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メディアグランプリ

プラダのくつ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大網 志乃(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「いいくつが、ステキなところに連れて行ってくれる」
 
営業というお仕事は、歩くのが仕事。歩いてお客さまのもとへ行き、ご用を伺う。よろこんでいただけることもあれば、そうもいかないこともある。それでもわたしは靴をはいて歩く。
 
その日、先日起こったミスの件で、客先にあやまりに行った。当然だがお客様は怒っている。ひたすら頭をさげるわたし。このたびは、もうしわけございませんでしたっ、頭をさげながら、持ってきた羊羹をさしだす。お客さまは、いやがらせなのか!! と口の角から泡を飛ばしてきた。お客さまは甘いものがお嫌いだった。そして、その帰り道、靴が壊れた。
 
裏が剥がれて歩くたびにペタンペタンとなる。誰だ、お詫びに羊羹を持ってけって言ったの。ペタン。余計怒られたじゃないか。ペタン。
 
駅が近づいてきた。暮れなずむ街にネオンがにじむ。電車に乗らなきゃ、恥ずかしいな、これじゃ。駅ビルの周りをうろつく。百貨店の大きなショーウィンドウに、きれいな洋服を着たマネキンが並ぶ。人形のくせに、なんでそっちがそんなにきらきらしてんの?
 
そのとき、マネキンの足元に目が吸い寄せられた。ぴかぴかと、つややかなカーマイン色のハイヒール。そのくつにはこう書いてあった。プラダ。
 
「いいくつが、ステキなところに連れて行ってくれる」
誰が言ったのだろう。
 
わたしが今まで買っていた靴は、学校や会社へ行くためのものだった。学生の頃は、学校指定のローファー。社会人になってからは、黒いローヒールのパンプス。
こんな、かかとの高いくつじゃお客様のところには行かれない。
 
目の前のくつは、まるで雲の隙間からもれる一筋の光に照らされているようだった。
 
「あのくつ、履かせてください」
 
わたしは、店内に入っていた。高級なしつらえの床にはカーペットが敷いてあり、わたしの靴は音がしなかった。ハイセンスな装いの店員さんが上品な手つきでさっと用意してくれた。くつに足を滑らせる。
急に視界が高くなった。鏡で姿を映す。横から見たときの形が完璧だ。なぜか自分が上等な女になったような気がした。きっとシンデレラがガラスのくつをはいたときも、おなじように思ったに違いない。
 
買おう。
 
そう思ったとき、
いちじゅうひゃくせん
いちじゅうひゃくせんまん、じゅう……
 
わたしがいつも買っている靴とは桁が違う。
 
今月、いくら使った? 家賃に光熱費に携帯代、アマゾンで本を二冊買った、あとは? 遊びに行ったのは今月だっけ? いや、待って、店員さんがこっち見てるし、あれは、先月だっけ? わからない。わからないけど、そういうときのためにあるのだ、そうリボ払いってやつが。
 
「これ、これください!」
 
差し出すカードが小刻みにふるえる。サインする手が汗だくなのは、わたし、暑がりなんですって、だれも聞いてないのにつぶやいてみる。
 
買った。
 
なぜか走って店をでた。靴をペタペタいわせ地下道を抜け、改札を抜けて、来ていた地下鉄に飛び乗る。息を整えて、改めてショッピングバッグを見る。プラダって書いてある。あのくつが入っている。とても誇らしげに見えた。家に帰り、玄関を上がるや否や、プラダの箱を勢いよく開けた。仲良く互い違いになって収まっているひと揃えのくつ。いそいでお風呂にはいり、速攻髪を乾かす。
そして、パジャマになって照明を落とした。薄暗い部屋で、そっとくつを取り出した。きらきらしていた。履いてみる。窓ガラスに映す。くるっと回る、歩く、そして、そのままベッドに入った。
 
翌朝、わたしは決めていた。いつものパンプスはアロンアルファで補強した。そしてプラダのくつをPCもはいる大きめの会社用のかばん入れた。その日は、上司とミーティングがあり一日中社内で、メールの返信、電話の対応と立て続けに、髪を逆立てながらこなしていた。そして、怒涛の仕事が終わると、デスクの下でそっとプラダのくつに履き替えた。
 
きらり。どこいく?
 
会社を出ると、いつもより高いところから景色が見えた。こんなところにこんなお店あったっけ? こんなことろにこんな横道あったっけ? ふと気がつくと、次の駅まで歩いていた。
 
それからわたしは、営業に行くときも、プラダのくつをこっそりと持って行き、仕事が終わると、コンビニの脇やATMの横でプラダのくつに履き替えた。洋館みたいな古いビル、ジャズが流れているお蕎麦屋さん、不思議な絵を売っている画廊、半地下になった窓から見えるカウンターに猫が鎮座しているバー、蝶ネクタイでヤギみたいなヒゲのあるマスターがいる喫茶店。こんなにすてきな街だったっけ。
 
プラダのくつが、まさに羅針盤だった。
 
その日も、営業帰りにATMの脇でプラダのくつに履き替えた。駅に背を向け歩く。大きな書店のショーウィンドウに営業の極意って本があったけど、それを横目にして歩く。人通りが少なくなってきた。気の向くまま、くつの赴くまま歩く。古い雑居ビルが続く。見上げると二階に看板が出ている。上がってみる。そして覗く、と、本がある。こたつがある。人が集まって熱心になにかしている。宗教? こわい。でも、なんだか気になる。入る? くつがきらりとしていた。
小さな本屋さんみたいだった。はじめての場所にきた猫みたいな姿勢で店内をうろつく。フライヤーがある。ライティング・ゼミ? なにか書くこと教えてくれるの? 一枚くすねて店をでた。
ねぇ、くつ。わたしやってみたいかも。書いてみたいのかも。やったことないけど、なにか新しい、ステキなところへ行くことができる気がする。
 
そうして今、わたしはこの記事を書いている。
 
「いいくつが、ステキなところに連れて行ってくれる」と信じて。
 
 
 
 
***

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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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