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メディアグランプリ

父のテレビ好きのわけ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:しお(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「ごめん、プレゼントだけでなんとかなると思ってたけど甘かった」
「なんか考えとけばよかったね」
「普通はそんな計画練らなくても2時間とか話せるらしいけどね。ネットでみた感じ」
「うち普通じゃないからなあ」
 
チョコケーキを一人ほおばりながら、妹と反省のチャットを交わし合う。このたび私たち姉妹が企画した、母のオンライン誕生日会の件である。
久しぶりに家族4人が集まったのに、まさか10分も持たずにお開きになるなんて。
交わした会話はといえば、「おめでとう」と、最近の暑さの話だけ。父に至っては、最初から最後まで一言もしゃべらなかった。
画面越しに一緒に食べようと思って買ってきたケーキは、冷蔵庫から出す機会もなく終わった。
 
まさか……?いや、私も妹も、こうなることはなんとなく予想できたはずだった。オンラインで集まるという新鮮さに舞い上がって忘れていたけれど。
「普通じゃない」うちの家族が、お互いの顔しか見えない環境で盛り上がれるわけなかったのだ。もちろん、オンラインゆえの空気の読みにくさや話しにくさはある。でも、今回のは、それ以前の問題だろう。
 
「やっぱりテレビがないと……」
 
約10年前の誕生日、小学生だった私は提案してみたことがある。
「今夜ケーキ食べるときは、テレビつけないでおこうよ」
それぞれテレビを見ながら、黙々と食べ物を口に運ぶ。そんな日常の光景に、誕生日の特別感が飲み込まれてしまうような気がして、寂しくなったのだ。誕生日ぐらい、みんなで話す時間を大切にしないと。
しかし、提案は父の一言であえなく却下された。
「なんで。葬式みたいな空気になるだろ」
 
それから約3年後。地デジ化で我が家もテレビの買い替えを余儀なくされた。
両親が買ってきたのは、ブルーレイが見られる65インチの大画面テレビ。なんとも似合わない。なんでも最低限で済ませるのがうちの常識なのに。
「こんなデカいのにしたの」
「ねえ。もう一回り小さいのでいいんじゃないって言ったのに、お父さんが」
 
その年の大みそか。
金曜ロードショーでやっていた「借りぐらしのアリエッティ」を録画したので、みんなで見ようと父が言い出した。「夜はアリゲッティみるぞ」と、アリエッティをもじって機嫌がよさそうだった。
しかし、夕飯が終わっていざ再生すると、映像は冒頭数分のところで止まってしまった。
「えー、撮れてないじゃん」
「あんなに昼間からアリゲッティアリゲッティ言ってたのに」
「あーあ、すねて寝ちゃった」
 
気まずいオンライン誕生日会をきっかけに思い出した、途切れ途切れのシーン。そういえば、今回一言もしゃべらなかった、何を考えているのかよくわからない父は、要所要所でやたらテレビにこだわっていた。
 
うちのコミュニケーションには、第三者が必要。私たちは今回の誕生日会の大コケでそれを痛感したわけだが、父は、ずっと前から自覚していたのではないだろうか。
 
弱みを見られたくないから余計なことは話さない父、父に似て頑固な私。お人好しでいつも他人優先な母、母に似て我慢しがちな妹。
外ではそれなりにうまく人付き合いをやっていても、その内実、私たち4人にとって、会話で自分を見せることは、かえってストレスになるものだった。
両親が仕事の愚痴を言っているのを聞いたことがなかったし、私たち娘は娘で、学校であったことはあまり話さなかった。父も母も、理由はわからず突然機嫌が良くなったり、悪くなったりした。私たちが学校でどうしているのかは、友人のママたちを通して知っていたようだった。
 
家族にすら、いや家族だからこそ「心配されたくない」「知られたくない」。そんな自己保身と思いやりの混ざった気持ちが、霧のようにモヤモヤと立ち込めていた。
霧が特に強いときは、すぐ隣にいるのに、お互いの顔すら見えなかった。地雷になるのが怖いので、誰も会話のタネをまこうとしない。
でも、話さない限り、霧は消えない。
 
思えば、父がテレビにこだわったり、DSのソフトや漫画を大人買いしてきたり、突然遠出しようと言い出したりしたのは、霧の強さに、みんなが疲れてきたタイミングではなかっただろうか。
 
家で勉強ばかりしていた私にドラクエを通して「友達や趣味をもっと広げなさい」と伝え、クラブチームでベンチ温め係だった妹にスラムダンクを通して「もっとガツガツしなさい」と伝え、家事とパートで余裕がない母にドライブを通して「たまには外食もいいじゃないか」と伝える。そういう無言のメッセージに加えて、もう一つ、父がエンタメに託していたのが、会話のタネまき係だったのだと思う。
 
「踊る!サンマ御殿‼」の視聴者VTRを見ながら、「うちのクラスにもこういう人がいてね」と話し出したり、「下町ロケット」を見ながら「こういうの憧れたなあ」と、エンジニアとしての父の一面をみたり、母が洗い物の手を止めてCMにくぎ付けになっているのを見て「お母さんジャニーズ好きだよね」と聞いてみたり……
改まって大切な話や本音を家族と交わした覚えがないのは、テレビを見ながらの、こういうささいな会話でお互いのことを知り合っていたからかもしれない。
 
それは、家族として情けないことだろうか。
オンライン誕生日会で会話が盛り上がることを期待した私は、テレビを消してケーキを食べようと言ったあの頃から、ずっと、思ったことは気軽に言い合える、朗らかな家庭を思い描いていた。うちもそうあるべきだし、それが「普通の」家族だと思っていた。
 
普通の家族って、何だろう。みんながありのままいられること。
話すことが苦にならない人たちが集まった、私が思っていた理想の家族も、この世にはたくさんあるだろう。でも、うちはそうじゃなかった。テレビや、ゲームや、漫画や、レジャーに取り持ってもらいながら、ぎこちなくも霧を晴らすために向かい合っていく方法が、うちには合っていた。
 
オンライン誕生日会は失敗だったけれど、うちなりのコミュニケーションを模索していた父の努力に、はじめて思いをはせることができた。理想を押し付けるだけで自分は何もしてこなかったことへの反省も込めながら。
 
今年の大みそかは、懲りずにオンライン映画視聴会を企画してみようか。作品はもちろん、「借りぐらしのアリエッティ」で。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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