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芸術を芸術たらしめるもの


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記事:横山恵(ライティング・ゼミ平日コース)
 
その部屋に入ると思わず息をのんだ。
息ができなくなったという方が正しいかもしれない。目の前には何十体もの仏像が並びこちらを見ていた。その光景を見た途端、私はその場から動けなくなった。
 
ここは東京国立博物館の法隆寺宝物館。はじめて訪れたのは21歳のときだった。
上野動物園が夏の期間限定で夜まで営業していた時だった。友人がそこでライブ演奏をするというので見に行った。
その前に、せっかくだから博物館も見学しておくか、という程度だったと思う。事前に調べたわけでもなかったので、どこに何を展示しているのかも知らなかった。それが良かったのかもしれない。21歳の私はそこまで仏像に興味がなかったからだ。きっと調べていたら建物まで足が向かなかったと思う。
 
正面玄関からは法隆寺宝物館の姿は見えない。まぁここを観とけば間違いないだろう、とまずは一番大きな建物に入る。そこで何を観たかはあまり覚えていないが、ある程度満足して出口に向かい歩いていると、目的地とは逆の方向に道があった。自然と足が向かう。
 
その道を抜けると、目の前の建物はまるで水の上に建っているようだった。胸が高鳴った。ドキドキしながら水の上の道を歩く。別世界に連れていってくれるような、少し高尚な空気を感じた。
 
建物に入る。天井が高く余計なものは何ひとつなかった。
格子から入ってくる光が綺麗で、外を見れば水がキラキラしていた。
館内案内に沿って歩いた。最初に部屋に入った瞬間、私の足は止まった。
身体が重くなった。その部屋の空気が全身に押し寄せてくるようだった。吸い込む空気の密度が高くなったように感じた。
 
これはなんだろうか。頭は冷静に動いていた。
優しいものに包まれている感覚だった。
 
驚きはしたが、不思議と怖くはなかった。そうなることが当然とさえ思った。
何十体もの仏像がやさしく私を見ているようだった。
手も痺れている。他の人から見ると通路に突っ立って何をしているのかと思われたかもしれない。私は他の人が普通に動けていることが不思議だった。
 
どれくらい立ち止まっていただろう。私にとっては長く感じたが、実際は10秒ほどだったのだと思う。
やっと動いた足で仏像の一体一体の前を歩いていった。当たり前かもしれないが全てが違う顔をしていた。何を思い何のためにここに立っているのだろうと考える。
全ての顔を観終わっても私には到底答えの出ない問いだった。
 
部屋を出ると身体が嘘のように軽くなった。
身体がピリピリと痺れ余韻だけを残していた。
余韻をまといながら博物館を出る。
上野公園を抜ける頃には先程のことが遠い記憶のように感じた。
 
この文章を読んでいる方は、なんだかおかしな勧誘でもしているのかと心配されるかもしれないが、私はその時も今も、ずっと無宗教である。
幽霊なども見たことがないし信じてもいない。
だが、この経験は勘違いでも妄想でもないだろうと思っている。全身に押し寄せてきた空気のようなものが何かまではわからないが、芸術への関心が高まった瞬間であった。
 
これを書きながら、岡本太郎の「芸術というのは生きることそのものである」という言葉の意味が、ほんの少しだけわかった気もする。
芸術作品と言われるものは、美しくキレイな感情でつくられたものよりも、生活の中から生まれる欲望や願い、苦悩などの溢れ出る感情を拾い上げカタチにしたものが多いように感じる。
信仰の対象である仏像も、人々の苦しみや悲しみを救う者として体現したものだ。
人々の思いを受け止めるその姿は、少しの恐ろしさと威圧、そして全身で感じる異様な空気感と優しさが芸術を芸術たらしめていた。
 
ちなみに、あれからまた何度か法隆寺宝物館を訪ねたが、このような体験をしたのは最初の一度だけだった。
この後に音楽業界に入り、ライブ企画やイベント運営をすることになったが、仏像とはまた違うカタチとしての芸術である音楽にも「芸術というのは生きることそのものである」という言葉が当てはまるように感じる。
潜在的に、ずっと私の活動の中で法隆寺宝物館での出来事が生かされてきたのかもしれない。
 
あの建物を目の前に見た瞬間から不思議な体験がはじまっていた。
余計な装飾がない中にも特別な存在感を感じた法隆寺宝物館は、谷口吉生が設計したものらしい。あの部屋に入るまでの気持ちの変化を想定して作られたのだと思うと、ゾッとするほどの想像力だ。
 
不思議に惹きつけられる出で立ち。水の上を歩く高揚感。
周りの木々の音でさえも全て計算しつくされたもののように感じる。
あの時の経験は一生忘れないものになるだろう。
皆さんにも、是非体験してほしい。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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