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メディアグランプリ

22時の冒険譚


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まけきら子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「あー、今日もダメだった! とりあえず生ビールちょうだい!」
彼女は席に着くなりそう言って机に突っ伏した。
 
彼女は私のバイトをしているバーの常連さんだ。
土曜22:00、彼女は決まって現れ、こう言う。
「とりあえず生ビールちょうだい!」
そして、喉を小気味よく美味しそうに鳴らし一気にビールを流し込む。
「あー、美味しい! やっぱりビールが一番」と空になったグラスをカウンターへ置き、幸せそうな顔をする。私は、この光景を見るのが好きだ。
ビールを一気に流し込む彼女の姿は、とても勇ましい。それはまるで、戦いを終えた勇者が全てを報いるために、そして祝杯をあげるかのようにビールを飲み干す。そんな彼女の姿を見るとこちらまでスッキリした気持ちになれる。
 
彼女は40歳独身の広告代理店で営業をやっているキャリアウーマンだ。
この肩書きだけで、まるでドラマや映画の主人公感が出るから不思議だ。彼女を一言で云うならば「女前」だ。スッキリした性格で、気配りもでき、仕事もできる。
彼女は、お店の常連さん男女問わず人気者で、初めてきたお客さんともすぐに打ち解ける。
みんなを楽しませる才能まで持ち合わせていて、彼女目当てで来てくれるお客さんも少なくない。しかも、誰もが認める美人ときている。
まったく、天ってものは一人の人物に二物も三物も与えすぎだ! 少しでいいから分けて頂きたい。彼女はまるで、オープニングからすでにレベル99の勇者だ。つまり、無敵の存在。
 
そんな彼女がある日言った。
「私、とりあえず婚活しようと思うの」
こないだまで「結婚なんてしない。私は自由に生きたいの」と高らかに声を上げていた彼女。それが突然どうしたというのか。何かの冗談か? それともどこかで頭でも打ったのだろうか、と少し心配になったが、彼女は本気だった。
 
なぜ突然そう思ったのかはわからないが、言い出したら必ず実行する無敵の勇者だ。あっという間に、素敵な人を捕まえ祝杯をあげるだろうと、私は思った。
 
それからというもの、彼女はありとあらゆる婚活を繰り広げた。マッチングアプリに街コン、お見合いパーティー、友人からの紹介……出会いがなかったと言えば噓になる。それなりに出会いはあったし、デートもしていた。しかし、いつもうまくいかない。
「なんかね、何かがしっくりこないの。決め手みたいなものが。とりあえずこの人だっていう何かがないんだよね。」と、彼女はよく言っていた。
 
婚活という冒険を始めて半年。彼女は未だ実りある出会いを果たせていなかった。
 
「婚活ってさ、年を重ねる度に難しくなっちゃうんだって。年齢的っていうのもあるんだけど、生きて色々な事を経験していくうちに、自分の中に細かい条件が増えてくんだよね。
昔は、背が高くて面白い人がいい!とか簡単な条件でよかったのにね。」
いつになく少し元気のない彼女「あー、やっぱ難しいのかな。この年になるとさ……
」珍しく弱気な発言をする。心なしか彼女の飲んでいるビールの炭酸も元気がないように見えた。
 
そんな彼女の話を聞き、励ます一人の男性。
彼もまた、バーの常連さんだ。彼は、華やかで人気者の彼女とは正反対な物静かなタイプだ。いつも誰かの話を一生懸命聞いている。そして、時には慰め、時には一緒に喜んでいる。一言でいうならば、優しい人。彼女も何かあると必ず「とりあえず、彼を呼んだの」と言う。呼ばれると彼は必ずやってきては、彼女と楽し気に話し、時には彼女の話を優しく聞いている。まるで勇者を陰で支える魔法使いのようだ。
 
実は、彼は彼女の事が好きなのだ。なのに、自分の気持ちを言うこともなく彼女の婚活話を聞いている。彼の冒険もまた困難を極めていた。
 
彼女を好きな彼、生涯をともにする相手を探す彼女。歯車が嚙み合いそうで噛み合わない。
世の中って難しいな……そう思いながら、ビールを二人の前に出す。
 
それから、数か月。相変わらず彼女の冒険はうまくいっていなかった。しかし、諦めないのもまた彼女らしさだ。
 
そして彼の方も「とりあえず」と呼ばれては、いつも彼女の隣に座り話を聞いている。それもまた彼らしさだ。
 
そんな二人を見て思う。
なんというもどかしさだ! そもそもだ、そろそろ気づいて欲しい。彼女の言う「とりあえず」の意味を。彼女にとっての「とりあえず」は「なくてはならないものであり、絶対的なもの」なのだ。彼女自身は実は気づいているような気がしている。しかし、それに気づかないふりをしているのか、それとも言い出せないのか……無敵の勇者だと思っていた彼女にも弱点があったようだ。私は歯痒さを感じながらため息をついた。彼女と彼の冒険はまだまだ続きそうだ。
 
土曜日、22:00
彼と彼女は並んで座っている。この日の彼は何かがいつもと違った。
私は二人に、とりあえずのビールを出した。
すると彼は彼女よりも先にビールを飲み干しこう言った。
 
「とりあえず、僕とデートしませんか?」
 
やった! 私はスッキリした気持ちで彼にビールを差し出す。
「とりあえず、私からです。どうぞ」彼への祝杯として。
 
彼はついに自らの手で冒険の章を進めた。そうか、彼こそ真の勇者だったんだ。
 
 
 
 
***

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2021-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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