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メディアグランプリ

無愛想こそオモテナシの極意である


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記事:まるバさま (ライティング・ゼミ)

仕事に行くのが嫌だなんて、私は考えたことがない。
もちろん仕事そのものは、面倒くさいことだらけだ。
でも、お昼ごはんのバリエーションだけは最高に恵まれている。
都内でも有数の各国料理が集う街。和食、四川、広東、フレンチ、イタリアン、インド、ベトナム、はたまたシンガポール料理まで。
そんなよりどりみどりの中で、ランキング圏外から、私のお気に入りトップテンに突如飛び込んできた店がある。

駅からほど近い場所にある、庶民的なタイ料理の店。
店員は全員タイ人。日本語は、ほぼ通じない。
注文は写真の入ったメニューを指さして「this!」方式で行う。
特筆すべきはその味で、日本人好みにレシピを調整するなんて微塵も考えてないような、現地の味そのままの独特な風味が襲う。
ふんだんに使われたパクチー、ナンプラーの風味は鮮烈で、エスニック料理に慣れた日本人でも一瞬ひるんでしまう。
しかし、ひとたび口に頬張ると、まるで熱気と湿度を含んだアジアの風がサーッと駆け抜けていくような錯覚を覚えるのだ。

その店で、われわれ日本人をひるませるものは、強烈な風味だけではない。
タイ人の店員たちは基本的に愛想がまったくない。
外国に旅行すると、現地サービス業の人たちのあまりにもアッサリした対応に、日本で日常的に接しているおもてなしは過剰サービスじゃないかと感じるのは、海外旅行あるある。
それを心得ていても、たまに心折れそうになるのが、この店のサバサバ具合である。
料理の入った皿はドスンと置かれるわ、水を入れたコップからは、置いた際の衝撃で水があふれて飛び散ってくるわ。
席にスプーンがないよとアピールすると、「あっちから取んなさいよ!」と言わんばかりの、けたたましいタイ語が飛んでくる。
日本人の深夜のコンビニバイトの方が、何倍もマシと思えるレベル。
一度連れていった職場の同僚からは、「もう二度と行きたくない!」とNGが出てしまった。

いつものように、殺伐とした空気の中でアジアの風味に舌鼓を打っていたある日、店の入っているビル全体に館内放送が流れた。
火事が発生したという、防災センターからのお知らせだった。
「ビル内で火災が発生しました。火は小さく、すでに消火済みですので、ご安心ください」

館内放送は当然、日本語でのみ行われた。火は消えているので、客の日本人たちは何事もなかったように、平然と食事を続けている。
伝えられる内容はわからないものの、放送の声色でただならぬ雰囲気だけは感じ取ったタイ人店員たちは、騒然となっていた。
「何か大変なことが起こったっぽい! でも日本人は悠然と構えてるし。わけがわからない!」
そんな感じでパニックになっていたのだろう(たぶん)。
しかし、普段が普段なので、日本人客はみんな、われ関せず。誰もフォローする気配すらない。

しょうがないので、店員の一人を呼び止めて、英語で放送の内容を翻訳して教えてあげた。
“Small fire occurred and now it was extinguished. Please don’t worry.”
よく見ていると、先ほどまでの、焦りの表情がだんだんほどけていくのがわかった。

「コップンカー(ありがとう)」
聞き終えた店員は感謝の言葉とともに、店に通いだして以来、実に初めての笑顔を見せてくれた。
殺伐が日常と化した空間で、予想外の笑顔を見たものだから、びっくりしてしまう。
しかも、ギャップ効果というやつだろうか。
「か、かわいいー……」
その輝く笑顔に、一瞬心を奪われてしまった。
ほら、ヤンキーがほんのちょっとゴミ拾いをしただけで、ものすごーくいいヤツに見えてしまうアレだ。

そうだよな。タイはその昔「微笑みの国」と呼ばれていたのだから、本当はみんないい人のはず。
その日を境に、店の好感度を上げている自分がいた。

後日、再び店にお昼を食べに行くと、見覚えのある姿を見つけた。
例の「コップンカー」の店員だ。
あの印象的な笑顔のことを思い出して、私は満面の笑みで彼女を呼んだ。
きっとまた、笑顔を見せてくれるはず。
彼女がこちらを振り向く。こちらに気付いた。

カツカツと靴音を響かせてやってくると、「早く注文しいや!」と言わんばかりのタイ語でまくしたてながら、水の入ったコップをドンと置いた。
何事もなかったような、通常営業の無愛想でございます。ありがとうございます……。

微笑みの国の極意を引き出すには、まだまだコツがいるようだ。

 

***
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2016-07-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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