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わが弟よ、突き進め!! ~オーストラリア奮闘記~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤あさき(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
私には、3歳下の弟がいる。
同じ親の元で育ったのにもかかわらず、石橋をたたいてたたいてやっと渡るような私とは対照的で、彼の歩む人生が笑いあり涙ありで、実に興味深いので紹介したいと思う。
 
弟は、若干二十歳で結婚した。と同時に父親になった。
結婚の報告を聞いたとき、姪っ子あるいは甥っ子ができることは素直に嬉しかったのだが、
彼が本当に望んだ結婚であるのかどうかという点では少し不安もあったのが正直なところだ。
 
というのは、年齢的な若さだけではなく、
まだまだ自分のやりたいこともたくさんあって、自由に生きたいという思いがあるように感じていたからである。
 
しかし、弟はそんな心配をよそに、自分の手で家族を養うという明確な目的を持って仕事に励んでいた。
当時、彼は自動車整備の期間従業員だったのだが、リフトやクレーン車の免許を精力的に取得し、三年で正社員になることを目標にして一生懸命働いていた。
 
ところが、二年たったある日。私は彼が離婚したことを知った。
親権は奥さんが得ることになり、弟は一人になった。
 
離婚した時、私には「やっぱりな……」という気持ちが正直あった。
しかし、彼なりに努力してきたこと、それでもやはりどうにも無理だったこと、離婚がお互いの幸せのために最善の選択肢であったことが話を聞いていくうちに理解できた。
 
彼にとって精神的に辛い状況が長く続いた。いつも明るく前向きな彼なのだが、このときは笑顔も徐々に減っていた。会うたびに痩せていく姿には胸が痛んだ。
家族としては、彼をただ見守ることしかできなかった。
 
そして、目標としていた三年が経った。
しかし、彼は正社員になることができなかった。
 
“家族を養う”そのために正社員になることを目指してきた。でもなれなかった。
そして養う家族も、もういない。
そんな現実が、彼をある思いへと誘った。
 
「このまま、毎日同じ仕事を続けていくのか」
「このマニュアル通りの仕事を、死ぬまで……?」
 
「趣味のサーフィンがしたい。そして、オーストラリアに戻ってみたい」
 
突然何を言い出す……?! と思われるかもしれないが、実は私たち家族は、父の仕事の都合でオーストラリアに住んでいたことがある。
弟は、現地の小学校で生徒会長を務めるなど、自分らしく明るくのびのびと過ごしていたから、一人になった今、第二の故郷へ「帰りたい」と思ったのも自然なことなのかもしれないと思った。
 
しかし、当然周囲は猛反対。
 
「ワーキングホリデーなんて遊びに行くようなもんやろ。帰ってきても仕事はないで」
 
「何しに行くんや。どうせ遊んで終わりやろ」
 
会社の幹部の人にも、先輩にも、もちろん親にも反対された。
 
私はというと、英語も話せない上に計画もない。なんて無謀なことを……と思っていた。
弟は、かつては英語がぺらぺらだったのだが、帰国して十数年。日常的に英語を使わなくなってからというもの、いつの間にかすっかり英語が話せなくなっていたのだ。
反対というより呆れているという感じだった。
 
でも、弟は「なんとかなるやろ」精神の持ち主で、
彼の中でオーストラリアに行くことは決定事項になっていた。
 
「行くからには絶対に何かやったる! 何かはわからんけど、必ず何かを成し遂げる」
反対されるほど、彼の中にはそんな強い意志が芽生えていたのである。
 
無謀に思える行動ではあったが、私には到底選択できないことである。
自分の強い意志を貫いて行動に移す姿を、自分の直感を信じきる姿を尊敬する気持ちもまた同時に私の中に生まれていた。
 
そして、弟は友人のいるオーストラリアのメルボルンへと旅立っていった。
 
しかし、友人がいるというだけで仕事が決まっているわけではない。
まず職探しから始めねばならない。
 
さぞ苦労するかと思いきや、そこは「なんとかなるやろ」精神が見事発揮される。
友人のつてで、メルボルンで五本の指に入る屈指のカフェのシェフではなく、
ウェイターでもなく、皿洗いの仕事が決まった。
 
とにかく生きるためだ。彼は一生懸命皿を洗った。
 
そんなあるとき、別のお店からシェフのトライアルをしないかと誘いを受けた。
別のお店で料理をしてみないかということである。
 
「皿洗いよりシェフがいい!」おそらく誰もがそう思うであろう。
当然彼も同じことを思った。
彼はさっそくカフェのオーナーに事情を話し、退職を願い出た。
 
すると、オーナーから一言。
「ここでトライアルしろよ!」
 
「え……!」
「料理の経験もないのに、いきなりこの店で……?!」
 
心配をよそに、トライアルに無事合格した弟は、
翌日にはシェフジャケットと包丁を手渡されたのであった。
 
職探しから始まったオーストラリアでの生活は、誰もが憧れる名店でのシェフにたどり着いた。
 
根は誠実で真面目な彼だ。
それからというもの、来る日も来る日も、朝6時から夕方5時まで仕事に励んだ。
散々怒鳴られて帰宅した後は、メモや調べものに追われる日々……
誰もが羨む環境で働けているのは間違いないのだが、オーストラリアに来てすでに半年。ワーキングホリデーのビザは1年。
充実した生活を送っているにもかかわらず、彼の中ではだんだんモヤモヤがたまっていた。
 
「あれ……? 俺、全然サーフィンできてへんやん……!!」
 
“サーフィンをする”
そんな当初の目的がまったく果たせていなかったのである。
 
私からすれば、サーフィンなんかよりよっぽどすごいことを成し遂げているのに何たることだと思うのだが、ここで「サーフィンできてない問題」を持ち出してくるとは、我が弟ながら理解に苦しむ部分でもあり、逆に感心してしまう部分でもある。
 
「2年目が絶対に必要!」
ビザの更新を決意した彼は、サーファーの聖地であるゴールドコーストに向かった。大好きなサーフィンをするという最大の目的を果たすために。
そして2016年夏。オーストラリアに来て半年。それまでに貯めた資金で、大好きなサーフィンを思う存分楽しむ生活が始まった。
 
あれから5年。送られてくる写真の中の彼は実にいい表情をしている。たった一人で旅立っていった弟には今、本当の家族と思えるような人たちが大勢いる。一時は生きる気力さえ失っているかに見えたが、それを乗り越えた先に待っていたものは、自分らしく力強く生きる毎日だった。
 
彼のことを書きたいと思って尋ねたときのことだ。
「どこまで書いてもいいかな? 書かないでほしいこと、ある?」
「えー! なんでも書いてよ! 俺の人生に隠すようなことなんていっこもないで!」
彼がさらっと言ったこの言葉が胸に響いた。そして、すべてのことがあってよかったと笑う彼をとても頼もしく思った。
彼は今、永住権の取得に奮闘している。そんな弟に姉から最大のエールを送りたい。
「我が弟よ、突き進め!!」
 
 
 
 

***
 
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2021-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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