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親子の絆は土の下に


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記事:冨田裕子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は、自分の父親が苦手だ。嫌いというわけではないが、好き、という言葉は全く当てはまらない。育ててもらったことには感謝しているし、愛情を注いでもらってきたと感じている。大人になった私は、結婚して家庭を持ち、父は老いて、この先は私が支えてあげることも増えていくだろうし、そうしたいと思う。
 
しかし、苦手だ。
 
人は、自分と同じ短所がある者に嫌悪感を持つと言われている。残念ながら、私には父と同じ短所があるのだろう。
 
私が父を苦手だと思う理由はいくつかある。まず、すぐ怒ること。ティファールをはるかに超える瞬間湯沸かし器だ。しかも、その怒りの理由は、彼だけの狭い価値観によるものであり、周りで見ていて、「そんなに怒らなくても」「それ、怒ることか?」ということもしばしば。そして、その怒り方。突然大きな声を出したり、乱暴な言葉でその怒りの対象をこけ下ろしたりする。彼の怒りに接するのは、とても苦痛だ。その時に露呈する、自分だけが正しく他が間違っている、自分が優れていて他が劣っている、俺が教えてやる、という優越感も、嫌いだ。
母のことも心配だ。私も妹も巣立った今、父と母の二人きりで、家族4人分の家で暮らしている。母は人が良く、滅多に怒りを表に出さず、平和を愛し、大きな音を聞けば、「きゃあ」と泣きそうな顔でびっくりしてしまう。そんな母が、父の怒りに誰よりも多く接しているというのは、娘としては心配だ。烏骨鶏だったら、とっくに死んでしまっているのではないか。父に対し、大切な母の命を縮めている奴、という感情もあるのかもしれない。
 
そのような父の苦手要素を、自分も持っていることを、薄々感じている。事あるごとに、人を批判的に見て判断していたり、自分と違う意見や感覚を、自分より劣ったものと思ったり。ハッと気付いて、慌ててそう思わないよう心を入れ替えようとするが、自然とそうさせるものが、確かに私の中にある。自分が必死に抑え込んでいるものを見せられるから、父のことが苦手なのだ。父のせいで自分はこうなった。自分は努力しているのに、なぜ父は努力どころか、気付きもしないのだろう。
 
父にも良いところはある。真面目で頭も切れて、学校の勉強や人間関係の悩みなどを相談すると、良いヒントや本質を突いた答えを教えてくれた。情も厚いほうだと思う。母も、そこには一目置いている。
しかし、成長した私は、父のような瞬間湯沸かし器と生活をするのは絶対にご免だったので、とても穏やかな男性と結婚した。母も、「お父さんはいい人だけど、生まれ変わったら、〇〇さん(私の夫)みたいな穏やかな人と結婚したい」と言っている。私も、そうしてもらいたい。
私の2つ下の妹も、父に対し、おそらく同じ思いを持っているのだろう。私の夫よりも、さらに穏やかな男性と結婚した。そして私のように、父と同じ気質をもっており、とても努力して、日々の平和を守っている。
 
つくづく、父が苦手だ。
しかし、私は不幸ではない。
 
10年ほど前の些細な出来事だった。
 
母方の祖母が92歳で亡くなり、親戚一同が葬式に集まった。
既に祖父も他界しており、母の兄妹が手分けをして会を取り仕切っていた。祖母を送ったあと、斎場の一室で、みんなでお菓子をつまみながら、お茶を飲んでいた時の事。母にはほかに3人の兄妹があり、それぞれが家庭を持っていたので、部屋に並んだ長テーブルに家族単位で分かれて座っていた。遠くから来てくれた祖母の親戚や、親しかったご近所様のグループもあった。
母は斎場の人と話をしたり、親戚のテーブルに挨拶に行ったり、せわしなく動いている傍ら、私と妹と父は、長テーブルに座って、世間話をしていた。私も妹も、家を出ていたので、最近何をしているとか、昔の話とか、他愛もない話で時間をつぶしていた。
しばらくしてふと気づくと、私達3人の手元に、同じものが出現しているのだった。他のテーブルには無いものだった。
それは、自分が食べたおかきやチョコレートの包装を結んだもの。一度平らにして、平らに細長く折り、ちょうどよい太さになったところでくるっと結び、結び目はきれいな5角形になっている。
私の前にも、妹の前にも、父の前にも、まったく同じ形のものが数個ずつ置いてあった。
 
お菓子を食べたら包み紙を結ぶという躾があったわけではない。この結び方を教わった記憶もない。でも無意識に、私も妹も、父と同じものを、いくつもこしらえていたのだった。
 
私は可笑しくなったが、それを2人に言って「やっぱり親子だね」というのは大袈裟な気がして、しばらく3人の手元を見比べて、そのまま何も言わなかった。嬉しいわけではないが、ほっと安心した気持ちになった。親子がただ繋がっているという事実がそこに現れているような気がした。
 
父のことは苦手だ。でも、そんなことに関係なく、父とは繋がっている。私の思考や感情を超えて、大きくどっしりしていて、ありがたいことだと感じる。それはまるで、地上に出ている分をどれだけ伐採しても、すぐに再び芽を出す竹の地下茎のよう。親子の絆とは、ひんやりとした土の中に、静かに埋まっているものなのかもしれない。
 
***
 
 
 
 
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2020-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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