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メディアグランプリ

毒教師と戦ってはいけない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岡 幸子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もう、練習行きたくない。先生に会いたくない」
夏休み、娘に突然そう訴えられて驚いた。
なぜ?
中学3年の娘は、入賞すれば地区大会、県大会、全国大会へとつながる英語のスピーキングコンテストに出たくて、1年前から校内オーディションを心待ちにしていた。ほぼ毎日、教科書を音読するなど努力を重ね、つい3週間前、目標通り学校代表2名の枠に選ばれて大喜びしたばかりだったのに。
 
夏休み前、コンテスト指導担当の英語の先生に挨拶に出向いたときは、
「おそらく県大会は行けるでしょう。しっかり練習すれば全国大会も夢ではありません。僕が責任をもって指導します。一緒に頑張ろうな」
先生からそう声をかけられ、嬉しそうにしていたのに。
まだ若く、やる気と自信に満ちた先生のことを、娘も信頼していたはずなのに。
 
娘は小さいころから英語が好きだった。
たまたま、2歳年上の兄と保育所の同じクラスに、幼児向け英語教材の販売を仕事にしているお母さんがいた。そのつながりで、我が家には娘が生また直後から英語の教材がたくさんあった。
 
英語の歌を子守唄がわりに育った娘は、物心ついてから中学1年生まで、ネイティブと毎週1回電話で話すサービスを利用した。また、ネイティブが英語だけで行うイベントやキャンプにも積極的に参加した。
それらの経験から、娘には、小中学校に来るネイティブティーチャー達と、日常会話をするには困らない程度の英語力と度胸が身についていた。
 
当時の娘にとって、英語は大好きなスマホゲームと同じだった。
強制されなくても自発的にやりたくなる。失敗したり成功したり、全部わからなくても楽しい。でも、どうやってそのゲームが作られたかは理解不能だし興味もない。つまり「なんとなく喋れるけれど文法はダメ」というわけだ。確かに日本語は、文法などわからなくても喋れてしまう。
 
そんなわけで、娘は発音にはうるさかった。
 
「今度の先生、LとRの区別がちゃんとできてるからいい!」
LとRの区別が全くつかない私とは違う次元で英語の先生を値踏みして、間違いなく夏休み前までの娘は、スピーキングコンテストを指導してくれる先生に大きな期待を寄せていた。
 
それがなぜ突然、「練習行きたくない。会いたくない」となるのだろう?
 
「だって、注意しかされないんだもん。スピーキングコンテストだから、上手だねってほめられて楽しく練習できると思ったのに」
 
確かに、原稿作りで苦戦したのは知っていた。最初のうち、毎日夜中まで書き直したり、構成の練り直しをしていた。ゼロから自分で考えた方が、説得力のある言葉にできるからという理由だった。
 
「原稿さえできれば大丈夫って言ってたよね」
「言ったよ。でもスピーキングの練習になっても、ダメだって注意ばっかりされて、ちっとも楽しくない」
「発音はほめられるでしょう?」
「ほめられないよ。早すぎるとか遅すぎるとか注意ばっかり。それに、私は注意しかされないのに、一緒にやってるもう一人の子は、上手くなったとか言われて楽しそうにしてる。だいたい、その子の原稿は、できないからって先生がほとんど書いてくれたんだよ。ずるいよ!」
「ああ、それは先生があなたに期待してるからだよ。本気で全国大会を目指して、今よりもっと上手になるように指導してるから、注意が多くなるんじゃないかな」
「全国大会なんて行けないよ。ダメダメなんだから。とにかく、明日から本番前日まで朝練もやるって言われたけど行きたくない。いくらやってもどうせダメなんだから」
 
ああ、先生がスプリンクラーになってしまった……
ほめてもらえるはずのスピーキングを否定され、すっかり自信喪失した娘は、やる気を完全に失っていた。1年前から燃えていた娘のコンテストへの意欲は、本来英語の面白さを伝えるべき英語の先生によって消されようとしていた。
 
もったいない!
全国大会も夢じゃないと言われていたのに、ここでやめてしまうのはあまりにも惜しい。
翌日、欠席連絡の電話をスプリンクラーになってしまった先生にかけた。夏休みを返上しての指導のお礼と、娘がすっかり自信喪失していることを伝え、やんわりと、できれば肯定的な声かけもしてほしいと頼んでみた。
 
「もちろん、できることは認めているし、ほめてもいますよ。ただ、最近のお嬢さんの練習態度は、ほめられたものじゃありません。一緒にやっているもう一人の生徒さんは、すごく伸びているんです。このまま、こちらの指導にのらない態度を続けるなら、もう面倒みれないと言ってるんですが駄目ですね。練習態度を改めるよう、お母さんからもお伝えください。そうでないと、本当に、本番まで一人でやることになりますよ」
 
ああ、なるほど。この先生の善意の指導は、もう一人の生徒さんにはよく効く薬で、うちの娘には毒なのだ。交通事故と同じように、たまたま運悪く毒教師に当たってしまった。さて、親としてどうするべきか。
 
すでに娘の気持ちは先生から離れている。それを曲げて指導に従えと言って従えるものだろうか? あるいは、娘にとって毒教師となってしまった先生の心を解いて、娘の薬になる指導法を見つけてもらうことはできるだろうか?
 
毒教師はサーカスのライオンと同じだ。
遠くから見ているだけなら拍手喝采で楽しめるが、近づくと、運が悪ければ怪我をする。また、気に入らなくても、素人がそのライオンに新しい芸を調教することは、まずできない。
 
怪我した子供は、当分ライオンには近づきたくないだろう。無理やり毒教師の元へ行かせるのは、ライオンの檻に放り込むようなものだ。もっと大きな怪我をして、下手をすると食い殺されてしまうかもしれない。
そして、親が毒教師を調教して新たな指導法を見つけてもらうようなことは、残念ながら無理だろう。
 
だから親は、子供が毒教師から逃げてきたときは、傷が癒えるまでその子を見守ってやるべきなのだ。たとえ理不尽な目にあったとしても、親にも調教できない毒教師に子供を立ち向かわせてはいけない。
 
結局、娘は夏休み中の練習には参加しなかった。2学期に入って数回の練習で、コンテスト当日を迎え、学校代表で一人入賞し、地区大会出場が決まった。
毒教師は入賞した娘に「おめでとう」の一言もなく、学校へ戻ってから娘を小部屋に座らせ、「態度が悪い」ことについて1時間お説教を続けた。
 
その後、地区大会まで一か月、娘は毒教師の指導を全く受けず、学校代表の自覚も意欲も失ったまま、自分でも一度も練習することなくステージに立った。
 
以来、娘が音読する姿を一度も見ていない。英語は嫌いな教科になってしまった。
 
毒が抜けて、娘が英語好きに戻ったのは、ようやく大学生になってからである。
「英語で満点とったよ!」
嬉しそうに話す娘に、中3の夏のことを尋ねたところ、なんと、記憶が欠落していた。それほどのストレスだったとは……
 
「英語好きに戻れてよかったね」
「今の先生、面白いんだよ。授業が楽しいと勉強する気になる」
 
教師は本当に、毒にも薬にもなる。
 
 
 
 

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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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