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恋に自信のない人へ


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記事:東ゆか(リーディング倶楽部)
 
 
飲み会の席で、恋愛において百戦錬磨の知人が「セックスそのものよりも、『これはもうしちゃうんじゃないかな』っていう雰囲気のときが一番楽しい。その瞬間に一番『恋』を感じる」と話していた。
 
自分でひけらかすことはないが、彼女はいつでも不特定多数の「仲の良い」男友達がいる雰囲気を漂わせていた。それを知ってか知らずかな周りの女子たちが、「そんなの違うと思う」と言いたげに一瞬目をジトッとさせたのを見逃さなかった。
 
彼女はそんな「恋」の瞬間を得ることから逃れられないらしい。
 
さて私はというと、人並みに恋愛経験を積んで、結婚もせずにくっついたり別れたりを何度か繰り返すうちに、次第に恋愛がめんどくさいもののように思えてきた。
 
現在34歳だが、この歳になって出会う異性は大抵が結婚しているか、「もうすぐ結婚するんです」というような人ばかりになる。
そうすると「この人素敵かも……」と思った淡いときめきは早々に打ち破られる。
ほんの一瞬でもときめいた自分が恥ずかしく、惨めで叩き潰したくなる。
もう「恋がしたい」なんて言いたくなくなってしまうのである。
 
読む本、観る映画も、最終的には恋が叶わなさそうなものを無意識に選んでしまうようになった。観終わったあとに「やっぱり恋ってめんどくさいよね。やめておこう」と思うためだ。
 
そんな枯れた中で読んだ本が『ボーイ・ミーツ・ガールの極端なもの』(山崎ナオコーラ・イースト・プレス)だ。
複数の主人公が登場する連作短編集である。
『ボーイ・ミーツ・ガール』というと初恋の代名詞なので、本書も淡い初恋が散りばめられた桃色の物語なのだと思っていた。
 
恋愛において枯れ果てた生活を、それで良しと思いつつも若干の心残りがあったのだ。たまには桃色のエキスを吸う必要があるのかもしれないと思い手に取った。
 
まず最初の1編目から衝撃的だった。
タイトルが『処女のおばあさん』である。
主人公は72歳の女性だ。一度の交際経験もなく、もちろん結婚もしないままその歳まで生きてきた。
人生のエンディングを意識するようになった彼女は「終活」の一環で、「エンディングノート」を綴り始める。
 
エンディングノートを前に「生きるのは楽しいが、人生について書くことがない」と感じる彼女は「私の人生には、昼の輝きがなかった。生まれてから死ぬまで、ずっと夜だった」そう独り言を言って、「恋」という漢字一文字をノートに書く。
なんとも寂しい光景だ。
 
そんなボーイ・ミーツ・ガールを知らずに生きてきた彼女にも淡い恋が訪れる。
 
タイトルを読んだときは「おばあさんに恋なんてできるのだろうか。彼女が傷つくのならとても読んでいられない」とハラハラした。
しかしそんな不安をよそに、彼女の初恋は瑞々しく、思春期の少女の初恋と変わらぬ清純さがあった。しかも生命力にあふれて、冒険心に満ちた若者の初恋とは違って、72歳という彼女が培ってきた人生からくる慎ましさも持ち合わせている。
 
瑞々しさと慎ましさ。
若者の初恋のイメージが、炭酸が弾けるような三ツ矢サイダーだとすれば、このおばあさんの恋は、しっとりとした6月の紫陽花の朝露のようである。
 
こんな風に意外性のある初恋ストーリーが進んでいくのかと思いきや、小さな視点を通して社会を描くことをテーマとしている山崎ナオコーラの作品である。一筋縄ではいかない。
 
一見すると初々しさや、純粋な「ボーイ・ミーツ・ガール」のイメージにそぐわなさそうな多種多様な形の、タイトルを借りるとすれば「極端な」初恋ストーリーが展開されていく。
 
「野球選手と結婚する」という夢を持って、管理栄養士の資格取得を目指す大学生。
子育てが終わり、憧れのデザイナーとの恋が始まる女性。
動画サイトで観る、アイドル全盛期時代の松田聖子に恋する引きこもり男性。
「さよなら」を言えないために、どの女の子とも別れられない男子大学生。
死後に妻との愛を深める男性。
異性愛者とLGBTの女性との三角関係。
肉体関係を求めないプラトニック・ラブの関係。
 
本書には全編を通してサボテンが登場する。
恋というと贈り物になったり、恋愛を意味する言葉を持つことから「花」の方を連想しがちだが、本書で選ばれたモチーフはサボテンなのである。
多種多様なサボテンが登場し、それぞれが物語の登場人物のモチーフとなっている。
 
なぜサボテンなのか。
サボテンは成長速度が遅く、生育状況や環境によって様々な形に変化し、個体ごと個性的な形に成長する植物だ。
 
人間もサボテンと同じぐらいに多種多様な人々が存在している。そして、何と出会うか、誰と出会うかによって人生は大きく変化する。同じ社会で生きる「人間」であるはずなのに、それぞれの人生の形は異なっている。
 
「人生」に対して「恋」は限られた時間しか咲かない、刹那的なものを連想する。人間が一つのサボテンだとすると、恋は人生をどう形作るかを決める一つの通過点なのだろう。
 
しかし、どうせなら綺麗な形に成長したいと願ってしまうものである。
するなら普通の恋愛、きれいな恋愛が良いと望んだり、そうでないことに不安を抱いてしまう。
また『処女のおばあさん』のように恋愛経験がないことについて引け目を感じてしまう人もいるだろう。
 
そんな私たちの不安を打ち消すように、登場人物の一人である俊輔は同性愛者の男性からのプラトニックな感情を感じてこう話す。
 
「これまでの俊輔は男女が対になることを恋愛と言うのだと思い込んでいた。しかし振られたって恋だ。想いを伝えられない片想いだって恋だろう。同性に恋をする人もいる。ひとりではなく何人もの人に恋をする人だっている。言葉も体も交わさない恋もある。絶対的な恋なんてない。ひとりひとりの、個人的な恋しかないのだ」
 
絶対的な恋なんてない。
セックスの前でないと感じることのできない私の知人の恋も、意識して遠ざけようとしている私の恋も、それも一つひとつの個人的な恋なのだろう。
 
完全にフリーな人にときめきたい。いい年だから結婚につながる恋がしたい。そうでないと許されない気がする。そんな風に思っていた私だったが、どんな恋でもやっぱり素敵なことなのかもしれない。
 
私というサボテンは今どういう形をしているのだろうか。どんな出来事がどんな形に変えてくれるのだろうか。
久々に恋をするのもアリなのかもしれないと思ったのであった。
 
 
 
 
『ボーイ・ミーツ・ガールの極端なもの』(山崎ナオコーラ・イースト・プレス)
***
 
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2020-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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