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あなたがつい口にする言葉「ガラパゴス化」の大罪


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記事:岡 幸子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「ああ、またガラパゴス化って間違った使い方をしている」
 
旅先で日本のニュースをチェックしていた奥野さんが嘆いた。
奥野さんはNPO法人「日本ガラパゴスの会(略称JAGA)」の事務局長である。
2019年8月、私はJAGA主催の自然体験学習ツアーに参加して、ガラパゴス諸島へ来ていた。奥野さんはそのツアーに同行していた。
 
え?
何でダメなの?
よくわからない。
 
最初、そう思った。
 
「ガラパゴス化」は、2006年、日本独自の情報通信技術を批判する言葉として使われたのが最初だった。今ではスマホ(スマートホン)に対し、日本国内で特化した携帯電話(フィーチャーホン)を「ガラパゴス化した携帯電話」という意味で「ガラケー」と呼ぶのは当たり前になっている。
 
「確かに、大陸から孤立したガラパゴス諸島で独自の進化が進み、独特の生態系ができました。それが日本の一部の現状と表面的に重なって見えるのはわかります。でも、ガラパゴスは世界的に人類共通の宝だと考えられている場所ですよ」
 
ガラパゴス諸島は1978年、世界自然遺産第1号に登録されている。
世界にはガラパゴス独自の生物たちを否定的にとらえる考え方はない。
 
今の日本で「ガラパゴス化」は、「世界に目を向けず日本の中に閉じこもる状況」を揶揄するときに使われる。ガラパゴスに対する世界の評価はとても高いのに、「よくないことの例え」としてガラパゴスを引き合いに出すのは比喩として間違っている。現地の人に失礼である上に、日本人の生物多様性保全への理解不足を示すことにもなってしまう。
 
「だから、ガラパゴス化と言わないように、目についたときはJAGAの理事たちと抗議文を送ってきたんです。でも、全然効果がなくて……今はもう焼け石に水状態で諦めムードですよ」
 
知らなかった!
「ガラパゴス化」という言葉で嫌な思いをしている人たちがいるなんて!
 
奥野さんの話を聞き、実際にガラパゴス諸島をこの目で見たことで、ガラパゴス化という言葉の罪深さがよくわかった。
 
ガラパゴス化という表現そのものが、現地の人たちを傷つける。
だから絶対に使ってはいけないのだ。
 
「ガラパゴスって、人住んでるんですか?」
 
旅行前、同僚にそう聞かれた。
その時点では私も、ガラパゴス諸島について、ほとんどわかっていなかった。
調べてみると、なんと27,000人以上の人が住んでいた。エクアドル共和国に属し、大小100以上の島が九州本島くらいの広さに散らばっている。島々を全部合わせると静岡県くらいの面積になる(訪れた島には高校が5つもあった!)。ホテルもレストランもたくさんある。ガラパゴス旅行といえば、クルーズ船に泊まって無人島に上陸するイメージしかなかったので、ホテルに泊まることも意外だった。
 
到着してさらに驚いた。
ホテルは綺麗で食事は美味しく、清潔でとても治安のよいリゾート地だった。海岸近くの市街地をアシカが犬のように歩いたり寝ころんだりしていた。また、フィンチがスズメのようにどこにでもいた。食事が終わると、空いたお皿に舞い降りて残飯をつついたりする。朝の市場では、ペリカンが漁師さんのさばく魚の頭をもらいに集まってくる。絶滅危惧種のヨウガンカモメやグンカンドリも街中で何の苦もなく見られる。リクイグアナは小型ボートで上陸した無人島で見たが、ウミイグアナとゾウガメには島の色々な所で何度も出会った。しかも、ほとんど人を恐れない。
 
