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萩焼の壺は何も悪くない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:弓奈(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
※フィクションです
 
「お前とよく似てるからほっとけなかったんだ」
それがあの日彼が言った言葉だった。
 
彼との出会いは私が高校卒業して勤めていた会社に大学生の彼がアルバイトできたこと。先輩のいたずらで彼が私のことを、私が彼のことを気になっているとお互いに騙されてデートをすることになった。
 
ありきたりだか彼の誠実で優しいところに私はどんどん惹かれていき、やがて付き合うことになった。口数が少ないけど一つ一つの言葉がとても丁寧で的を得ていて、私は安心し信頼しきっていた。
 
彼も私のことをとても大切にしてくれた。男の人にこんなに優しく大事にされたのは後にと先にもなかった。
 
付き合ってちょうど1年の頃、私の誕生日があった。
1年のメモリアルでもあったから誕生日のプレゼントは期待が膨らむ。
 
待ち合わせのファーストフード店に大きな紙袋をテーブルに置いた彼が見えた。
想像してたのと違う。
 
「気になるだろうから先に渡すね、誕生日おめでとう」
と、ずしっとした重みのある袋を覗き込むとそこには3、40センチ四方の立方体がバラの柄の包装紙に包まれていた。
 
私の頭の中は混乱していた。小さい包みを想像していたがこんなに大きい重い箱。
はやる気持ちを抑えやっとのことで
「開けてもいい」と聞くと、「もちろん」と言った彼の顔は自信に満ちていた。
 
ファーストフードの小さなテーブルには不釣り合いなその包みのセロテープを剥がし、包装紙を破らないようにそっと開けると桐の箱が見え、デザインされた筆跡で
「萩焼」とそこには書いてあった。
 
萩焼
萩焼……一度整理をしようかな。付き合ってちょうど1年。
そして今日は私の誕生日。きっとメモリアルな誕プレ←今ここのはず。
 
桐の蓋を開けるとそこには桜色と品の良い銀色の萩焼の壺が入っていた。壺ではなく花器と書いてあるが。
 
「お前さあ、お花やってんじゃん。この前昇段したって言っていたから、なんか形に残るものがいいなーと思って」
 
はい、確かに形に残るものです。立派です。素敵です。
萩焼なんなら嫌いじゃないです。
でも今日じゃない。誕プレじゃない。
 
萩焼には何の罪もない。別に高いものなんて期待はしていない。乙女心は身に付けるものが欲しかったのだ。
 
その日のデートは覚えていない。壺の入った袋を「コインロッカーに預けようか」って言ってくれたことは記憶している。
今思えば女の子慣れしてない彼が、一生懸命私が使えるものを一生懸命考えてくれたのだと思う。そんな不器用な彼も好きだった。
 
その後、友達に彼の話をすると「例の壺の君だね」とからかわれた。
 
彼が大学を卒業し就職した同じタイミングで私も転職をした。
新入社員の彼も、転職したばかりの私も忙しく、土日はそれぞれの職場で集まりもありすれ違いの日々が続いた。
 
でも私は彼のことが大好きだったし、彼は私のことを愛していると自惚れていた。
 
忘れもしないあの日は現天皇陛下、当時皇太子と雅子様のご成婚の日で祝日になった。
久々のデートだったが、何かが違っていた。
彼の車に乗った時の空気。
助手席の座り心地。
そして何より彼の様子が違う。女の感だった。
 
しばらく走ると料金所で彼が差し出した高速道路のプリペイドカードの裏側に決定的なものを見てしまった。私は写実的に記憶ができてしまう。その時ほどこの能力が要らないと思ったことはない。
プリペイドカードにはおおよそ仕事では使わない場所の名称が日付と共に印字されていた。
 
頭の中では落ちけ落ち着けと思いながらも
「その日仕事って言ってたよね、〇〇って仕事じゃ絶対行かないよね。なんで、どうして、誰と行ったの?」と一度口を開いてしまってからは、止まらなかった。
 
男友達と行ったと言ってくれと願ったがその願いは脆くも崩れた。
 
「同期の女の子と……」と言う彼の声をさえぎるように私は必死に「同期のみんなと行ったんだよね」と声を荒げた。
 
そこで冒頭の言葉なのだ。
 
私と似ているから…
もう彼の声はそれ以上何も耳には入ってこなかった。
カーラジオからご成婚のパレードの実況だけがむなしく流れていた。
 
その後、私は彼のアパートの最寄り駅に1日居たり、彼の駐車場に花束を置いたりとストーカーまがいの事をしてしまった。
逆効果だと今なら分かる。でもその時はただ振り向いてほしい一心だった。
 
「お前が彼女の家にいた電をしたんだろう」と言われた時にやっと気づいた。
もう私への気持ちが薄れてしまったんだと。
 
最後の電話で彼はこう言った。
「お前のことは本当に好きだった。手を出してしまったら壊れそうだった。そのくらい大事だったことは本当だから」と。5年も付き合って実はキスだけだった。
 
共通の友人から私より先に結婚したと聞いた。その時の彼女ではなかったそうだ。
そのすぐ後、私も結婚することになった式の前日、なぜか夢に彼が出てきたのである。
 
「俺の方がいい男だな」
どの口が言う。夢ながら呆れる。
 
その後も妊娠がわかった時、子供が生まれた時、私が幸せな時に夢に出てくる。
私が幸せになるのが気に入らないのだろうか。
 
4年前に趣味の絵画が入選した時にも出てきた。
「あの絵いいと思う。花器もいい味出してるだろ、俺一役買ったな」
と嬉しそうだった。
 
あーそうでした。あの壷、失礼萩焼の器が綺麗なのでそれに花を生けて描いた絵が入選したのだ。
 
そういえばあれ以来夢に出てこない。
 
お役目が終わったと思ったのか、それとも今の私が幸せではないからなのか、今度夢に出てきたら聞いてみたい。
 
 
 
 
***

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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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