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気づかないように気づく、彼のくせ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:野村理佳 (ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
金曜日、銀座。街にはスーツやおしゃれな服装の男女が多くの人が集まる。厚手のコートと薄めのコートが混在するこの季節は、どこか人と人との距離が近い気がする。ここで2年ぶりの友達と会う。
 
今日はそんなに急ぎの仕事もないし定時に上がられそう、なんて思っていたのに、終わりかけでいつも仕事を頼まれる。断れない自分が一番悪いのはわかっている。そういう日に限って、人と約束をしているなんてことはしょっちゅうだ。
1週間前に、久々に仲の良い男友達に会いたくなって、連絡をした。別に深い感情などはなく、ただ2年ぶりの“そいつ”と会いたくなっただけ。彼の返信はいたって軽く「良いよ、いつにする?」。多分、私にはこの気軽さが懐かしくて、そして心地よくて連絡をしたのだろう。
 
時計を見て慌ててスマートフォンを開く。”ごめんもう少しかかりそう”とメッセージを送るのは、すでに待ち合わせの時間18時ちょうど。
「大丈夫、ゆっくりで」
彼らしい絵文字もつけない、簡素な返事が来る。恐らく全く怒ってなんていない。全く家から出ないあの人のことだからちょっと慣れない街にワクワク・ソワソワしているだけだ。
私はなんとか仕事を片付けて、会社を出る。電車に飛び乗り、スマートフォンを少し鏡のようにして前髪をさわる。「2年ぶりに会うから、なんとなく成長してないと」と、気にしているような画面越しの自分を見て、スマートフォンを勢いよくカバンにしまった。
「よお、久しぶり」
全く2年前から変わってない。少し背が低くて、体にちょうどよくフィットする服を纏う、シンプルな彼。彼の言葉は、いつも最後にちゃんと句点がつきそうなしっかりした感じだ。
「ほんとにごめん!」
「大丈夫、トマトとナスのパスタに決めてたから。行こう」
全く逆の方に歩き出す彼。
「ありがと。……え、どこ行くの? このビルだよ」
「ああ、そうなんだ」
これは彼のくせだ。自分の頼むメニューだけを決めて、お店の場所を把握していないという、この状況は、いつもの彼の嘘であると知っている。
この人は、頭が良くて真面目で本当はすごく念入りに調べるタイプだ。でも気にしてない雰囲気を出すし、一度何かをすかす。ストレートを一発目から投げる投球が、観客から単純に見えていないかと、気にして避けるピッチャーのようだ。中学校の頃からずっと変わっていない。これからもそうやって頭がいいのに頭が悪いフリをするのだろう。
 
それでも、私はいつもこの嘘に付き合う。
お酒を飲んで乾杯しないのも、彼は乾杯という行為を恥ずかしくを思っているからだ。なんでこんなひとつの、簡単で単純な行為に恥ずかしさを感じてやらないのか。その真意はわからないけど、いつも彼が一口飲んで置いたグラスに、飲む前にグラスを当ててからなんとなく飲み始めてしまうのは、2年前から変わらない私が彼に合わせた癖だ。
 
会計時に同い年なのに多く払おうとされるのは、年上にご馳走されるのより気がひける。「年上を立てる」という意味で、世の中ではすんなりご馳走されることがあるけれど、同い年は違う。彼はきっと男だからという少しの見栄で払ってくれている。こういう「ええかっこしい」に頭を抱える私の気持ちになってほしい。割り勘とこちらがどんなに言っても彼は頑なだ。仕方ないけど、
「ごめん、次は私が多めに払うから」
と、私が折れることが彼への正解らしい。
本当のところ、どういう意味で払ってくれてるのかわからない。だから、申し訳なさそうに感謝を伝えるだけだ。言ったそばから、安易に”次”なんて口にしたことを後悔した。
 
私たちに次なんかあるのだろうか。彼とはずっと友達で、これからも友達だと思っている。みんな恋が始まるときは、その始まりにどこか友達とは違う何かを感じているからではないか。友達という関係になるのが嫌で、「じゃあこの感情は何か」、「じゃあどうして好きなのか」を考えるときにはすでに後からの理由づけにすぎない。
 
銀座を歩いていると、彼が言った。
「スカイツリーに行きたいなあ」
「前、行ったでしょ」
「何度行ったっていいんだよ、あそこは」
それは2年前に私と行ったことを覚えて言っているのか、他の人と言った記憶を思い出しているのかわからない。”一緒に行こう”の意味なのかもしれない。それでもそんなの気づかなくていいと心と指切りをした。私たちは友達で、この関係はどちらかが崩さない限り、ずっと平行線だ。
 
これから変わるのかわからないこの気持ちは、夜の地下鉄の中に吸い込まれていく。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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