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「ありがとう」の言葉を使えなかった少女

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記事:武田かおる(リーディング倶楽部)
 
 
小学5年のときの出来事だ。
 
学校で消しゴムを忘れたことに気がついた私は、となりの席に座っていた男子に貸してほしいとお願いした。その消しゴムを返した後、男子は私に言った。
 
「こういうときは『ありがとう』と言うんだよ」
 
その男子はお礼を言わない私に腹を立てるというわけではなく、諭すように優しく教えてくれた。
 
私はそんな事を同級生に教えられて恥ずかしくなってしまった。ぎこちなく「ありがとう」と言われたとおりに返した。
 
そう、タイトルの「少女」とは私のことである。あれから40年近くが経つが、この出来事は私にとって非常にショックで恥ずかしい記憶として今でも忘れることができないでいる。この男子には本当に感謝している。あの時教えてもらわなければ、中学生になっても人に「ありがとう」と自然に言えずに、非常に失礼極まりない奴になってしまっていたかもしれないからだ。
 
当時、私は「ありがとう」の言葉を知らなかったわけではない。テレビや本から、人に何かをしてもらったときは感謝の意味を込めて「ありがとう」と言うことぐらい知っていた。だが、家の中でその言葉が使われているのを聞いたことがなく、学校でもすっと行動とともに自分の言葉として出てこなかったのだ。
 
私の父は家ではいつも機嫌が悪かった。父が仕事から帰宅後、母は父の酒や食事などを準備する。最後に父が「お茶」と言うと、母が熱いお茶をいれて父の前に置く。食後父は無言で席を立つ。母が後片付けをする。儀式のように毎晩このルーティーンが目の前で繰り返された。だが、夕食時、父は母に一度たりとも「ありがとう」と言ったことはなかった。私はある本を読み、こういった父の偉そうな態度が無意識に私の脳に刷り込まれていたことで、私が「ありがとう」という言葉を日常で使うことができなかった理由ではないかと分析した。
 
ある本とは、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー第一位であり、ビル・ゲイツやオバマ元大統領夫妻も絶賛するタラ・ウェストーバー著『エデュケーション 大学は私を変えた』である。
 
この本は、アメリカ、アイダホ州の山奥で育った著者の回想録である。
 
以下、ネタバレが含まれてくるため、ご理解いただいた方のみ読み進んでいただきたい。
 
著者(以下タラと記載)の父親は世界の終わりが来た時に生き残ることができるように、食料やガソリンなどの備蓄に精を出すサバイバリストだ。また、タラの両親は政府を信頼しておらず、子どもたちを学校に通わせなかった。それだけではなく、父親の仕事である鉄やスクラップなどを扱う廃材置き場の危険な作業をヘルメットなどの安全用具を着用させずに子どもたちに手伝わせていた。その結果、著者を含む兄弟の数人が作業中に大怪我を負ってしまう。にも関わらず、両親は病院を信じていないため、子どもたちを病院に連れて行かず、母親が専門とする薬草などで治療するのである。
 
そんなタラは大学に行った兄の影響で、父親に反対されながらも大学に進学する。あまりに閉鎖的な家庭で育ったタラは大学進学後、自分の行動と周囲のそれとの間に数々な相違があることに戸惑う。一緒に住んでいたハウスメートから間接的に「トイレに行ったら石鹸で手をあらうように」注意されたこともその一例だ。(1)トイレの後の手洗いは、先進国の多くで常識のように思う。しかし、彼女の父親がトイレの後に手を洗うことが必要と考えていなかったので、タラも手を洗わないことが習慣化されてしまっていたのだ。このように同じ国に住んでいても、家の外に出たことで、今までの常識が社会では非常識だったということにタラは気がつくのである。それはタラにとって、国内にいながら経験するカルチャーショックだった。
 
さらに、家族からの暴力や精神的圧力など、壮絶な半生を送ったタラの人生は非常に特別だ。自分とは全く違う世界で起こった出来事なのに、読後、私に冒頭の体験を思い出させ、自分ごととして突き刺さってきた。
 
私の父はタラの父親のように、学校に行くことに反対したり病院を否定するなどはなかった。また、意図的また能動的に自分の考えを私に押し付けたりすることはなかった。父は頑固で亭主関白で、自分の気持ちを素直に表せない人だったが、人間的に悪い人ではなかった。しかしながら、私の父は家族に感謝の言葉をかけないという行動を私の前で繰り返すことで、幼い私にもそれを刷り込んでいたのだと思う。
 
自分が親となった今、親として子供らが幸せになるようにできる限り努力したいと思う一方で、本書を読み、また私の父のエピソードを回想し、自分の普段の生活の何気ない言動が無意識のうちに子供に影響、あるいは子供の思考や行動に刷り込まれれている可能性を改めて考えた。今後、この事を念頭に置き、考えながら行動していかなくてはと身が引き締まる思いがした。
 
 
 
タラ・ウェストーバー(2020)村井理子訳『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』株式会社早川書房 キンドル版
 
引用文献
タラ・ウェストーバー(2020)村井理子訳『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』
株式会社早川書房 キンドル版 位置No.3822/6811
 
《参考図書》
ブレイディみかこ(2019)『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
株式会社新潮社,(Kindle版)
 
《参考文献》
Herpers Bazaar, Retrived on Aug 31, 2020, from https://www.harpersbazaar.com/jp/lifestyle/love-weddinng/a27213441/women-pregnancy-rates-over-30-190421-lift1/
ブレイデイみかこ(2019)『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(kindle版)位置No.1961/2953 (株式会社新潮社 11未来は君らの手の中)
 
 
 
 
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2021-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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