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メディアグランプリ

誰かと、一緒に暮らすということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:いしはら(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
いつもは使わない駅に降り立って、違う路線に乗り換える。そんなとき、えも言われぬ違和感というか、違和感よりはもっとささやかな、居心地の悪さのような落ち着かなさを感じることがある。
 
看板の色づかいや書き方、ホームのつくり、電車のデザイン。見るものすべてが「いつも」とちょっとずつ違う。軽い戸惑いを覚えながらも電車に乗りこむと、そこにいるのはいつもの路線とはまたすこし雰囲気の違う乗客たち。そわそわしながら、いつもと声の違うアナウンスを聞いて、目的地で降りる。
 
いろんなことがいつもと変わっていると、ちょっと落ち着かないけどそれが新鮮に感じられたり、やっぱりいつもの路線がいいなあなんて思ってしまったりする。なんだかんだ、いつものほうが楽なんだよなあ。
 
ところで、私はかつて同棲生活で失敗をした。
 
自分ではうまくやっているつもりだった。お互い働いていたので家事は分担制にしたし、お休みの日には一緒にお出かけもした。仲は良かった、はずだった。
 
でもあらゆる場面で私は目をつむってしまった。あれっ、食べ物をそんなところに置いちゃうの? とか、そんなお掃除の仕方するの? とか。書き出してみると本当に些細な出来事のひとつひとつなのだけど、チリも積もれば山となる。いつしか、「どうして私ばかり妥協してるんだろう」「どうしてこの人はわからないんだろう」なんて考えるようになってしまって、ある日爆発。気持ちがぷっつり切れたことを伝え、その日限りでお部屋を後にした。
 
山積みにしてしまった、ささやかな違和感を振り返る。
 
もし、これらをもやもやさせたままにしないで言葉にしてあげていたら。その言葉たちを、都度相手に伝えていたら。
 
たられば論は不毛だけれど、でもきっと、チリが積もるスピードはゆるやかになっただろうし、「私ばっかり折れてる」とも思わなかっただろうし、相手も私に対して感じていた違和感をたくさん言ってくれたかもしれない。
 
そう、相手にもまた相手の「いつも」がある。自分の「いつも」をついついスタンダードとして認識してしまうのだけれど、あくまでそれは自分限定であって普遍的なものではない。当時の私はそこに思いが至らなくて、自分と相手の違いを受け入れることができなかったのだ。
 
かつて、デパートで働いていたときの話。
 
私はリビング用品全般を扱うフロア担当だったので、食器やタオル、寝具といった暮らしに必要な道具を販売していた。そこで日々接客をする中で意識していたことが、お客さまがおっしゃる「普通」を押さえることだった。
 
寝具を買いに来られた方に、今お使いのものがどんなものかを聞くと「普通の布団だよ」と言われる。お客さまにとっては毎日くるまっている普通の布団だけれど、デパートには羽毛布団ひとつにしても様々な種類があるし、そもそも羽毛布団なのかさえもわからない。質問を重ねて、お客さまの「普通」を言葉に置きかえていくところから、接客がスタートする。
 
ようやくしっくりくるフライパンを見つけたお客さまに、長く使っていただくための使い方を説明する時もそう。「中火以下で使ってくださいね」「中火ね、いつもそうしてるから大丈夫」。こう言われたら、かならず一言添えていた。「中火が皆さん強めでいらっしゃいます、中火は、フライパンの底面に火の先が少し当たる程度の火力ですよ」と。「それ、弱火だと思ってたわ」という返答が何度来たかわからない。
 
そうやって、仕事においては人々の中に横たわる「普通」をとことんマークしていた。そこには語りつくせないほどの「普通じゃない」ことが詰まっているから。とりわけ暮らしのアイテムは他人と比較する機会がほとんどないために、実家で見てきたことや実践してきたことがスタンダードとして刷りこまれてしまっているのだ。本当は、普通なんてない。
 
ここまでわかっていたのに、自分のことになると途端にわからなくなるものだなあ。同じ考え方を、自分と相手とのふたり暮らしの中に当てはめれば良かっただけなのにね。「いつも」の枠組みを取り払うことは、案外むずかしい。
 
それで、私はこの度また、同棲を始めることになった。
 
きっとこれからの毎日は、今までとも違う駅や路線の連続だ。見慣れない案内ボードをもとに進むのは時間がかかるだろうし、あたたかい電車の中で座れたとしてもどこか緊張してしまっているだろう。
 
でも今の私なら、前とは違う。馴染みのものとの違いを面白がれるだろうし、自分の普通が普通じゃないことも知っている。あれっ、と思った違和感は早めに言葉にしてみることと、それでも引っかかるようなら相手に伝えたほうが良いことも学んだ。
 
自分は自分、相手は相手。どちらかのやり方や考え方が正しいというわけではない。「いつも」を捨てるのは勇気がいるけれど、あたらしい「いつも」ができるなら、それでいい。
 
そうやってお互いの違いを認めあいながら、暮らしていきたいなあ。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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