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歩くことは生きること


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:神保あゆ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「歩くことで身体が整うから、毎日40分歩いてね」
大尊敬している整骨院の先生にこう言われて、以来毎日40分歩いている。
 
2年前、手の指を捻挫して困っていた。
整形外科を受診したら、おそらくギプスをはめられる。
1週間後にとある大会に出る予定があったので、ギプスで固定されたら困るのだ。
 
そんな時に以前ママ友に教えてもらった整骨院を思い出した。
「うちの息子、バスケの練習中に足首捻挫して、整形外科行ったらギプスで固定されて松葉杖生活や。せやけど、3日後に大事な試合あったから、試しに整骨院行ったのよ。
そしたらなんと、診察室から出てきた息子はギプス取れて松葉杖なしで、普通に歩いてたんよ!」
 
普段から何でも若干誇大表現するママ友ではあるが、この話は信じてみよう。
私の手の指も、すぐ治ればありがたい。
 
期待と不安を胸に、診察していただくと、ささっと触って
「はい。これで大丈夫」
と、本当に2分くらいで治ってしまった!
 
魔法使いのようだった。
 
びっくりした私は
「左足も診てほしい」
と、半年前に捻挫して可動域が狭くなった左足首も出してみた。
 
先生は膝から下を撫でてくれて
「はい、これでどう?」
 
嘘のようなホントの話。
足首の可動域が、ものの10秒ほど撫でてもらうだけで復活したのだ。
 
手の指も足首も、まさに「秒で」治ってしまった。
先生の信者誕生の瞬間である。
私は単純な女である。
 
「特に変わった治療じゃないですよ。道理の通りにしているだけ」
 
その先生が冒頭のように
「身体が整うから毎日40分歩け」
と言うのだ。
歩かない理由がない。歩くよね? 信者だもの。
 
30分じゃなく、50分でもなく、40分を適切なスピードで歩くのだ。
腕の振り方、足の運び方、姿勢。
歩き方指導までしていただき、私の日常に「歩く」というタスクが入ってきた。
 
どんなに忙しくても、家事の合間、仕事の隙間時間など、何が何でも40分の時間を作り、歩いた。
雨でも、台風じゃない限り、歩いた。
暑くても寒くても、歩いた。
 
そして、毎日40分歩くことが習慣となり、歩かないと気持ち悪くなるほどにまでなった。
 
身体を整えるために歩き始めたのだが、副産物をたくさん得られた。
 
外を歩くと、四季を感じる。
 
ウォーキングコースは桜並木や梅の花、あじさいなど四季折々の花が植えられている。
つぼみが膨らんで、花が咲き誇り、月夜にその香りが匂い立つ様子など、それまでの車生活では感じられなかった光景である。
 
昨日まで車で走っていた「普通の道路」が、歩くことで一気に「ドラマチックな道」になるのだ。
 
知らなかった。
この道がこんな表情をしているなんて。
日本はなんて豊かな国なんだろう。
 
当時、「人生のつまずき」を感じていた私は、夢中で歩いた。
歩いて大きく深呼吸をすると、私が抱えている悩みなど、どうでもよいもののように感じられた。
自然の中を歩くことで、思考がクリアになり、どこからともなく「やっぱり生きよう」という「生きる活力」がムクムクと湧いてくるのであった。
 
整骨院の先生が治療しながら話しかけてくれる。
「歩くってね、人間の三大欲求の一つなんですよ。食欲と、性欲と、『移動欲』があるんです」
太古の昔、狩りをして食料を確保していた。狩りをするために人間は歩いて「移動」した。
子孫を残すため、歩いて「移動」して逢瀬を重ねた。
歩いて「移動」することが欲求としてDNAに組み込まれているのだそうだ。
 
人間の身体のつくりは、歩くのに適したつくりになっているのだ。
だから、歩かないと身体が悪くなる。
だって、本来「歩く用」にできた身体なのだから。
 
「痴呆の人ってね。徘徊するじゃないですか。あれは止めちゃいけない。ちゃんと理由があるんです。痴呆の人は、脳みそが熱くなってるんです。歩くことで踵から地面に放熱してるんです。脳みそに溜まった熱を踵から地球に放してるんです」
 
これを聞いたとき、泣きそうになった。
徘徊で歩き回るのは、人間の本能だったのだ。
脳に溜まった熱を放熱して、頭をクリアにしたいという尊い欲求だったのだ。
脳がダメージを受けていても、身体は治し方を知っているのだ。
 
私は若い時、デイサービスに勤めていた。
Kさんという痴呆のおばあちゃんが自宅から脱走して、ものすごい勢いで川沿いを徘徊しているのを追いかけて車に乗せようとした。
だって、危ないもの。事故にでもあったら困る。
やっと追いつき、Kさんの腕を掴み、車に乗せるとき、一瞬だけ、ほんの一瞬だけKさんの記憶が正常に戻った。
「息子が私の昼ご飯を用意してくれずに出かけたから、探しに行ってるのよ。あの子はどこ行った?」
ものすごい力で私が掴んだ腕を振りほどこうとする。
あの時、Kさんはクリアになりたかったんだ。
自分でもどうしていいかわからない脳の熱さを、歩くことで冷却して、正常に戻りたかったんだ。
 
そんなことも知らず、私はKさんの腕を掴み、車に乗せた。
 
歩くことは生きること。
 
歩くことで私の身体は整い、生きる活力を得た。
心も穏やかになり、自分自身も自然の一部であることを感じた。
 
あの時、Kさんと一緒に、もう少しだけ川沿いを歩いていたら。思い出話の一つでも聞かせてもらえていたかもしれない。
 
今日も私は川沿いのウォーキングコースを歩く。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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