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みかん味のアップル、アップル味のみかん


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:一柳亮太(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「そりゃ兄さん、いま兄さんが飲んではるラムネ、なんでラムネというか答えられん、な? ラムネはラムネや。だからアップルもアップル」
 
禅問答のような理屈だけど、その答えに納得した。アップルはアップル。
 
その日、ライティングゼミを受講したあと、宿の門限までの3時間を、神戸三宮の銭湯で過ごしていた。せっかく来た神戸、どこかへ行きたい。だけど食事はゼミの前に済ませたし、お酒を飲む習慣もないので、銭湯という選択は時間的にもちょうどよかった。
 
手軽に地元の雰囲気を味わえる、街中にある昔ながらの銭湯。とはいえ、今は新型コロナウイルスが流行中。旅行者の私は、ひっそりと、なるべくなら誰も関わらないように過ごそうと決めていた。手足を伸ばして湯船でのんびりしていると、移動の慌ただしさやゼミの緊張感がほぐれてくる。
 
風呂上がり。ロビーに出ると、街中の銭湯には珍しく、簡単な飲み物や軽食を出すカウンターがあった。横の冷蔵ケースには、冷たくて美味しそうな飲み物がたくさん並んでいる。これに引き寄せられない理由はなかった。「人と関わらないように」という決意は、「なるべく話さない」に変更して、ラムネと明石焼きを頼んでしまう。
 
ラムネを飲みながら眺める冷蔵ケースには、普段見かけない飲み物が並んでいる。関東ではまず見かけない「ひやしあめ」という、しょうが風味の甘い飲み物も置いてある。そして、その一角に「アップル」は置かれていた。
 
アップルは、その名と違って、うっすら黄色がかっていた。ラムネを飲みつつ、少しずつアップルが気になり始めた。アップルなんて見たことがない。なんだろう、これは?
 
この時、頭の中では二つの考えが葛藤していた。一つは「なるべく話さない」という自分の決まりを守ること。もう一つは、まもなく明石焼きを運んでくるおかみさんにアップルについて聞くこと。
 
頼んでいた明石焼きが運ばれてきた。私の疑問はもうポップコーンのように膨れ上がっていて、考えるよりも先に口に出してしまった。「アップルって、何ですか?」
 
「あ、アップル。私は姫路の出身だけど、同じ県でも西側の方では聞いたことないから、アップルと呼ぶのは神戸だけかもね」おかみさんは、思った以上の反応を示してくれた。「お客さんはどこから? 神奈川。関東では無いのかしらね。ねえ、○○さん、こっちのお客さん、神奈川から来たんですって。それでアップルが何か知りたいって。神戸には昔からあるわよねー」
 
おかみさんは、私の葛藤を吹き飛ばして、隣のご隠居さんまで話に巻き込み始めた。ところがご隠居さん、おかみさんの期待に反して答えに困っていた。「アップルね、アップルは神戸のものだけど、何かと言われたら、ラムネの同じで昔からあるものだからー。そのラムネと同じで、ほれ、あの布引の工場が納めてるんかなー」ちなみに、布引とは、神戸市内にある天然炭酸水が湧く場所のこと。つまり、アップルも近所の工場で昔から作られているものらしい。
 
そのご隠居さんがたどり着いた答えが、最初に書いた「アップルはアップル」だった。あえて説明する機会もないほどに、アップルは当たり前の存在なのだろう。当然のものを改めて説明させられれば、誰も困惑するだろう。ご隠居さんの様子に、アップルが神戸に根付いている、昔から親しまれたものだとよく分かった。
 
ラムネを飲み、明石焼きも食べ終わった。やっぱり、最後はアップルを飲んで帰るべきだろう。食券を買ってケースから出そうとした瞬間、値札に気づいた。そこには「アップル(みかん水)」と書かれていた。なんだ、みかん水のことだったのか。それなら知っている。飲んだことはないけど、味の想像は付く。
 
その瞬間、おかみさんに話しかけられた。「大阪では、みかん水って呼ばれるけど、神戸はアップルって呼ぶね。神戸の人はハイカラが好きで、気取ってアップルって呼んだらしいわよ」
 
一つの疑問が解決したら、二つ疑問が増えてしまった。なぜ、みかん水が神戸ではアップルになっただろう。もしみかん味なら、アップルという名前に疑問を持たなかったのだろうか? 疑問は増えるけれど、おかみさんに促される。「まあ飲んでみて。甘くてなんとも言えない味って、みんな言ってるわよ」
 
その味は確かに、なんとも言えない味だった。確かに甘い。しつこさはないけれど、人工的な風味。不思議な味わい。そしてみかん水がアップルと呼ばれるのもよく分かった。飲みながら、ふと先程のご隠居さんがまだ少年だった頃にも飲んだのかな、と想像した。懐かしい、消えて欲しくない味だった。銭湯に置かれていたアップルのおかげで、神戸という街に少し近づけた。
 
さて、肝心なアップルのお味は、と書きかけて、やっぱり止める。ヒントを言えば、値札の「アップル(みかん水)」という表記、確かに味を言い当てている。あとはぜひ、神戸で飲んでください。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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