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メディアグランプリ

恋はいつか終わると信じて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ゆら (ライティング・ゼミ ライトコース)

 
 
憧れていた仕事に就いたのは、ちょうど5年前の2月だった。
大学の友達は長く苦しい就職活動を終え、社会人前のつかの間のモラトリアムを楽しんでいた。私は就職活動を選ばず、大学生活の大半を捧げてきた塾講師のアルバイトを辞め、ついに憧れのコーヒー店での仕事を始めた。いわゆる世間でいうフリーターになったのだ。
 
初出勤の日はなんだか落ち着かず、目の前にあるマシンやバックルームの備品のストックにすらいちいち感動したのを覚えている。だってずっと好きで憧れていたものに、まさか携わることになるなんて。夢が叶うって本当にあるんだなあ、と毎日のように浮かれていた。
最初の1ヶ月は、先輩方に色んなことをひたすら教わった。そもそも昔から手元が不器用な方だったし、接客業なんて経験したことがなかったので、今思えば手のかかる後輩だったと思う。仕事に就く前は、むしろ接客業なんて自分には向いていないと思っていた。接客業がしたかったというよりも、本当に単純にその会社の一員になってみたかった。そのただ一心で面接を受けただけなので、受かってみて初めて、これから就く仕事が接客業であることが不安になった。そんな私だったが、それでも先輩方は愛想つかすこともなく沢山のノウハウを伝授してくれた。少しずつできることが増え、せっかく同僚達と打ち解け始めたころ、勤めていた店舗ビルが取り壊されることになった。同僚達も私も近隣店舗へ散り散りになってしまった。
 
新しい店舗はオフィス街に立地していて、お客様は比較的年齢層が高めで上品な雰囲気の店だった。異動する数日前に挨拶に行ってみると、スタッフも若干年齢層が高く、優しそうな先輩ばかりで少しホッとした。
異動した新しい職場で、私は朝の顔として働くことになった。常連さんが多い店なので、平日の朝に週3回以上も顔を合わせていると、何となくお客様も私のことを覚えてくれる。少し余裕が出始めると、お客様の「いつもの」を覚えるようになり、お会計の間、ドリンクを作る間、ほんの少しの時間に積極的にコミュニケーションを取るようにした。コーヒーの勉強も楽しくて、お店で一緒に働く先輩達もみんなのことが好きで、仕事が大好きだった。
と、同時にとりわけ私の将来に口のうるさかった祖母は「いつ就職するのか」と会う度に聞いてきた。今時フリーターだって珍しくないし、私は今の仕事が好きで頑張っているんだから、と反論した。それでも「アルバイトなんて不安定なことをいつまで続けるつもりか」という言い方をされると、最もなので何も言い返せずにいた。両親は私の好きなことややりたいことを出来るだけ尊重してくれたので直接的に言われた事はなかったが、たぶん心のどこかでは同じことを思っていたと思う。心の中では申し訳ないと思いながらも、好きなものを追い続けていたかった私は両親の優しさに甘えていた。
 
私は結局、その仕事を4年半続けた。
その間に色んな方に出会い、別れ、時には対立し、羽目を外したり、真剣に店の将来について話し合ったり、生涯仲良くしていきたいという親友に出会った。初めは、手元もおぼつかずミスばっかり繰り返して、フィードバックを受けることもあった。伸び悩み、仕事に対して熱が冷めた時もあった。理不尽な思いをして、仲間と愚痴ったりストレス発散に遠出しに行ったり。それでもやっぱり、店に行くと「ああ好きだな」という気持ちになって、今日も頑張ろうと思えたのだ。お客様にもたくさん恵まれた。私の4年半はずっと心のどこかで家族には100%認めてもらえないというモヤモヤを残していたが、それでも本当に幸せだった。得られたものを一つ一つ取り出して自慢したいぐらい、幸せだったのだ。
仕事を離れるきっかけは、趣味がきっかけでいいなあと思っていた会社への転職が決まったことだった。まさに前職と同じく憧れの仕事に未経験で飛び込むという状況で、しかも今度はそれに伴い県外への引越しもあった。地元を離れることにも、大好きな仕事を離れることにも躊躇していた私に「せっかくのチャンスがあるなら行け」と言ってくれたのは当時の店長だった。転職が決まってからの1ヶ月はとにかく忙しくて、引越しの手続きや退職までの引き継ぎなどなど。それでも、いい方向に物事が進んでいる時はすべてのタイミングが噛み合うというか、直感でこの選択はきっといいことだったんだなと思った。
新生活への希望と不安のなかで迎えた最終出勤日。「いつまでもこんな生活をして、やっぱり親に心配をかけたくない」という思いがどこかに潜んでいて転職を考えたはずだったのに、いざ大好きだった仕事を離れると思うと涙が止まらなかった。さらに追い討ちをかけるように、今までお世話になった先輩や後輩、そしていつもこんな小娘とほんの少しの時間を共有してくれていた常連さんがプレゼントや手紙をくれた。最終日まで沢山の愛をもらって、次の日の朝、私は新天地への新幹線に乗った。
 
大好きだったものが嫌いになって別れるなら、きっとあの日の私はさほど辛くなかっただろう。今でも未練たらしく会社近くの店舗に足を運んでは、思わず懐かしい気持ちに浸りたくなる時がある。やっぱりまだ好きなのだ。それでも過去に戻りたいとは思わない。私は新しい場所で生きてみせる。新しい仕事への淡い恋心が、いつかコーヒー屋での日々という大恋愛を凌ぐと信じて。
 
 
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2018-02-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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