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原風景は林か海か


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記事:右手を上げた招き猫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あ、富士山!」
東京から新幹線に乗って西へ向かう途中、右手の窓に大きな富士山が見えてくると、反射的にスマホのカメラを構えてしまう。そんな人は多いのではないだろうか。かくいう私も、東京と埼玉の県境や千葉の低地で育ち、決して富士山の眺望を楽しめるような環境で育ったわけではないのに、大パノラマの富士山を見ると無条件にうれしくなる。全国各地に「○○富士」と呼ばれる、きれいな円錐形の山があるくらい、美しい山、懐かしい山の象徴である富士山は、日本で育ったり暮らしたりしたことのある人にとって、何か特別な感情を掻き立てられる原風景の一つなのかもしれない。
 
と思ってはみたものの、実際に富士山を見て育ったわけではない人も富士山を「原風景」と言ってよいのか。
 
念のため「原風景」という言葉を辞書で調べてみると、「心象風景のなかで、原体験を想起させるイメージ。」とある。では心象風景とは。同じ辞書には「心象」の欄に「意識に浮かんだ姿や像。」とある。ということは、現物を見たことがなくても、イメージした景色を「原風景」と呼ぶことはおかしくないのだ。
 
さて、ここで「原風景」はいつできるのか、という疑問が浮かんでくる。「三つ子の魂百まで」という言葉があるように、3歳くらいまでに過ごした日々の風景が、原風景の作られ方に影響しそうな気がする。そこで、身近な人の例を考えてみた。
 
まずは妹。私の家は、私が6歳、妹が3歳のときに、畑や牧場や林の近くにあった団地から、海沿いの埋立地に引っ越した。同じ家で育っても、ここで確かに「三つ子の魂」的違いが現れた。私の原風景は、6歳になるまで過ごした町の畑や林なのだが、3歳で引っ越した妹の原風景は、新居に程近い海やテトラポッドだったのだ。
 
そして父。父は幼い頃、引越しを転々としていたが、子どものときに瀬戸内海の遠浅のきれいな海で泳いで遊んだ風景が、楽しい記憶として残っているそうだ。畑や林に囲まれた団地住まいから、海の近くに家を買って引っ越したのも、「海はいいものだ」というポジティブな海の原風景に導かれてのことだった。
 
そんな父には、引っ越したばかりの頃、よく近所の海に連れていかれた。海といっても、東京湾だし、埋立地だ。いまではそのあたりも人工の砂浜ができ、近くには公園もあって、すてきな場所になっているのだが、引っ越した当時はまだ周囲は開発中。製鉄所の赤い火が空を染め、テトラポッドの方へ降りていくと、大量の黒い影がワサワサと動き出す。フナムシの大群だ。ただでさえ、高所恐怖症で、テトラポッドの上をバランスをとりながら歩くのが怖いのに、おまけに虫も大きらいなのに、恐る恐る踏み出す足下にざわざわとフナムシが走りまわるのだ。地獄だった。
 
父はそのとき、同じ東京湾を眺めながら、そこに瀬戸内海のきれいな、楽しい記憶の海の原風景を重ねて、「海はいいなぁ」と思って立っていたのだろう。私にはそんな海のすてきな原風景がなかったばかりに、目の前の現実の上に重ねられるフィルターもなく、「海はいいなぁ」なんて思うことはできないままだった。しかし妹は、高いところをひょいひょいと渡り歩くのが大好きで、ブランコの上(ブランコの座面ではなく、ブランコを吊るしているフレーム!)を好んで歩く忍者のような子どもだったので、テトラポッドの上もぴょこぴょこと飛び回るのがとても楽しかったらしい。こうして父の海の原風景は、実際の見た目は全く違う海だけれど、妹には伝わっていったのである。
 
大パノラマの富士山がよく見える場所は、静岡県や山梨県ばかりではない。全国各地にたっぷりと湯気を含んで見えるスポットがたくさん存在する。そう。銭湯だ。調べてみると、銭湯の壁に富士山が初めて描かれたのは、1912年、大正元年だそうだ。東京都千代田区の銭湯で、子どもたちにお風呂に楽しんでつかってもらいたいという趣向で描かれた富士山が人気を呼び、周りの銭湯に広がっていったらしい。原風景にふれると、なんとなくほっとする気がするが、お風呂で原風景をみてほっとすると、よりお風呂時間がリラックスしたものになるのか、リラックスした気持ち良いお風呂体験が富士山と心の風景を結びつけるのか、どちらが先かわからないが、もしかしたら日本の暮らしと富士山と原風景の関係は、実際の景色以外に、こんなふうにも構築されていくのかもしれない。
 
以前誰かが言っていた。
「富士山を見てほっとするのは、年をとった証拠だってさ」
 
富士山を見ないで育った私は、いま、富士山を見るとほっとする。これは生活のさまざまなシーンで埋め込まれてきた原風景なのか、それとも年とった証拠なのか……。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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