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メディアグランプリ

パジャマに見る理想の結婚生活


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:竹下 優(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
夫と一緒に暮らしたことがない。
出会って3ヶ月で結婚を決めたが、当時はお互いにひとりで暮らす家があったし、入籍して半年ほどは、夫が多忙で週末しか帰ってこなかった。そして半年後、結婚式を挙げ、さぁいよいよ夫婦として共に暮らすのだと思った矢先、夫は北の大地へ転勤となった。
 
「大丈夫、同じ大地を踏みしめて生きているよ」
 
驚きや落胆で言葉がない私に、夫は優しく声をかけてくれた。きっと、彼自身に言い聞かせてもいたのだろう。今なら目を潤ませて、そっと抱きつくこともできるけれど、当時の私にそんな心の余裕は無かった。
 
「いや、陸地、つながってないから」
 
それから2年あまり。正直、“別居婚”はすこぶる快適である。夫の来訪予定は事前に知らされているので、それ以外の日は気ままに暮らしている。仕事帰りに思い立って同僚と飲みに出かけても、家で録画していたテレビ番組を見ながら、スナック菓子とビールで夕飯を済ませても、誰にも気兼ねすることはない。
 
そんなに気ままな暮らしが好きなら、ずっとひとりでいれば良いと思われるだろうか。
否、結婚した今、この暮らしをするのが良いのだ。独身の頃は、気ままながらもどこか虚しさを感じたり、頭の片隅に「このままで良いのだろうか」と罪悪感を抱えたりしたものだ。ところが今では、虚しさや罪悪感なんてちっとも顔を出さない。代わりに、「寒くなってきたから、そろそろコートを送ろうか」「次に帰ってきた時には、好物の鶏手羽を煮ようか」などと、夫を思いやる気持ちがひょっこりと浮かんでくる。
 
そんな“ひょっこり”が膨らんだ頃にやって来るので、夫が我が家に滞在する数日間、
私の持てる全てのエネルギーは夫に注がれる。せっかく一緒に過ごすのだから、なるべく夫を視界に入れておこうとする。「むこうは寒くなかった?」「仕事は忙しい?」「きょうの夕飯は何が良い?」答える暇もないほど質問をたたみかけ、トイレとお風呂以外どこへでもついてまわる。我が家の台所はリビングと繋がっているので、夫と話しながら食事の支度だけはこなすが、別の場所に移らなければならない掃除や洗濯はそっちのけ。まるで母鴨について泳ぐヒナみたいだ。
 
その結果、夫が去った後に私を待ち受けるものは何か。家中の掃除と山のような洗濯物だ。夫の滞在でエネルギーを使い果たしているので、毎度途方にくれてしまう。けれどひとつ、またひとつと、とにかく無心で目の前の汚れ物をきれいにするうち、一歩、また一歩と私の日常が帰ってきて、終わる頃にはすっかり気ままな暮らしを楽しむ心持ちに変わっている。
 
しかし不思議なことに、この時間に“夫の存在”を濃密に感じるのも確かだ。思いもよらないところから空港の土産物のレシートが出てきたり、私のものよりずっと短い髪の毛がそこらにたくさん落ちていたり。ビールの空き缶やワインの空き瓶を袋にまとめると、毎度たった2人でよくこれだけ飲めたものだと呆れるけれど、確かに夜ごと大きな声で笑った記憶が甦る。山のような洗濯物の中から、夫のほつれた靴下を見つけると、遠く離れたところで、日々、雪をかきわけ歩きながら得意先を回る姿が目に浮んでくる。これが“気配”というものかも知れない。そう思いながら夫のパジャマを干していて、ふと気がついた。
 
「結婚生活って、パジャマみたいなものかもしれないな」
 
パジャマ。真新しいそれは、丁寧に暮らしているような、日々を慈しんでいるような気持ちになって嬉しい。けれど、うっかり歯磨き粉をこぼしてしまったり、寝ている間に汗をかいたりして、何度も洗うことになる。パジャマだから、わざわざ“おしゃれ着洗い”なんかしない。洗濯機でガシガシ洗う。面倒くさくて、柔軟剤を入れないこともある。もちろん陰干しなんかしない。思いっきり太陽の光にあてて乾かす。それを繰り返しているうち、ある日、くったりと身体に馴染む、唯一無二のパジャマへと姿を変えている。色あせ、生地もところどころ薄くなっているその姿は、決して人様に見せられるような代物ではない。だけど柔らかくて、私の身体に最高にしっくりきて、もう簡単には手放せない。
 
結婚生活も、同じなのではないだろうか。荒波に揉まれて、炎天下にさらされて。ふたりにはきっと、次から次へと思わぬ試練がやってくるに違いない。乗り越えていくうちに、関係はどんどんくたびれていくだろう。出会った頃の新鮮な気持ちも薄れるだろうし、互いの見た目も着古したパジャマのように緩んで、シミやシワも増えるはずだ。そんなふたりの生活なんて、人様に見せられるような物じゃあないだろう。けれどいつか、積み重ねられた生活が、何より自分に馴染んでいることに気がつく日がきっとくる。たいそうな物じゃあないけれど、その心地よさを手放すことなどできない。
 
まぁ、そんな甘ったるいことを考えている今この瞬間、私はひとりで気ままにスナック菓子とビールを楽しんでいるわけだけれど。
 
 
 
 
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2020-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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