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奇跡は手繰り寄せられる――大自然のなか失踪した愛猫を探して


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:美美NIIRO(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「あんた、ネコ探してんの?! もうとっくにキツネに喰われて死んでるわ!」
「そうかもしれません。だけど、まだ生きてるかもしれない。お願いですから、このチラシを貼るだけでも協力していただけませんか?」
 
数年前、北海道北部の過疎の町にあるキャンプ場で、わたしは愛猫とはぐれてしまった。
周囲は深い森。大きな昆虫、シカ、ウサギ、キツネ、そしてクマ……
あるのはキャンプ場とダムの管理事務所くらいの人のいないエリアだ。
 
雪から解放され花と新緑が美しい5月、夫のつかの間の休日に合わせ、わたしは愛猫ぴりかを伴ってキャンプに出掛けた。
どうしても家に置いて行けなかったのだ。もちろん、連れて行くことに不安がなかったわけではない。だから、入念に準備した。他の場所で何度か経験も積んだ。飼い猫と一緒にキャンプをする知人は「慣れる、キャンピングカーなら大丈夫だ」と言った。それを信じた。
 
思い描いた都合のいい想像が不安に勝り、ぴりかを連れて行ってしまった。
そして、現地で悪い偶然が重なり、彼女は失踪した。
 
獣医師や保護団体関係者の中には、「身勝手な人間が不幸な猫を増やした」と言わんばかりの人もあった。保護できると思っていた人は皆無だったと思う。
 
失踪から数日は、泊まりこんで捜し歩いた。笹薮を這って探した。
しかし、手がかりがなかった。
5月だというのに雪まで降った。何もかも絶望的だった。
それでも諦めないと誓った。
それが、わたしにできる唯一の償いだと思ったからだ。
 
現地は、自宅から片道200kmの遠隔地。降雪期の11月以降はキャンプ場も閉鎖される。
秋になると、時折、猫を置き去りにする人があるという。
キャンプ場の管理人さんは「冬を越せた猫はみたことがない」と言った。
 
半年間で保護できなければ、ぴりかの命はない……
休日返上の「通い捜索」がはじまった。
 
困難だったのは、猫捜索で鉄則の「置き餌」ができないことだった。
クマを含む野生動物を餌付けしてしまう可能性が高く、危険だからだ。
 
わたしは「置き餌」の目的を考えた。
食べさせるため? ちがう。再会の確率を高めるためだ。
ならば、他の方法を使おう……そう考えた。
 
戦略は以下の4つだ。
 
1. 猫の生態や行動パターンを理解しておく
2. 現地の自然環境、餌場となる可能性のある場所を猫目線でおさえておく
3. 人の注目を絶やさない
4. 諦めない
 
このなかで、比較的簡単なのは1と2だ。情報も溢れているのでここでは省こう。
問題は3と4なのだ。二つとも単純なことだが継続が難しい。
とくに、注目を絶やさない工夫は、土地に合った方法が必要だ。
twitterなどで情報を拡散するのが定番だが、それに頼るだけでは保護が難しいケースもある。
 
わたしの場合、失踪地点を含む町には高齢者が多かった。ネット情報よりも古典的なうわさ話の方が確かなくらいの地域だったのだ。
飼い主が本気で探している「姿」を見せることが大切だった。
 
人の視線は、猫を保護する網を編むための「目に見えない糸」だ。
その視線を絶やさないためには、猫に少しでも意識を向けてもらう必要がある。
そのために活用するのがチラシだ。
チラシは集落を中心に貼り、民家は訪問して手渡したりもした。
田舎はドライバ-に見てもらう必要もある。失踪したキャンプ場付近の電柱や、公共の駐車スペースにも集中的に貼った。
 
定期的な貼り換えで「まだ探してますよ」という態度を見せることも重要だ。
 
仕事をしながらだととてもきついが、チラシ貼りを機に顔の見えるネットワークを創ったほうがいい。
貼る場所の許可を得る過程で、想定外の場所とつながりが出来たり、強い関心を持ってくれる人が現れたりするものだ。それが自らを支え、捜索活動を支えてくれる。
 
例えば、駐在所の理解を得たことは、長期捜索の危機管理にもなった。
現地の新聞に公告を出したとき、警察官が助言をくれた。
 
「電話で、ネコを保護していると言われたら、一人で行かずに警察に一報入れなさい」
 
犯罪被害に遭わないための配慮だ。とても心強かった。
 
もう一つ心強かったのは、犬や猫の殺処分に関わる保健所の獣医さんだ。
必死で探し続けるわたしにとても理解を示してくれた。
これが、後々、心情的な支えになった。
 
現地入りしての長期捜索は、いいことばかりではない。
捜索をはじめて2か月、3か月と時間が過ぎると、現地の人は目をそらすようになった。
声をかけると「ごめんね、何も情報がないの」と謝られることもしばしばだった。
「まだ探すのかい?」「もう死んでるかもしれないよ」とも言われた。
「あんたのこと飼い主だと思ってないから逃げたんだよ」とキャンパーから笑われたこともあった。
 
折れそうになる心を抱えているとき、キャンプ場の管理人さんと保健所の獣医さんからの小さな気遣いは活力を与えてくれた。心底ありがたかった。
諦めない心は、人の注目を絶やさないのと同じくらいに難しいことだ。
 
好意的に接してくれる理解者が減り、関心が薄れて行く中、春が過ぎ、夏が過ぎた。
キャンプ場の閉鎖まで残すところ一か月余り……
その頃、変化が起きた。
キャンパーからの目撃情報が増えたのだ。
 
おかげで、生存を確認することができた。
 
目撃情報を頼りに訪れた夜のキャンプ場。
夜明け前になり、諦めかけた頃、物陰から動物が現れた。
一瞬ゾッとした……が、ぴりかだった。近づくと、彼女は驚いて逃げた。
 
「どうしたの? わたしのこと、忘れちゃったの?」
 
彼女は立ち止まり、足早に引き返してきた。
そして、わたしの指先のニオイを嗅ぎ、スリスリした。
保護の可能性があることを確信した瞬間だった。
 
「生きてたんです!」
 
わたしは、現地のみならず、地元の知人にも電話した。
当初、現地を見て諦めていた知人は驚嘆し、つながりのある保護団体にかけあって猫専用の捕獲器を準備してくれた。
現地の人たちの関心と協力も戻ってきた。
 
10月、捕獲器を借用して現地入りした。ラストチャンスだった。
 
夕方、キャンプサイトに姿を現したところを保護しようとしたが、至近距離で失敗。
かたずをのんで見守っていたキャンパーたちがため息を漏らした。
 
その後、捕獲機を広範囲にしかけ、夜を徹して見まもった。
 
朝方、センターハウスの裏手にしかけた捕獲器で、保護に成功。
誰もが無理だと確信した捜索活動が、無事保護というかたちに終わった。
 
当事者として振り返ると、経験のどれ一つ欠けても保護できなかったと思われてならない。
小さな関心をたよりに、必要な要素を手繰り寄せることができたなら、奇跡は起こり得るのだ。
 
愛猫を失ってはじめて知ることだが、世の中には何年も探し続けている飼い主さんのなんと多いことか……。
生きているか死んでいるかもわからない喪失は、想像以上に辛いものだ。
 
もしも愛猫を探す人に出会ったら、小さな関心を寄せるだけでも力になることを思い出してほしい。
奇跡は、その現象に接した人達の関心の結晶として現れるものなのだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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