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メディアグランプリ

怒りが転じて作家志望らしくなれた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:清水 千尋(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
じゃあなにか? 特別な経験をした特別な人間じゃなきゃダメってか?
 
昼下がりのカフェ。私は爆発的な怒りに駆られていた。両手をテーブルの縁に手をかける。盛大にテーブルをひっくり返してやろうとしたのだ。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
目の前にカップを置かれて我に返る。新聞を広げるサラリーマン、店のオーナー夫人と親しげに話す中年女性。店内BGMはショパン。騒ぎを起こすにはあまりに平和な空気に満ちていた。
私は怒りを放出するように息を吐いて、ゆっくりココアをすする。
踏まれて気づいた。目の前に座るFさんの言葉は私にとって地雷だった。
「特別な経験をしたからこそ、作家っちいう特別な存在になれるんよ」
「はあ?」
「人がせんような経験をしたからこそ、こういう作品が生まれたんよ。作家っちゅうんはね、平凡な生き方しちょったってダメなんよ」
彼の言葉は私の怒りに火をつけた。花火程度ではない。タンクいっぱいのガソリンに火のついたタバコを放り込んだようなもの。私の内心は赤黒い炎と黒煙でいっぱいになった。
 
私は、私にとっておじいちゃんくらいの年齢になるFさんとカフェにいた。読書会で何度か会ったことがある人で、たまたま入った店で一緒になったのだ。Fさんも小説を書く。芥川賞を狙っているらしいが、それらしい前歴は聞いたことがない。話の流れで、ある女性が書いた短編小説の話になった。
 
その作品は家族から虐待を受ける若い主婦が主人公だった。ひたすら耐え忍び、自ら命を断とうかという時、自分以外の家族全員が事故で亡くなるというもの。
一方、作者のブログには小説と似た人物造形の家族が出てきて、今日はこんな嫌がらせされましたと報告。その合間には、友達以上の関係らしい異性の写真がちらほら。
物語の中で嫌いな家族を葬り去った?
読後感は最悪になった。
作品は作品だ。作品と作者がイコールなら推理小説作家はみんな名探偵になってしまう。作品と作者の私生活を一緒くたにするなんて、私も普段ならしない。ただ
こればかりは物語に満ちる怨念がただごとではなく、つい検索してしまった。
Fさんは作品をベタ褒めだ。文学表現が美しく、凄惨な生々しさを引き立てているのだそうだ。
くたばれ、エセ作家ジジイ。
 
「酒、女、博打。宵越しの金は持たねえよってね。若い頃はそうやって無茶やってなんとか作品に活かそう活かそうて、悪いこといっぱいやったわ」
「じゃあ、特別な人生じゃなかったら、まじめに生きてたら作家になれないんですか?」
「平々凡々な人間がなに書くんな」
 
その晩は怒りで眠れなかった。平々凡々な人間が一体なにを書くというのか。敵意を向けたら、こちらが瞬殺された気分だった。
いつか小説を書いてみたい。なんなら賞とかとって出版とかされてみたい。
学生時代からの憧れを潰されたのに、一言も言い返せなかった。実際、小説を書いてはみたいけど、なにをどう書けばいいのかわからない。作家のインタビューなんかでは日常にヒントを見つけ、それを膨らませて作品に仕上げるようなことが言われている。職場と家とを往復するだけの私の生活ではヒントすら見つけられずにいた。Fさんへの怒りはつまり、私自身への怒りだった。どうすることもできないでいる苛立ちからの八つ当たり。それで不機嫌に見下して失礼な態度を取ったことも申し訳ないし、自分が情けないしで涙が出た。
 
ひとしきり泣いて、書きたいと言っているだけの自分にほとほと嫌気がさした。
特別な経験をした、特別な人じゃなきゃ作家になれないなんてのも認めたくなかった。
金曜の夜。幸い明日は休日。眠れないなら、なんでもいい。なにかを書き始めてみよう。一行でいい。なにか! 勢いよく布団から飛び出した。ワープロソフトを開いて手が止まる。なにかネタになるもの。そうだ、ある! 書きたいことがない作家志望のイタい女が今ここにいる。私を主人公にしよう。
 
書きたいと言い続けていた十数年、まったくなにもしなかったわけではない。小説や脚本の書き方の本だけはたくさん読んだ。映画でも見慣れている三幕構成なども知っていた。
プロの作家は担当編集さんとかいて、いろいろ相談できるんだろうなとか考えていたら、ふとストーリーのネタが思い浮かんだ。ある日、作家志望の女の前に、「あなたの担当編集者になります」と小さな人型ロボットが現れるのだ。
神話や童話の基本。「行って帰るの物語」マイナス状態の主人公はひょんなことから非日常を経験して、元の日常に戻る。でも以前までの主人公と同じではなくなっている。主人公が非日常を経て成長するストーリーの王道。主人公は小説を書き上げることができるのか。
真夜中のポエム状態かもしれないとうっすら自覚しつつも、ワクワクした。いきなり長編になりそうな予感がした。破綻してもいい。挫折するかもしれない。でも不思議なロボットに導かれて小説を書き始める主人公の向かう先へ、行けるところまでついていこう。
スターウォーズ、ロードオブザリング。成長物語には主人公に敵対する者、手助けしてくれる者。お決まりのキャラクターがいる。人物モデルは友だちや職場の人。もちろんラストはハッピーエンド。
思いつくままどんどん書いていく。あまり先のことは考えない。短い章を繋いでいく。映画とかだとここらで問題発生よね。口から出まかせ。出たとこ勝負。指南書の書き方とはちょっと違うけど気にしない。人物の行動が矛盾しないように。それだけ気をつけて、ハッピーエンドへにじり寄っていく。
 
半年後、原稿用紙三百枚ほどの処女作に「完」の文字を打った。
わりと有名な文学賞に応募してみたけど、もちろん落選。
でも気づくとその半年の間に、小説を書くための時間をつくる新たな習慣づくりができていた。平日はテレビを見ない。だらだらネットを見ない。食事は一日三食から二食へ。朝食の準備は五分で済ませられるように休日に作り置き。時間をやりくりして平日は毎日二時間から三時間、書く時間が確保できた。
 
Fさんに椅子をぶん投げなくてよかった。憧れを潰されたように感じたけど、おかげで一念発起できた。Fさんにそんな意図はなかったのだろうけど。
あれから七年。すっかり書くことが日常の習慣となり、小さな文学賞で優秀賞をいただくこともできた。人生なにがきっかけでどう動くかわからないものだとつくづく思う。人生は小説よりも奇なり。
 
 
 
 
***

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2021-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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