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メディアグランプリ

接客業は努力か? それとも才能か? 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石崎彩(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
「店員さんが楽しそうに働いているのっていいよね」
 
一瞬ドキッとした。
年末金曜日の店内は空いている席の方が少ない。
アルコール離れと世間では言われているけれど、若い人から中高年の人まで、皆が楽しそうにお酒を片手に笑い合っている。
 
私と彼氏が座るカウンターの席からは、調理をするスタッフさんや飲み物を作るスタッフさんまでよく見渡せる。
注文を厨房に出し、笑顔で声かけをし合うスタッフたちは確かに楽しそうである。
 
カウンターの中から、目の前に刺身の皿を差し出し説明をしてくれる店員さん。
この店員さんも笑顔だ。
思わずもっと詳しく聞きたくなり、こちらから話しかけてしまう。
 
お酒が入っているからか、単純に店員さんが笑顔でレスポンスを返してくれるだけでうれしい。
 
「確かに楽しそうだとこっちも気持ちがいいよね」
 
そう答えながら、店員さんに去年の自分を重ねる。
少しだけ心にノイズのようなものが走った。
 
私は今年の3月まで居酒屋でフルタイム勤務をしていた。
昼の仕込みから手伝い、休憩を挟み、夜は5時から12時を超えて接客。
60席あるそこそこ大きな店だったので、アルバイトのスタッフがいないと回らない。
 
年末は連日宴会予約と席予約で大忙しだった。
これだけ忙しいと1つのミスが命取りになる。
例えば、宴会飲み放題コースだと時間制限があるので、料理の数が合わないミスや、料理の出し間違いミスなどが1つ起こるだけで時間内に終わらせることができなくなる。
 
そうなると、席予約のお客さんの料理が遅くなったり、その後の予約客が予約時間に案内できないなど、派生的にさまざまな問題が勃発。
スタッフたちの間にはピリピリとした空気が流れ始めるのだ。
 
ある忙しい時、接客アルバイトの子が笑い話をしだした。
「もはやこの状況笑うしかなくね?」
 
1人話し出すと緊張の糸が切れるように他のアルバイトの子も笑いながら話し出す。
私はこの時が一番背筋に緊張が走る。
 
調理スタッフがイライラし出すのだ。
「できている料理を早く出さないで、なんでふざけてんだあいつら?」
まだ声には出ていないが、すでに顔には出ている。
 
ここで誰かがキレたら全てが崩れる!!
 
どうにか声のボリュームを下げさせなければ……。
それとなく声をかけて、アルバイトの子たちを一カ所にとどめないように指示を出す。
けれど、本当は私が一番話したいと思っている。
「誰でもいいから、私の長時間労働と接客の精神的摩耗を紛らわせてほしい!」と切に思っていた。
 
当時、接客を担当する正社員は私しかいなく、接客アルバイトを指導指示するのも、お客さんからのクレーム処理も、隔絶しがちな接客と調理との橋渡しをするのも私のみ。
 
接客は好きだと思っているし、常連のお客さんとお話しするのも好きだと思っているけど……。
大変さを分かち合える居場所がないのには辛さを感じていた。
 
そんな繁忙日が続いたある日、休憩中に横になったまま起き上がれなくなる。
「え? 私の体、どうした?」
 
体が重くて、動かすのにすごく気合がいる感じ。
なんだか頭も痛いし、熱い。
 
風邪かと思って早めに帰るも体温計は平熱。
睡眠が足りてなかったのかと思いベッドに横になるも、眠れない。
 
次の日も出勤し、「休ませてもらったから、今日からはしっかり頑張らねば!」と気合を入れて開店を迎える。
ところが、お客さんが来店し「いらっしゃいませ」と声をかけた時に異変に気付く。
 
笑顔ができない……。
 
「これはいよいよまずいかも」
その日をやりきらねばという責任感で自分を奮い立たせつつも、やはり笑い方がぎこちないし、内心不安でいっぱいだった。
 
そんな日が続き、3月で店が移転する都合で一時閉店となることになる。
正直ホッとした。
 
家でできる事務の仕事をしながら開店準備をする日々。
忙しさに慣れきってしまっていたので、「私、こんなに仕事していなくていいのかな」と不安になることもありつつ、休みを享受していた。
 
新たに開店してからは、フルタイムではなく家でできる仕事をしながら、たまに日中に店に出て事務仕事を手伝っている。
 
そんな生活にしてから、ある人からこんなことを言われたことがある。
「本当に好きなことなら疲れない。楽しいから寝ずに頑張ることができる」
 
その時に、「ああ私は接客が好きじゃなかったんだな」と思ってショックを受けた。
今思えば、起き上がれなくなったのも体全体で仕事をするのを拒否していたのかもしれない。
 
笑顔で接客しているスタッフさんに自分を重ね合わせて感じたノイズ。
 
「私、楽しそうに接客している店員さんたちに嫉妬しているんだ」
10年接客をやっていても、心から接客を楽しめる才能がある人には敵わない。
尊敬と同時に嫉妬を抱いていることがわかって恥ずかしくなった。
 
「あれ、でも……」もう1つ違和感に気付く。
 
嫉妬する自分。
接客が上手くなりたいと思って、接遇セミナーにも行ったし、サービスに関する資格勉強もした。
それはなんで?
 
まだ新米の頃、人見知りで「いらっしゃいませ」くらいしか声をかけられなかった私に、お客さんが話しかけてくれた。
店員としてではなく、名前で呼んでくれたお客さん。
うれしかったのに、上手く話をつなげることができなくて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 
それからは、来てくれるお客さんに何かを返したくて、話し方をたくさん勉強した。
そうしているうちに、互いに名前を覚えてもらえるお客さんが増えた。
うれしかった。
 
「私は、お客さんに美味しい料理とともに楽しい時間を過ごしてもらいたくて、精一杯できることをしたいと思っていたんだ」
 
本当に楽しむことはできなかったかもしれない。
けれど、誰かのために10年間も頑張れたのは誇りに思っていいんじゃないか?
 
実は、今年お店に来てくれているお客さんの忘年会に呼ばれた。
店員としてではなく、私個人として呼ばれたのだ。
「本当に、頑張っていたよね。ありがとうね。また店に出ないの?」
今でも常連のお客さんにそう声をかけられ、少しうるっとした。
 
仕事を楽しめるのはベストだと思う。でも、楽しみ方も喜びの感じ方も人それぞれであっていいし、一面的には語れないもの。
私は私でとても大切なものを接客でいただいていたんだと、距離を置いてみて初めて知ることができた。
 
一生懸命にやっていることに無駄なことなんてない。
でも、辛かったら逃げてもいい。逃げた後にわかることもある。
もしかしたら思わぬプレゼントをもらえることもあるかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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