野生動物と人間が当たり前のように共存している。
本当に素晴らしい場所だった。
 
だから、何度も来たくなる。
今回のツアーに申し込んだ9名のうち3名が、ガラパゴス旅行のリピーターだった。二人はご夫婦で、かつての旅行でガラパゴスの魅力を知り、小学5年生の息子さんにもこの自然を満喫させようとご家族で来ていた。もう一人は新婚旅行で魅了されたガラパゴスに退職後、学生時代の友人を誘って再訪していた。
 
このように子供から大人まで、世界中の人に愛されるガラパゴスの自然保護政策は、エコツーリズムの成功例として多くの国がお手本にしている。
観光客には「動物に2メートル以上近づかないこと」など、守るべきルールがあった。居住区を除く国立公園内の観光は、各グループ16名以下と定められ、国家資格をもつナチュラリストガイドが引率する決まりもあった。
ガイド資格は、国立公園局が不定期に実施する試験を突破し、到達試験に合格しながら大学の養成コースを修了しなければ得られない。資格を得てからも、毎年研修が義務付けられている。国を挙げてガラパゴスの観光と自然保護に力を入れているのだ。
 
奥野さんは、ガラパゴスのナチュラリストガイドになるのが夢だった。
高校生向けの交換留学プログラムで1年間エクアドルに留学し、英語の他に公用語であるスペイン語をマスター。北里大学理学部生物学科を卒業後、東京大学の海洋研究所(現大気海洋研究所)で、生物の進化について研究した。ガラパゴスでガイドになるための専門性と熱意は申し分なかったが、1998年、特別法が施行され、島内の就労が原則永住権を持つ島民だけに限定されてしまった。外国人はその時点で5年以上住んでいれば永住権がもらえたが、奥野さんにその資格はなかった。
 
それでもガラパゴスへの愛は変わらず、2005年に伊藤秀三長崎大学名誉教授らと一緒にJAGAを設立した。以来、日本とガラパゴスの懸け橋として力を尽くしている。テレビ番組のガラパゴス特集の監修や、国会議員がガラパゴスを視察するときの通訳なども務めている。四姉妹の母でもある。
 
「私は現地の人にどうしても『ガラパゴス化』を説明できません。申し訳なくて。例えばエクアドルで『富士山化を避けよ』とか『富士山にはなるな』なんて言われていたら、日本人としてとても残念ですから」
 
ああ、その通りだ。
エクアドルの人々は、ガラパゴス諸島の自然をとても誇りに思っている。
日本人が富士山を誇りに思うのと同じように。
 
ガラパゴス化という言葉は、北俊一氏が論文「日本は本当にケータイ先進国なのか ガラパゴス諸島なのか」(2006年)で使ったのが発端である。翌年出版された「2015年の日本」で吉川尚宏氏が“日本が独自進化して世界から逆にかけ離れてしまう現象”と定義し、講演活動などで広めたそうだ。
その後、朝日新聞が社説の見出しに「『ガラパゴス』脱し世界へ」とつけたり、元東大総長らによる有志が日本の国会のありさまを「ガラパゴス状態」と揶揄するなど、使われ方も広がった。JAGAはその都度抗議したけれど効果はなかった。
 
皆、悪気はないのだろう。
 
言われたらガラパゴスの人が嫌な思いをするなんて、考えたことがない。
他の人も使っているから、自分も同じように使う。
 
これって……
加害者意識のないいじめにそっくりだ。
言われた方が嫌な思いをしていても、言っている方には悪気がない。
傍観者も同じ。
被害者が辛い気持ちを訴えても
「嫌がっているとは思わなかった」
と軽く言う。
相手の痛みがわかっていない。罪深いことだ。
 
ガラパゴス化という言葉が、ガラパゴスを傷つけるいじめになるとは私も知らなかった。
ずっと傍観者だった。
でも、この先、絶対に使わない。
傍観するのをやめ、できるだけ多くの人に、この言葉を使ってはいけないことを伝えたい。
 
どうか、ガラパゴス化という言葉が死語になりますように!
 
 
 
 
***
 
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2020-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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