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メディアグランプリ

鯛焼きと100万ドルの夜景を泳ぐ


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記事:綾崎(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
5人乗り込めばパーソナルスペースがなくなるようなエレベーターから逃げ出すように降りた。逃げた先は神戸の中心、三宮(さんのみや)の繁華街だ。
看板を照らすための明るすぎる照明と街灯の光が混じり、あらゆる角度から暴力的に降り注いでいる。足元には幾重にも重なった自分の影と、真っ黒な丸いシミがいくつかついていた。誰かが吐いたガムだ。私は目をそらした。
後味の悪い飲み会だった。親しくもない男性の不倫話を延々と聞かされた。会社から参加したセミナーの懇親会だったので、ブチ切れるわけにもいかずに黙って聞いた。多分、表情は引きつっていたと思う。
二次会の誘いを断り、挨拶もそこそこに、私は地面を蹴るようにして歩き出した。ご機嫌なサラリーマン達を避ける。駐車場の隅でえづく若者に気づかないふりをして前に進む。目指すは、鯛焼き屋。こんな夜は、鯛焼き片手に散歩をするに限る。
 
嫌なことがあった時−−例えば今日のような飲み会の後、私はよく海まで歩く。頭を冷やさないまま帰宅すると、なかなか眠れず、長くて辛い夜を過ごすことになってしまう。下手をすれば、数日引きずる。そうならないためにはドロドロとした気持ちと向き合い、消化しなければならない。この消化作業、一人で散歩をすることによっていい塩梅に促進される。片手で食べられるような甘いものがあれば、なお良し。私のライフハックだ。
散歩コースは決まっている。「旧居留地」を通り、中華街を抜けて神戸のランドマーク「ポートタワー」があるハーバーランドまでの約1時間の道のりだ。
「旧居留地」というのは、明治時代に貿易で日本に訪れていた外国人が暮らした地区のことだ。当時の面影が今でも残っており、観光地としても人気がある。イギリス人土木技師が設計した126区画に分割した街の構造がそのまま残されていて、地図では綺麗な格子模様を確認することができる。
レトロな洋館や石造りの建物と、ハイブランドショップなどの現代的な建物が混在しつつも整然と建ち並び、神戸独特の美しい景観を楽しむことができる。美しい建物が建ち並ぶヨーロッパのような街並みの中を歩いていると、ファンタジーの世界にでも迷い込んだような気分になってくる。
私はこの場所が好きで、用事もないのによく建物を眺めながら歩く。神戸に住んで20年以上経つが、この場所は何度来ても飽きない。特に夕方から夜にかけてはとりわけ美しい。
 
繁華街から徒歩5分で到着。昼間は上質な服に身を包んだ人々が優雅に闊歩しているが、夜8時を過ぎればほとんどの店は閉店し、人影もまばらになっている。歩いているのはほとんど仕事帰りの人だ。
石造りの建物が並ぶ道路の両端には街灯があり、柔らかな明かりで周囲を照らしている。店は閉店しているが、大きなガラス窓のディスプレイの中は美しくライトアップされている。店は閉店しているがシャッターが降りていないので拒絶感がない。心地よい孤独がある。繁華街の方が人はたくさんいるのに、寂しさを感じる。
 
ルイ・ヴィトンの店の前でまだ温かい鯛焼きをかじる。夜なので、ハイブランドショップの前で鯛焼きを食べたって人目は気にならない。餡子の甘みが、しみわたる。美味しい。
昼間よりずっと自由に、早く歩ける。どこまでも行けそうだ。鯛焼きを片手に、美しい建物の間を泳ぐように歩く。
 
「100万ドルの夜景」という言葉の発祥地をご存知だろうか。美しい夜景を表す言い回しだが、六甲山から見下ろす神戸の夜景が元になったと言われている。
海と山が近い神戸の夜景は、本当に美しい。ダイヤモンドを散りばめたような煌めく夜景だ。
その美しい夜景の中を、鯛焼きを片手に自由に泳いでいる自分を想像しながら歩くと、なんだかワクワクする。100万ドルの夜景の中を歩いているなんて、素敵じゃないか。
 
旧居留地を抜けると、すぐに中華街だ。閑散とした中華街を抜け、そのまま西へ、海を目指して歩く、歩く、歩く。夜道を歩きながら自分と向き合う。たまにビルの間に顔をだす、赤く光るポートタワーと目を合わせながら、ただただ歩く。
 
派手なイルミネーションが輝く港に着いた。デートスポットで有名な「ハーバーランド」だ。すっかり身体にこもっていた不快な熱は夜の空気の中に溶け出し、ささくれだっていた心は滑らかになっていた。
波止場に座り、観覧車を眺める。クルクル、チカチカと次々に模様を変化させながら華やかに光っている。気がすむまで、ぼんやりと眺めながる。
そこでようやく、不倫の話よりも、うまく受け流せなかった自分に腹を立ていたことがわかった。そして、受け流せなくてもいいじゃないかと思えた。
消化が終わったようだ。私は立ち上が理、観覧車を背にして駅へと歩き出した。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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