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メディアグランプリ

私の仕事は、タイムカプセルを埋めること


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:竹下優(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「原爆と同じくらい酷い目にあうなんてねぇ」
キミエさんは涙をこぼした。
2人で坂の上から街を見下ろす。
泥に飲み込まれた家々。鉄の塊は、恐らく軽自動車だったものだろう。
目の前を、ブルーシートで包まれた、何かが通り過ぎる。
考えたくはないけれど、あれは、もしかしたら、人かもしれない……。
 
胸がつぶれるとは、この事だと思った。涙は出なかった。
私は、どうしてここにいるんだろう。
どうして、キミエさんと出会ってしまったのだろう。
 
2014年8月、広島市安佐南区。
19日夜から20日未明にかけ集中豪雨が発生。
山を背に、ひしめき合うように家が建つ街の、あちこちで地すべりが起きた。
74人が亡くなった、未曾有の大災害から2日後。
私は避難所に指定された、小学校の体育館へ足を踏み入れた。
 
「すみません、○○テレビです。こんな時に申し訳ないのですが、お話を聞かせて頂けませんか?」
炊き出しのカレーを食べている、おばあちゃんに声をかけた。
 
「私で良ければ。あなたのおうちは? 大丈夫だった?」
優しい声で返事をしてくれたのが、キミエさんだった。
 
「えぇ、私は福岡から来たので。
大雨の被害が酷くて、取材する記者が足りないと、広島の放送局から応援を頼まれたんです」
 
「あらまぁ!」と呟いた後、キミエさんは新聞の写真を指差した。
「これがね、私の家なんよ。坂の一番上。真っ暗だったけぇ、何も覚えてないけど、
どうにかこうにかここへ降りてきたんよ。でもねぇ、うちの周り、ぜぇんぶ、茶色くなっとるでしょう」
 
このあたりを、空から撮った写真だった。確かに、1軒を残して、周囲は全て泥に覆われている。
 
「でもねぇ、うちの前にも、横にも、家があったんよ……。だぁれも生きちゃないって聞いてねぇ……」
命からがら逃げ出したキミエさんは、知人宅に身を寄せるも、長年暮らした家の様子や
ご近所さんの安否が気になって、周囲の反対を押し切り避難所に戻ったのだという。
 
「明日、着替えを取りに帰るけど、一緒に来る?」
そう誘われた時、本当は気が進まなかった。
けれど、1人で帰らせるのはあまりにも惨いと思い直し、覚悟を決めた。
 
「ご一緒させてください」
 
炎天下、急勾配の坂をのぼる。
なにかが腐った臭いと、漏れ出たガソリンの臭いにむせこみながら、
キミエさんの背中を支えるようにして歩いた。
私なんかが、キミエさんの傍にいて良いんだろうか……。
 
当時の私は報道部に異動して2年、事件・事故の担当として駆けずり回っていた。
亡くなった人の写真を探したり、犯人の家族を取材したりしていれば
「血も涙もないのか!」と非難されることもあったし、怒鳴られるのも日常茶飯事。
心も身体も、正直、限界だった。
 
「今は誰にも会いたくないくらい哀しいだろうな」「家族に罪はないのに」
いつも躊躇い、後悔していた。この気持ちを誰かに分かって欲しかった。
けれど、取材相手に理解を求めることなど、出来るわけないことも分かっていた。
 
「着いたよ! これが、私の家」
夏空に映える、真っ白な家を、キミエさんが指差した。
 
「この家はね、死んだ夫が遺してくれたんよ。
坂はきついけど、上がりきった時の眺めには変えられんて、ここを選んでねぇ。
大変なこともあったけど、“原爆を生き延びたんじゃけぇ、大丈夫”ってねぇ」
 
そうか、キミエさんは、生きている間に2回も、一瞬で日常をなくす苦しみを味わったのか。
どうして、こんな優しい人が……なぜこんな目に……何かしてあげられないものか……。
 
 
―そうか、だから“取材”して形に残すのか。
 
 
「過ちを繰り返さない」「決して風化させてはならない」
果たして、どれだけの人がその言葉の本質を理解しているだろうか。
恥ずかしながら、あの瞬間まで“骨身に染みる”程の想いは無かったように思う。
 
悲劇は、惨事は、なぜ起きたのか。どうすれば止められたのか。
その後、どうやって人は立ち直っていったのか。
 
ひとつずつ整理し、伝え、遺していくこと。
それはすなわち、未来に生きる人たちを守るため、
“経験則”というタイムカプセルを埋めていくことでもあると気がついた。
そうすると、ずっと押し潰されそうだった心が、ほんの少し、軽くなった。
 
キミエさんのおかれた状況を、想いを、1人でも多くの人に知ってもらおう。
災害の犠牲になる人が少なくなるように。
事件も、事故も、話を聞かせてもらえないか愚直に問いかけよう。
自問自答の日々は続くけれど、気持ちの通じ合う人も、現れるかもしれない。
 
“使命”だとか、“正義”だとか、そんな大それたものではなくて。
私は、1つずつ、そっと、タイムカプセルを埋めていけば良いのだ。
 
あれから6年、私は報道の現場を離れ、キミエさんは坂を少し下りた所に住み始めた。
今もたまに、2人で慰霊碑に手を合わせる。
「覚えていてくれて、ありがとう」
笑いかけてくれるキミエさんが、今も私の原動力だ。
 
美談で終わりそうになったので。
実は1つだけ、後悔していることがある。
広島での取材時、用水路を掃除していた青年に「お姉さんもやりませんか?」と声をかけられた。
大量の泥をかきだすのは、見ているだけでも大変な作業だ。
しかし、ニュースの〆切を気にした私は、「また後で来ます!」とその場を立ち去ってしまったのだ。
結局、そのまま福岡へ戻って来てしまった。
 
あの、汗にまみれた青年は今、どうしているだろうか。
夏が来るたびに、あの時の非礼を思い出し、チクリと胸が痛んでいる。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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