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「なめんなよ精神」で信頼を得る


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:クヌギヤマナオコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なめられたら終わりだよ」
元ヤンの友だちの言葉に、私は大きくうなずく。
終わり、なのかは分からないけれど、少なくともなめられているばかりでは始まらないことを私も知っているからだ。
 
これは、私が生まれて初めて「なめんなよ精神」を発動したときの話である。
 
その時私は、勤めている生命保険会社の営業所に配属されていた。
事務員として、いわゆる生保レディがもらってきた契約書を処理するのが仕事だ。
そこは、恐い生保レディが多いという噂の営業所で、前任者はあまりの恐ろしさに心を病んで会社に来られなくなってしまったということだったが、そこに投入された私も、実際のところ初日から打ちのめされた。
 
まず、赴任した日の始業前、まだ自己紹介もする前から恐怖の洗礼を受けた。
ひとりのおばちゃんが近づいてきたかと思うと、私に言った。
 
「あなた、新しく来た人? へー。悪いけど私、あなたの名前覚えるつもりないからね」
 
覚えられないならまだしも、初めから覚えないと決め、そしてそれをわざわざ告げられるなんて……。
経験したことのない待遇に、私は返す言葉を失った。
 
しかし、恐怖の洗礼はそれだけでは済まなかった。その日の業務が始まってからも何人ものおばちゃんが代わる代わるやってきては、私を威嚇した。
 
「あなたの言ったこと全部メモしても良い? 後で間違いがあったとき、誰がいけなかったのか分かるようにしておきたいの。あなたのこと信用できないから」
「あんた、口答えはしなくていいからね、ちゃんとやってよ」等々。
 
一日中続く波状攻撃にすっかりやられ、帰り道で私は泣いた。こんな恐ろしい鬼の巣窟で働かなくてはいけないと思うと、先行きが不安で仕方なかった。
 
その日以降、私は、日々、鬼たちの気に障らぬよう小さくなって働いた。
ミスをしないようにだけ気をつけて、大人しく過ごしていた。
でも、いくら真面目に働いても、鬼たちの態度は変わらなかった。
 
しかし、そんなある日、そのタイミングは突然やってきた。
 
その日は営業所のいちばん偉い人である所長が研修をしていた。
「お客さまの住所が間違って登録されると、当社から郵送した書類が届かないから気をつけるように」という注意喚起の研修だ。
契約書をもらう時に、ちゃんと正しい住所を書いてもらってね、というただそれだけの話である。
 
でも、みんなは納得がいかないらしい。
ギャーギャー文句を言って大炎上していた。曰く「住所が間違っていたら、書類は会社にちゃんと戻ってくるんだから良いじゃないか」。
 
確かにその通りなのだ。戻ってきた書類は住所を確認して再送されるだけだ。はっきり言って「保険を売る」のが仕事の生保レディにとって大したことじゃないかも知れない。
 
「なんでダメなんですかー?」
「書類が戻ってこないんじゃ困るけど、戻ってくるんですよねー?」
「お客さん自身が書き間違えたのなんて、こっちで分かんないしー」
 
みんな、延々文句を言っている。
でも、これはそういう問題じゃないのだ。営業さんは売るのが仕事。事務側はミス・無駄のない確実な事務をするのが仕事。守っている分野が違う。
 
所長は丁寧に説明しているが、誰も聞く耳を持たず大声で文句を言うばかり。
まるで、荒れた中学校のヤンキー教室のようだった。
 
私は腹が立ってきた。もう聞いてられない!
 
席を立った。呼ばれてもいないのにそのまままっすぐ所長の横まで歩いていく。前に着くまで待てず歩きながら大声で言った。
 
「あのね! そういう問題じゃないの!」
 
みんなが初めてシーンとした。
 
「別に書類がどうなろうが、営業さんには関係ないと思うし、正直私も戻ってくるならもう1回送ればいいじゃんって思うけど。でも、書類が戻ってきたら事務員が契約書ちゃんと点検してなかったってことになって怒られるんだよ! 下手したらお給料も減るの! だからちゃんと住所確認してきて!」
 
シーンとしている。
私はもう1度言った。
 
「私、怒られるの嫌なんで、ホントちゃんと確認してきてください」
 
まだ、シーンとしてた。
言いたいことを言った私は、もういいやと思い席に帰った。
所長が「そういう訳で、よろしくお願いします」と静かに締めた。
みんな返事をしなかった。
 
研修が終わりしばらくして、私の席に誰かが来た。
「樟山さん、契約書の処理お願いします」
ハッとして顔を上げた。
 
「……!」
 
契約書を持ってきたのはリーダー格の鬼だった。「あなたの名前覚えるつもりないから」の、その人だ。
 
「おぉぉぉぉぉー!」
 
契約書を受け取りながら、心の中で雄叫びと喜びの舞が止まらなかった。
ここまで来るのに1年、初めて名前を呼ばれたのだ。
鬼はさらに続けた。
 
「正直、書類が戻ってきたって良いけど、あなたが怒られるっていうんなら協力するよ」
 
照れ臭そうにそんなことを言う鬼が初めて人間に見えた。
 
そしてリーダー格の鬼、いや、おばちゃんに従うように、その他のおばちゃんの態度もその日のうちに軟化。一瞬にしてポジションが変わった劇的な一日だった。
 
当時、私は20代。一方、おばちゃんたちの平均年齢は50代半ば。
これまで完全に上下関係がついていた私たちの関係が、初めて対等な「仕事仲間」になった瞬間だと思う。
 
その日まで私は、若輩者の社会人として上の人に従って仕事をするのが正しいと思っていた。逆らわず上の方針に沿って働けば市民権が得られると思っていた。
要は、なめられていても仕方ないと思っていたのだ。
でも、実際には私が下手に出ている限り、私のポジションは下のまま。市民権も得られない。やるべきことをやっているのならば、正しい自己主張をしてよかったのだ。
 
大人しく仕事をしているだけでは、いまいち私の仕事っぷりを信頼してよいのか、おばちゃんたちにも分からなかったのだと思う。おばちゃんたちの野次を押し返したことで初めて、信じてよい人として認めてもらえたのだと思う。
 
「なめんなよ精神」を見せることは、「私のこと信用していいよ」という宣言なのだ。
 
その日以来、急速に仲良くなったおばちゃんたちとの仕事は、本当に楽しかった。
信用していないときに、ちゃんと「信用していない」という態度を取ってくれていたからこそ、信用してくれているときは本当に信用してくれているのだということがはっきりと伝わってきた。
 
3年後、私は異動することになったが、最終日の挨拶では涙が止まらなかった。
これまで何度となく異動を経験しているが、泣いたのは一度きりだ。
 
「なめんなよ」って、ヤンキーの人たちが強がって相手を牽制するときのセリフだと思っていた。でも、実際は生きていくうえで、なめられていては始まらない。
それは、なめている相手にとっても自分にとっても決して良いことじゃないのだ。
 
自分のことを「信用して良い人物だ」と相手に伝える。
それによって、なめられている側は自分のポジションを獲得することができるし、なめている側も安心して相手を信用するきっかけにもなる。
 
正直、私は気が小さい。元ヤンの友だちのようにナチュラルに「なめんなよ」を繰り出すことは出来ない。
それでも、私はこれからも「なめんなよ精神」を見せていきたいと思う。
そして、勇気を出して相手に「私のこと信用していいよ」と伝えるのだ。
そうすればきっと、ぎこちなくても信用を得られると私は信じている。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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