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子供が診察台にのぼりたがる歯医者さんとの出会い

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
初めて先生の診察室を見たのはもう4年くらい前のことだ。
 
前々からその歯科は評判が良くて、遠くから通っている患者さんも多いと聞いていた。
 
けれど、私自身がもともと歯に対して、差し迫るほど困ってはいなかったし、そもそも歯科とはよほど困るまでは近づきたくない場所だった。いざ、という時にはそこにお世話になろうと決めていたけれど、最後の一押しが足りなかったのだ。
 
初めてその歯科を訪れた時は、診察を受けるためではなかった。友人と物の受け渡しをするために待ち合わせをするにあたって、その歯科にいるので来てくれないかと頼まれたのだ。
 
歯科の扉を開けると、奥の方に診察台が見え、友人と子供達が診察を受けているところだった。
 
私は目を疑った。
 
友人の子供達が、診察台に我先にのぼるために群がっていたのだ。
 
歯科と言えば、子供達が嫌がり、泣き、診察台まで引きずられるように連れていかれ、診察の間も羽交い絞めにされながら、この世の終わりのような叫び声を上げ続ける。そんな場所だと思っていたから、先生の朗らかさと子供達の明るい楽しそうな声は、歯医者にしては異質だった。
 
この歯医者さん、本当にいいのかも。
 
背中を押されたような気がして診察を予約してみることにした。
 
「申し訳ありません、実は新規の方は、3か月待ちなんです。来ていらっしゃる方の診療を優先しているので」
 
受付をされている奥さんが申し訳なさそうに言う。
 
予約が取れないとなるとますます気になる。言われた空き日をスケジュールに書き込み、私はその日を待つことにした。
 
3か月後、子供達を引き連れ、歯医者を訪れた。
 
「長い間、お待ちいただいて申し訳なかったです」
 
先生は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
私は驚いてしまった。
なんて腰が低いのだろう。
 
偏見かもしれないが、私にとって医師や歯科医師は殿様だ。知識が豊富で自分の体調を良くしてくれるカギを握っている。命を握られていると思うと自分が下に置かれているように感じるのは私だけだろうか。意見を言ったり、はむかったりしてはいけない、言われたことは絶対だと思っていた。
 
それに、ここ数年医者に依存しない代替療法を選択する機会が増えたので、医者との距離がますます広がってしまった。自分がしていることは医者には認められず、医療機関に行ったときに、「素人が中途半端な判断をして」と思われるような気がしてしまう。どうしても医療機関に行かなければいけない時には、何を言われるかわからないと構えてしまい、理解してくれそうな医療機関を選ぶのにも苦労していた。
 
歯科の先生は、まず、口の中の様子を診る前に、我が家の生活スタイルや今までの歯のメンテナンスをどのようにしてきたのかという話を聞いてくれた。最近医療機関に多い、パソコンに状況を打ち込んでいてこちらと目を合わせてくれることが少ないということもなく、ゆっくりと目を見て話を聞いてくれる姿勢に安心する。
 
「僕の治療は、極力自分の歯を大事にして虫歯があってもどのような付き合い方をしたらいいのかというのを一緒に相談しながら決めていきます。見た目歯並びの美しさよりも、かみ合わせを大事にしているので、多少、見た目が悪かったとしても、かみ合わせがきちんとしていたらそれが身体の健康につながるはずなんです」
 
今まで、歯科医から聞いたこともないような内容だったので驚いて、そうですか、としか返答できない。
 
「もちろん、治療が必要なら適切な処置はします。ただね、ちょっとした虫歯の治療を歯科医が施すことによって、歯の表面が傷つき、そのままだったらそんなに進行しなかった虫歯がひどくなる、ということも少なくないんです」
 
「虫歯がひどくなるのは歯医者さんの処置のせいということですか?」
 
先生が少し眉根を寄せながら小さくうなずいた。
 
「昔の治療スタイルがごく小さな虫歯でも削るという方針だったんです。でも、僕が沢山の患者さんを診てきた限りでは、削るのは最低限でいい。それ以上に大切なことがあります」
 
治療以上に大切なこととはなんだろう? 私が首をかしげたのを見て、先生はにっこりと笑った。
 
「それはね、来てくださった方に、安心してもらうことです。患者さんは歯の知識、口の中の知識がないところを歯科医に診られて、勝手に治療方針を決められてしまうから、言われるがままに治療することになる。でも、本来、自分の今の状況をしっかりと知って、納得した上で治療を進めていくべきだと思いませんか?」
 
私はうなずいた。
 
「例えば、季節の変わり目に体調を崩したりするでしょう? 口の中も一緒なんですよ。季節の変わり目には歯茎がむくんでしみることもある。そうやって身体は、四季に応じて調整するんです。だからそういう変化について、相談に乗るだけで、何も治療せずに終わる方も少なくないんです」
 
僕は、まず話を聞くことが大切だと思っているんです、先生の声に力がこもった。
 
結局、その日は、子供達と私のそれぞれの歯に関する疑問を出してそれについて診てもらいながら話した。先生の診察は歯科医というよりはカウンセラーのようだった。長男は全体的に出っ歯気味だけど、かみ合わせが非常にいいので歯を食いしばってこれから苦しいことがあってもちゃんと乗り越えられるよ。長女は、歯ぎしりが強くて頑張り屋さん、いつも頑張っているから甘えさせてあげてね。末っ子はノンストレスだからこれからものびのびすごさせてあげたらいいですよ。
 
そして、私の歯を診て、先生はある個所をじっと眺めた。
 
「かなえさんは、歯科矯正の器具を付けていた歯が装具で傷ついて、そこから虫歯になっているような感じがします。外側からは見えないから僕の歯科医経験からの見立てです。普通の歯医者だと見過ごす可能性があるけど、このケースは、痛みもなく突然歯が崩れるかもしれないから、処置してもいいですか? レントゲンを撮れば裏付けできると思い
ますが、レントゲンを撮ってから決められますか?」
 
私はレントゲンなしで処置をお願いしますと答えた。たったの30分ほどで、心の底から先生のことを信頼できると思ったからだ。その虫歯の処置も削ることはなく、5分ほどで終わった。もちろん痛くもない。
 
今までの歯科治療は何だったんだろう? と思うくらいすべてが目新しかった。
でも、最新の機械があるわけではない、沢山の歯科衛生士が控え、オシャレな待合室があるわけでもない。
 
「ほとんど処置しないので、もうからないんですよ。だから、こうやって夫婦二人で仕事をするしかなくて、沢山の方を受け入れることができないんです。こんなスタイルですが、もしよかったらまた来てください」
 
我が家の子供達も先生の周りに殺到し、自分が診てもらいたいと争うように診察台に上った。
 
私にとって歯医者は用がなければ近づきたくないところだった。でも、先生に出会い、彼の生き方や人に対する姿勢など学ぶことが多いので、その歯科に通うのが楽しみになったのだ。
 
そして、先生との出会いを通じて、諦めなければ自分が望むような出会いはあるのだと信じることができるようになった。
 
自分の世界を豊かにする出会いは、自分にしか作れない。だから、これからも勇気をだして沢山の出会いを探しに行こう。
 
 
 
 
***
 
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