そのたびに、同じように反省し、心を入れ替え、今この時に集中しようと気を引き締め直した。
 
先生が飽きることなく怒ってくれたおかげで、私たちは目標を見失わずにテニスを続けることができ、男子テニス部、女子テニス部共に県大会の団体戦で勝利をおさめ、関東大会に出場することが叶った。
 
あの時の先生の怒鳴り声は、大人になった私の心の中でも、鮮やかに生き続けている。
 
そして、仕事に集中できないときとか、限りある時間を無駄に過ごしてしまっているときとか、ふとした瞬間に鳴り響くのだ。
 
『いいかがんにせいやっ!』
 
そのたびにハッとなり、中学生の頃の自分を思い出し、今の自分を見つめ直す。
 
大きな怒鳴り声、怠慢への指摘、そして、お前は何のために頑張りたいのだ、という問いかけが心の中で行われる。
 
『目標があるのなら、今この時に、集中しなさい』と、突き付けられた文字盤に、限りある時間の大切さを再認識する。
 
先生が本気の熱量で私たちに投げてきたあの言葉は、いわば、私の目覚まし時計。
 
先生が刻みつけてくれた目覚まし時計のおかげで、私は、誰かに怒られずとも気を引き締め直すことができるようになった。
 
失敗を繰り返し続ける人生の中で得た”心の目覚まし時計”は、人生の道しるべとなって、今も私を目標の場所へと導いてくれている。
 
あなたの心にも、あるだろうか。
 
ふとした瞬間に自分を見つめ直させてくれる、心の目覚まし時計が。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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