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メディアグランプリ

全然思い通りの髪型にならなかった最高の美容室


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:さかの(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
髪の毛は女の子命。
前髪の調子が良い時は一日気分がいいし、雨で髪がうねる日は一刻も早く家に帰りたい。
「めんどくさいからお風呂に入りたくない」はお風呂そのものがめんどくさいのではない。お風呂に入ってかつ睡魔に襲われながら髪の毛を翌朝の身支度に支障が出ない程度にしっかり乾かすのがめんどくさい。
男友達に「髪の毛何もしてない方が可愛いのに、なんで女子ってすぐ結んだり編んだりするの?手間かけてアレンジするより自然な方がいいよ」と言われたことがある。てんでわかっていない。結んだり編んだりするのは、「何もしていない自然な」ヘアスタイルを作る余裕がない朝の時短作業である。
 
・極力長持ち
・セットが楽
・「お洒落に気を遣ってます」感が出る
 
この3つをクリアするヘアスタイルを私は常に模索している。
たかが髪の毛に美容室で10,000円以上かけるのは、女子は髪の毛ひとつで日常が大きく変わることを知っているからだ。うまくいけば幸せになる魔法だし、失敗すれば恐ろしい呪いだ。服や靴なら、気に入らなければ身につけなければいい。しかし、髪の毛はそうはいかない。代わりの効かない、たったひとつの自分の頭をまるごと任せるのだから、美容室は慎重に選ぶ必要がある。
 
実家暮らしの時は、母の友人が営む地元の美容室に通っていた。私の母校は中高一貫のいわゆる「なんちゃって進学校」で、校則が吐き気がするほど厳しかった。
 
パーマやカラーはもちろん禁止、眉より長い前髪は切るか留める、肩につく長さの髪は結ぶ、シュシュは禁止、使っていいのは黒のアメピンと黒のヘアゴムだけ、髪を結ぶ位置は耳より下、おだんごは禁止、三つ編みは可、編み込みは不可……(以下略)
 
一体誰の得になるのかもわからない地獄のような規制の中で過ごしてきた私は、
高校を卒業した18歳の春にようやく「髪型の自由」を手に入れた。
 
しかし、自由には失敗がつきものである。
大学1年生の頃はとにかく失敗の繰り返しだった。
大学デビュー感満載のコテコテの茶色になったり、強すぎるパーマでぐるんぐるんの縦ロールになったり。お金がなかったので、「初回割」を使いたいがために美容室をコロコロ変えた。ただでさえ人見知りの私は、初めての美容師に自分の要望を的確に伝えることができるはずもなく、いつも65点ぐらいの仕上がりだった。よく街中で声掛けをしている若手アシスタントに格安で切ってもらったこともある。打ち合わせ不足で想定を遥かに超えるショートヘアになってしまい帰り道で泣いた。
 
「完全に自分の思い通りの髪型にするなんて、無理なのかもしれない」
半ば諦めかけていた時、転機が訪れる。
 
私はいつも通り、初回割引の美容室を訪れた。
恵比寿のはずれにあるこじんまりとした美容室。私はおしゃべりで陽気なカナイさんという美容師に担当されることになった。美容師と話すのが苦手な私は、かなり緊張した。
 
「こんな感じで…」
私は用意してきた写真を差し出した。大抵の美容室では、2、3質問された後すぐに施術に移る。しかし、カナイさんは違った。
 
「なるほどね、この写真みたいにしたいのね」
「バイトとか明るくて平気?」
「流行りの色だけど、これにすると就活の時戻すの大変だよ」
「美容室にはどのくらいの頻度で通ってる?」
「前髪っていつもどっちに流してる?」
「どんなスタイリングが好き?」
 
他の美容師とは質問の数がまるでに違う。写真で完結しない。かれこれ30分は話している。
加えて、ものすごくアルバイトや就職活動の心配をされる。髪の毛だけで社会が回っていないことを熟知している。美容師なのに、髪の毛至上主義じゃない。
 
「よし、じゃあやってみよう」
 
カナイさんがカットを始めたのは、入店から1時間経過した頃だった。
 
いつもとは全然違う。もしかしたら、今日は理想の髪型になれるかもしれない。
 
私は淡い期待で胸を膨らませた。
しかし、その期待は大きく裏切られることになる。
出来上がった髪型を見て、私は愕然とした。
 
「こんなはずじゃなかった」
 
そう思うのは、大抵の場合、色が明るすぎた時、切られ過ぎた時、巻かれ過ぎた時、つまりは「変わり過ぎた」時である。しかしカナイさんの場合は一味違う。
 
変わらな過ぎた。
 
たしかに、髪の長さはオーダー通り短くなっているが、髪色に関しては染める前とほとんど一緒だ。ショックを通り越して、思わず笑ってしまった。長時間のカウンセリングして、考えに考え抜いてもらった上で、ほとんど変わらない髪型を提供されたことがなんだかとてもおかしかった。
 
「ちょっと変わらなすぎるんで、もう一回お願いします」
私は初めて、同じ美容室でもう一度お願いをした。
 
「変えすぎる」美容師より、圧倒的に信頼できる。
なぜなら、カナイさんは私の話をこれでもかというぐらい、しっかり聞いている。
あのカウンセリングの上で結果がこれなら、多分私のオーダーが悪い。心のどこかで迷いがあったのだろう。カナイさんはおそらく、私の迷いを敏感に察知し、間違いのない髪型を提供してくれたのだろう。
 
変にアレンジを加えられるより、よっぽど誠実で、清々しい。
彼になら、もう一度お願いしてみたい。
私は素直にそう思った。
 
「あ、やっぱり? 昔から俺、初めてのお客さんだと慎重になりすぎるところがあって。よしわかった。もう一回やろう。今度は俺も遠慮しないから、さかのさんも遠慮なく言ってね」
 
それから、私たちは綿密な打ち合わせをし、再チャレンジをした。
二度目のカナイさんの施術は、完璧だった。文句なしの理想通り。
仕上がりを確認した瞬間、思わず二人でガッツポーズをした。
 
人見知りの私が、諦めずコミュニケーションができたのは、間違いなくカナイさんのおかげである。仕上がりと同じくらい、それがとても嬉しかった。
 
それ以来、私は現在まで5年間、ずっとカナイさんの美容室に通っている。
 
 
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2020-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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