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「風呂の日」


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記事:晒谷 昌克(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
私の頭髪は娘によって守られたと言っても過言ではない。
 
我が家は薄毛の家系だ。私が物心ついたときには父はハゲていた。
毎朝ヘアブラシでトントンと頭皮をマッサージしながら、育毛トニックの香りを引き連れて私を起こしに来ていた。私は父が声をかけるよりも早く、においで起きた。
 
母の父、すなわち母方の祖父は磯野波平さんより1本、毛が少なかった。
父の父は若くして亡くなったので肖像画しか残っていない。絵の中の祖父はフサフサといえるだけの毛量があり、けっしてハゲてはいないが、私はその絵を信じてはいない。なぜなら、その兄弟が薄毛だったからだ。
つまり双方薄毛の家系を背負った私は、ハゲることを義務づけられていると幼い頃から感じていた。
高校生の頃の頭髪目標は40歳だった。40歳まではなんとかもたせたい、それまでは人生を謳歌したい、まるで余命のように感じていた。
だから早めに結婚しなければいけないとも考えていた。
その思いがあったからか薄毛の兆候が始まる25歳で結婚し、翌年長女が誕生した。
 
30歳を越える頃、鏡を見ると少しずつ頭の奥まで蛍光灯の光が届くようになってきているのに気づいた。私より先に頭部の黒の密度が少し低くなってきていた2歳年下の弟は、家系の宿命を強く受け継いでいるのだろう、私の先行指標になった。もはや覚悟はできつつあった。
 
そんなある日のこと、私が帰宅すると小学1年生になったばかりの娘が泣いていた。
どうも学校で友達にからかわれ、それを妻に訴えていたようだった。
そして私に気づいた娘はこう言った「お父さん、なんでうちには風呂の日があるの?」と。
私は「風呂の日がないと不潔じゃないか、頭や身体もかゆくなるし」と答えた。
「そうじゃないの、みんな毎日風呂に入っているのになんでうちは毎日じゃないの?」
 
娘は学校で友達と話しているときに、「今日は風呂の日」と言ったところ、友達から「風呂の日?なにそれ?」と問われたらしい。娘が「風呂に入る日だよ」と答えたら、「えーー!? 風呂に入らない日があるの?」とからかわれたとのことだった。
 
そう、我が家には「風呂の日」があった。私の生家には子供のころ風呂はなく、2日か3日に一回近所の銭湯に通っていた。中学生の頃に改築をして風呂が出来たが、我が家には“風呂に入るのは2日に1度”という感覚が根付いていたため、風呂を沸かすのは1日置きだった。それが「風呂の日」だ。風呂を沸かすのは私たち兄弟の役目だったので母親から「今日は風呂の日だからね」と言われると弟と「前回の風呂の日は俺だったから、今日の風呂の日はお前な」という会話がされてきた。
 
それから20年が経ち、新しい家庭を持った後も「風呂の日」は続き、なんの違和感もなく会話に登場して実際に「風呂の日」を設定してきた。それが突然存続の危機を迎えた。
しかし、娘がからかわれ、泣いて訴えてきたのに、それに反対する理由はなかった。
こうして「風呂の日」はあっさり廃止された。
(正確には妻が毎日風呂を沸かし始めただけであるが……)
 
我が家は脂性の家系でもある。テーブルやガラス、黒い器具などに、触った跡が一目でわかるほどギラギラにマーキングされている。手指がそうであれば顔や頭は言わずと知れている。
父親の頭皮が鈍く光っていたのは整髪料ではなく自分の脂のせいだったのだろう。
少し余談になるが、脂性の人は乾燥フケが出ないとよく言われる。なるほど私自身フケに悩んだことはなく学生服の肩が白くなっていたり、手で払ったりした覚えがほとんどない。私の家族も同じである。父や弟の肩にフケを見たことは一度もない。言い換えれば全員脂性であることを証明している。
 
風呂の日が廃止されて3か月後ぐらいから、ちょっとした変化が私に表れ始めた。
まず頭がかゆくなることが無くなった。そして指で髪の毛をかきあげた時に軽い抵抗を感じるようになり始めた。毛根に力強さが戻ってきている証拠だった。
その後40歳の目標は達成し、50歳もクリアした。余命は今も伸びている。
先行指標の弟はしっかりと父の後を追っていったが、私は家系の呪縛から解き放たれつつある。
 
あの「風呂の日」事件が起きていなかったらどうなっていたのだろうか?
「風呂の日」は今も存続していたのだろうか?
その答えはわからないが、事実として私の頭髪はまだ原形をとどめている。
そして、それは「風呂の日」事件のおかげだと私は信じている。
 
その娘ももう32歳になった。一つ年下の娘の配偶者の額が最近少し広くなってきたような気がする。
まさか「風呂の日」が復活……。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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