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百日紅と耳鼻咽喉科


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記事:秋田智子(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
百日紅。ミソハギ科の落葉中高木。白味がかったすべすべとした幹を持ち、「猿でさえ、滑って登ることができない」の意味から「サルスベリ」とユニークな名で呼ばれている。街、公園、寺や神社、そして自宅の庭に植えられている馴染み深い植物。「百日」の名の通り夏から秋にかけての長い開花期間、白やピンクのこんもりとした花を咲かせる姿は豪華でとても美しい。近くでよく見ると一つ一つの花は小さく、やわやわと縮れた花弁を持つ姿は可憐でもある。
 
そんな豪華で可憐なイメージを持つ百日紅だが、その姿を見る度に私が思い出してしまう言葉が「耳鼻咽喉科」である。
 
百日紅は母方の祖母の家にあった。門をくぐった左手にあり、遊びにきた私をいつも迎えてくれた。厳格な父方の祖母とヒステリックな母のいる自分の家とは違い、大らかな母方の祖母、モリ婆ちゃんの住むその家は私にとっては天国だった。食事時にはジュースを出してくれるし、食後にはプリンも食べられる。おやつにチョコレートが食べ放題で、何より、いたずらをしても叱られない。
 
モリ婆ちゃんの鏡台から高価なクリームを持ち出して鏡に塗りたくってしまったことがある。人の顔も綺麗にするクリームなのだから、鏡も綺麗になるかもしれないと思ったのだ。思いついたらやめられない衝動に駆られた結果、綺麗になるどころかクリームは鏡の上に白く残ってしまい、元に戻すことができない。私は雷が落ち、押し入れに閉じ込められることを覚悟した。
ところがである。
それを見つけたモリ婆ちゃんは、
「あら」
と、言い、私の方を見向きもせず、タオルを取り出し、「はぁー」と息を吹きかけ、静かに鏡のクリームを拭き取りその場を去った。いらずらをしても叱られないことがあるという事実に驚愕した瞬間だった。
 
話が逸れてしまった。百日紅である。
 
モリ婆ちゃんの家で一番好きだったのはその庭だ。小さな池があり、盆栽が並ぶその向こうには畑がある。庭の隅っこにあるアリや蜘蛛の巣、たくさんいるダンゴムシはいたずらし放題。松の葉や南天の赤い実をとっても誰からも叱られない。天国である。
その庭の端っこ、門を中から見て右側に百日紅の木があった。夏から秋にかけて咲く百日紅のピンクの花も、南天の実や松の葉に並ぶ格好のおままごとの材料だった。
 
5歳くらいのとき、花の季節が終わる頃、百日紅に実がなっていることに気がついた私は、それもおままごとに使おうと片端からつまみとっていった。手にした実は、茶色い皮に包まれており、その皮を剥くと白いツルッとした味が出てくる。カサカサした皮の中から滑らな実が出てくる不思議さが面白く、私は夢中になって皮をむいた。お茶碗いっぱいくらいの実の皮を剥いたあたりで、私はふと気がついた。
 
「この種、私の鼻の穴の大きさと同じくらいだ」
 
と。
 
そして、その種を鼻の穴に入れたい、という衝動を抑えきれなくなったのだ。
 
恐る恐る入れてみると、滑らかな種皮のおかげで種はツルッと鼻に入る。そして、種を入れていない方の鼻の穴を押さえ、フンっと息を出すと種が飛び出して来る。
ツルッ! フン! 鼻を種が通り抜けていく感覚が気持ちよく、勢いよく飛び出してくる種の姿が面白く、私は、種を入れたり飛ばしたりと何度も繰り返した。
 
繰り返すうち、種が鼻の奥に入ってしまった。フンっとするだけでは出てこない。焦るが、指を奥のほうに入れると種がうまく引っ掛かりツルッと出てくる。鼻の奥から種が通り抜けてくる感覚もこれまた面白く、今度は奥に入れて出してみる、ということを何度も繰り返した。
 
記憶はここから一気に病院の診察室に飛ぶ。
 
私は白い壁の診察室の中、白衣のお医者様前に座っている。横にはモリ婆ちゃんと母、ここまで車で送っていてくれたであろう、おじさんの姿がある。二人とも呆れた顔をして私をみている。お医者様は私の鼻にピンセットを突っ込み、鼻から何かを取り出している。何か、とはもちろん百日紅の種である。その数9個。
 
種を鼻の中でツルツルやっていた以降、診察室までの記憶が残っていないので、その間の出来事はモリ婆ちゃんの証言なのだが、次のようなことがあったらしい。
 
夕方になり、家の中に戻った私なのだが、始終、鼻をフンフン鳴らしていたらしい。様子がおかしいと思ったモリ婆ちゃん、鼻の中を覗いてみると中が白い。白いものが詰まっている。なぜそうなったかの私の説明を聞いていなかったのか理解できなかったのか、その後は大騒ぎになったそうだ。連絡を受けた母が駆けつける。病院に行くことを決め、叔父が呼び出される。そして病院である。
 
重篤な病気ではないかと焦って病院に行ったら出て来たのは百日紅の種だった。
 
私はその後、その時の焦りと事実がわかった時の脱力感について、皆から何度も聞かされることになる。鼻の穴を除いた瞬間のモリ婆ちゃんの受けた衝撃が何度も語られることになる。モリ婆ちゃんの家に皆が集まるたび、食事をしながら、お茶を飲みながら、昔の笑い話として何度も何度も語られた。
私の結婚式でおじさんのその話をスピーチのネタにするのは流石にお断りしたが。
 
そんなわけで、私にとっての百日紅は、豪華でもなく可憐でもなく、耳鼻咽喉科の花なのである。診察台のトレーの上の9個の白い種と、普段は落ち着いているのに、大いに焦ってしまった今は亡きモリ婆ちゃんの懐かしい思い出と共に。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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