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メディアグランプリ

銀座ナンバーワンホステスの話。


銀座

記事:岸★正龍さま(ライティング・ゼミ)

「黙れ! うるさいから話をするな!」ってそのお客さまは言ったの。

桜並木を歩くと、美しかった桜吹雪の変わりにアメリカシロヒトリ(緑色の毛虫のことだ)がボトボトと落ちてくるようになった4月の中旬。僕の前に座る怪しいほどにたおやかな女性が、僕にそう語りかけてきた。

彼女は、元銀座ナンバーワンのホステス。
って、さらっと書いたけど、銀座だぜ、おい! ナンバーワンだぜ、しかも!
僕のような地方都市の下町生まれには眩し過ぎるし、もっとゲスイことを言えば「一体いくら稼いでたんだ」って頭で電卓がカタカタなった。
けどいくらカタカタさせても、そもそも銀座のそういうお店に行ったことがない僕には想像の取っ掛かりもないので、ゲスイ気持ちは引っ込めて、っていうか、そんな彼女と話をできる機会なんて滅多にあるもんじゃないから、話に集中することにした。

 

私が銀座にきてまだ日が浅かった頃の話よ……いいえ、私のお客さまじゃないわ。というより、誰のお客さまでもなく、その日はじめていらっしゃった方。その晩はありがたいことに忙しくて、他のお姉さんたちはそれぞれ指名が入っていたから、つけ回しのスタッフから呼ばれて私が席についたのね。

まずはいつも通り「いらっしゃいませ」って笑顔でご挨拶したわ。けれどその方は私の方など見ずに完全無視。うわぁ、面倒くさい人に付いちゃったかも、と心の中で思いつつ、実は恥ずかしがり屋だけなのかもしれない、と気を取り直して話を続けたの。「今日はお近くで飲まれてこられたんですか?」って。そしたら「黙れ! うるさいから話をするな!」ってそのお客さまは言ったの。

え? って。夜の銀座のお店って基本的には話をしにくるところでしょ。だからまさかの返しにビックリしたけど、お客さまにも色々あるんだろう、って考えて黙々とお酒作ってしばらく様子見てたのね。そしたらそのお客さま。

「なにを黙ってるんだ! なにか話せ! おまえはなにも話せないのか!」と猛烈に怒りはじめて。話すなと言われたから黙っていたのに、今度は話せってどういうこと? って正直ムッとしたけど、プロとして怒っちゃいけないってグッと堪えて話しかけたの。「お酒はなにがお好きですか?」って。そしたらなんて答えたと思う?

……ううん、全然違う。正解はね……

「大体お前達みたいなヤツは生きてても意味ないんだよ!!」

衝撃でしょ(笑)
「死ね!」って言われたら「生きる!」って返せるのに、「生きる意味がない」って言われたから返すに返せないし、私だって人間だからね、目の前の初対面の相手にそう言われてかなりのショックを感じちゃって。けどね、すぐに感謝したの……うん、言い間違ってないわよ。感謝よ。ありがとうございます、よ(笑)……それはね、ママの言葉を想い出したから。

「私たちの仕事はお客さまに夢を売ることです。お客さまに普段とは違う【夢の世界】を味わってもらうことです。疲れた身体や心を癒して元気づけてあげることがホステスの仕事。もし万が一、個人的に辛いことや悩みができたとしても、信頼を築いた方以外にそういった姿を表に出さないことが大事。ホステスは女優であり、お店は女優が輝く舞台なのです。女優が舞台に立つときと同じ意識で仕事をすれば、必ずたくさんのお客さまがファンになってくれるものよ」

私ね、それまでも女優であろうとしてお仕事をしていたわ。けれど、素の自分がでてしまっても許していただけるようないいお客さまに恵まれていたから、本当の意味で女優になることがなかったのね。だから、ここだ、って思ったのよ。このお客さまは私に、女優であることを教えて来てくださったんだ、って。だから感謝して、こういうささくれた気持ちのお客さまに、女優だったらどう対応するだろうって考えたの……どうしたかって? それはね……

(ふいに彼女の手が伸びてきて僕の手に重なる。それから濡れた瞳でこう言った)
ごめんなさい。
(気が狂うほどドキッとした。しばらくの間。濃縮された時間。その濃さや危うさに僕の心拍数は上がり続け、息苦しさに耐えられなくなる限界のその直前、彼女はスッと手を引いた。空気が一気に日常に戻る)

うふふ、そう言ったの。「なにを謝ってるんだ!」とまた怒鳴られたけど、そのお客さま、その日に私を指名してくださって、お帰りのときには連絡先もくださったから翌日メールしたわ。女優の気分で。女優だったらどんなメールを打つだろうって考えて。

「おはようございます。昨日はありがとうございました。天気が良く清々しい朝ですね。今日も一日お仕事頑張ってくださいね。応援しています♡」

……そう、その通り! その晩もお店に来てくださったわ。私それまで初来店していただいたお客さまには「また遊びに来てください! お待ちしています!」ってメールしてたのね。けれど続けてご来店いただけることはなかったからすごく嬉しかったし、そのときはじめてママから聞いた【女優が輝く舞台】って言葉の本当の意味がわかった気がした。

私ね、ずっと自分が輝くことだって思っていたの。お店って舞台で、ホステスは女優のように輝かないといけない、輝くためにはどうしたらいいだろうってそればかり考えてた。もちろん、それも大切よ。しょぼくれた女の子じゃ、わざわざ銀座のお店に来ていただく意味がないから。

けれどね、本当の女優は、自分が輝いているだけじゃなく相手も輝かせるんだ、ってそのお客さまのお相手をする中で思ったの。お客さまを輝かせることができれば、ファンになっていただけるし応援もしていただける。そうか、ママの伝えたかった真意ってこれか、ってそのときはじめてわかった気がしたし、それからよ、私の成績はグンと伸びたのは。

ね、これって同じじゃない?
あなたが話してくれた「書くことはサービスである」って、こういうことでしょ?

 
 

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2016-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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