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メディアグランプリ

暗闇を90分買ってみました



記事:築地 海露穂(ライティング・ゼミ)

「では、灯りを消します」
その声の後、3秒かけてゆっくりと灯りが消えていきました。

暗闇の中を歩くツアー、ダイアローグインザダークをご存知ですか。何も見えない特殊な環境を利用して、五感とコミュニケーション能力を磨くことを目的としたドイツ発のソーシャルエンターテイメントです。日本でも感性を磨きたい女性たちに人気で、私も姉に誘われて参加しました。

ツアーは室内で行われます。場所は外苑前。建物内のワンフロアが複数の部屋に区切られていて、部屋ごとに五感やコミュニケーション能力を磨くための作業をするのです。目の見えないアテンドの方に案内をしてもらいながら、約90分かけてフロアを一周します。

ダイアローグインザダークは、6畳くらいの小さな部屋から始まりました。参加者は私を含めて8名。まず灯りがついた状態で輪になり、自己紹介をし合います。その後アテンドの方の合図で灯りが消えると、いよいよツアー開始です。

暗くなると同時に、私は一瞬で混乱状態に陥りました。目を見開いているのに一切何も見えないのです。グループは輪になったままで、誰も動いていません。それなのに、その場から全員の気配が消えたのです。何より恐ろしかったのは、自分の身体が見えないことでした。見えないせいで、身体の感覚すらわからなくなります。まるで身体を失い、意識だけの存在になったかのようでした。恐怖のあまり、絶叫しながら部屋を飛び出したい衝動に駆られます。私は動揺を抑えきれず、こんな言葉を口走りました。

「お姉ちゃん、手つないでもいい?」

その惨めな声は、周りにいた人たちにはっきり聞こえていたと思います。社会人なのに、まるで小さな子供のようなセリフです。顔から火が出そうに恥ずかしかったのですが、どうしても我慢できませんでした。本当は怖すぎて、彼女に飛びついてしまいたかったくらいです。

このとき初めて、真の暗闇を知らなかったことを痛感しました。いつだって電灯を消せば自宅も暗くできますし、暗い夜道を歩くことも珍しくありません。でもよく考えてみると、自宅も夜道もしばらくすれば目が慣れて辺りのものが見えてきます。なぜなら、本当には真っ暗ではないから。普段暗いと思う場所は、月明かり等で意外と明るさが残っています。そのため塵一つ見えないほどの暗闇に立ったとき、知らず知らずのうちに目に頼って生きていた自分が一気に無力になりました。いつも何気なくやっていることが、一人ではうまくできないのです。

ツアーでは皆でボール遊びをしたり、粘土をこねたり、お金を払って食べ物を買って食べたりします。そんな簡単なことをするのかと思うでしょうか。ただ何も見えないというだけで、こんなことさえ大変難しいのです。でもそのおかげで、コミュニケーション能力が磨かれます。参加者同士で助け合おうとするからです。

「こっちの椅子が空いていますよ」
「この辺は段差があるみたいです」

闇の中から聞こえる優しい掛け声が、どれほどありがたかったことか。自己紹介をし合ったとはいえ、ほぼ全員初対面です。にもかかわらず、私たちはお互いに姿が見えない他人に素直に助けを求め、手を貸し合いました。

こうしてツアー参加者は、90分の間に恐怖と幸福を強烈に体験することができるのです。

この暗闇という非日常の中で自分を見失う恐ろしさは、あるものに似ていると思います。それは、社会的に自分の居場所を見失うことで感じる恐ろしさです。

実はツアーに参加したとき、私は無職になったばかりでした。起業したくて退職したものの、中々うまくいかず、通勤先もなく毎日を孤独に過ごしていたのです。一人でいた間は、自分の存在が社会的に不確かである恐怖との戦いでした。暗闇で感じたほどではありませんが、自分がちゃんと存在しているのだろうかという不安を日々抱いていたのです。

何度目かの立ち上げに失敗して挫折しようになっていたとき、今の起業仲間が声をかけてくれました。一緒に起業をしようと誘われたとき、本当にうれしかったことを覚えています。それは暗闇のツアーで、誰かが声をかけてくれたときの喜びと似ていました。

私がそうだったように、今孤独と戦っている人はどれくらいいるのでしょうか。

ダイアローグインザダークでは、グループの方々がそばにいてくれました。でも、もし近くに誰もいなかったら私はどうなっていたでしょうか。ちょうど一人で起業をしようとしていたときのように、何もうまくできずに弱っていたのではないかと思います。

ツアーに参加してから、私は誰かの居場所をつくるビジネスを行おうと考えるようになりました。社会で生きる誰かが抱える孤独を払拭したいのです。起業したいと思ったとき、自分がいつかそんな志を持つとは想像すらしていませんでした。暗闇を売るビジネスとはなんと面白いのでしょう。ダイアローグインザダークに参加したことで、私は他では得られない思いを手にすることができました。

もし非日常体験をお探しなら、外苑前で暗闇を買ってみるのはいかがですか。灯りが消えた瞬間、一生忘れられない体験ができること請け合いですよ。

 

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2016-07-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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