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メディアグランプリ

紅白を見て、僕は家族のもとに帰ってきた。


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記事:浦部光俊(ライティングゼミ・平日コース)
 
「紅白、見れなくたって知らないよ」 散らかり放題の子供部屋を見て妻が言う。
「だめ、だめ。すぐやるから」 急に真顔になった娘たち。すぐに立ち上がり部屋の片付けに取りかかる。ここ数日、年末が近づくにつれて、何度も見てきたシーンだ。
 
僕の娘たちは、紅白歌合戦の大ファン。年末が近づき、テレビでその話題が出るたびに、興奮具合はどんどんと上がっていく。当日は、テレビの前にかぶりつき。お気に入りの歌手に大騒ぎするのはもちろんのこと、大して知らない歌手の歌をきく顔は真剣そのもの、歌の間の余興に大笑いと、隅から隅まで紅白を楽しんでやろうというその姿勢はあっぱれだ。
 
彼女たちの興奮はそれだけでは終わらない。翌日からは、彼女たちの紅白研究(僕がそうよんでいるだけだが)が始まるのだ。
学校から帰ってくると「紅白のDVD、見ていい?」
おもしろいテレビ番組がないと「紅白のDVD、見ていい?」
眠れない夜も「紅白のDVD、見ていい?」
とにかく、ことある毎に紅白を見て、歌はもちろんのこと、出演者の登場する順番や、司会者や審査員のコメントまで憶えてしまう。
 
そんな彼女たちの様子を見ていたら、自分も子供の時、紅白歌合戦を楽しみにしていたことを思い出した。
 
大晦日、大掃除を手伝いながらも、心はそわそわと落ち着かない。今日は特別な日。早く、夜になって、みんなで一緒にテレビを見たい。いつもは早く寝なさいって言われるけど、今日はお父さん、お母さんと一緒のテレビを見ていられる。帰省しているおじさん、おばさん、いとことの会うのも久しぶり。みんなでワイワイおしゃべりをするのも楽しみだ。で、やっぱり一番楽しみなのは、お年玉。今年はいくらもらえるのかな。そんな風に思いながら過ごしていた。紅白歌合戦、それは年末、家族や親戚達と過ごす時のワクワク感の象徴だった気がする。
 
でも、そんな僕の記憶も小学校くらいでとまっている。中学に入る頃からだろうか、家族と過ごすよりも友達と遊んだほうがおもしろかったり、家族と一緒にいると、子供っぽいと思われるんじゃないか、なんて思ったり。次第に減っていく家族との時間。そして、それに比例するかのように僕と紅白との距離も遠ざかっていったような気がする。
 
「お父さんは、紅白、一緒に見ないの?」
数年前、娘たちに訪ねられたとき、一瞬、ドキッとしてしまったのを今も憶えている。
満面の笑顔の娘たちとは対照的に、僕の気持ちは冷めたもの。
「紅白なんて、無理矢理盛り上げているだけで、どうせ大しておもしろくないでしょ」
そんな風に思っていた。でも、娘たちの手前、そんな態度をとることもできず、「うん、いいよ。他に見たいものもないし」 そう答えた僕は、少し距離をとってテレビを見ていた。
 
「さあ、今年も紅白が始まりました」 アナウンサーの声がそう告げると、娘たちはいきなり大はしゃぎ。最初からエンジン全開、アクセルは踏みっぱなしだ。僕はと言えば、「よくもまあ、そんなに盛り上がれるな」なんて相変わらずの冷めた態度。「はあ、そろそろ寝ようかな」 席を立ちかけたとき、娘たちが急に話しかけてきた。
 
「お父さんも一緒に歌おうよ」
 
「えっ……」 見るだけならともかく、歌うのまでは…… 仲間にしないでくれ、と思ったのが最初の反応。でも…… ニコニコしながら話しかけてくる娘たちを見ていると、冷めた態度でかっこつけているのも馬鹿らしくなってきた。なんでも素直に楽しんだほうがいいだろうな。
 
「よし、一緒に歌おう」 とその後は、一緒に歌って、踊って、大笑い。あー、楽しい、と思ったときだった。
 
「帰ってきたんだね」 そんな声が聞こえたような気がした。「えっ?」 その声の正体を求めて耳を澄ます。
 
「おかえりなさい」 今度は、そう聞こえた。顔を上げ、周りの様子に目をやる。見えるのは、エンディングを迎えた紅白歌合戦、そして最後までやりきったという充実感あふれる娘たち。なんだろう、このシーン、どこかで見たような…….
 
声の正体を求め、目を閉じる。するとそこに浮かんできたのは、僕の子供時代。両親、兄弟、親戚たち、みんな、紅白を見て大笑いしている。
 
「そうか、僕は帰ってきたんだ」 静かな水面に落ちた一滴の水滴。その波紋が広がるように、その気持ちが僕の中にしみこんでいく。成長するに従って遠ざかってしまった僕と紅白の距離、それはとりもなおさず僕と“家族”との距離だったのかもしれない。そして、僕は今、“家族”の元に帰ってきたんだ、そんな風に思った。
 
「ただいま 帰ってきたよ」 ほんわかした気分に浸りながら、目を開くと、娘たちがこそこそ相談を始めている。
 
「紅白のDVD、明日何時から見よっか」
 
いいかげんにしろよ…… でも、どうせ自分も一緒に見ちゃうんだろうな、なんて考えていると、そこにはもう新しい年が訪れていた。
 
 
 
 
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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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