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メディアグランプリ

電車に乗れていたら、生まれなかった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福井裕香(ライティング・ゼミ朝コース)

 
 
9時30分、私は調布駅にいた。
 
ドアに乗客のスカートを挟んだまま、新宿に向かって走って行く電車を見送りながら、考えていた。
 
天狼院書店の「ライティング・ゼミ」の初日、ゴールデンウィーク明けて間もない水曜日。朝から雨が降っているというだけで憂鬱なのに、駅に着くと「お客様トラブルのため、京王線は25分ほど遅れています」と、電光掲示板に流れる文字。「お客様トラブル」、昨日も同じ理由で遅れていたのに、今日もか。それにしたって、25分って。ゲンナリしてしまう。
 
調布駅に予想通りの超満員で特急電車がやってきた。私の前に少なくとも15人はいる。そして、想像はしていたけれど、明らかに降りた人数はそれより少ない。いまこの電車に乗れば、なんとか10時前には池袋駅に着くはず。遅刻は免れないにしても、5分くらいの遅れで済むはずだ。そう計算して、なんとか自分の体を超満員特急の中にねじ込もうと試みた。が、一歩目を踏み出した瞬間、「無理だ」と感覚的にわかった。東京で勤めるようになって10年。もはや満員電車に慣れっこなので、「行ける」「行けない」のラインはわかる。踏み込んでも跳ね返されるばかりの感触に、「これ以上どう頑張っても無理」と早々に退散を決めた。
 
足を後ろに一歩引いた瞬間、足が空を切った。と、思った瞬間にストン! と右足が電車とホームのすき間に落ちた。ホームの縁にお尻が乗ってくれたので、ブラックホールに吸い込まれずに済んだのが不幸中の幸いだった。背筋がヒヤリとするような恐怖と、尻餅をついてしまった恥ずかしさを感じながら、一旦、そそくさとその場を去る。でも電車を諦められなくて、隣の車両に走りかけた。けれど、そこから見えるのは、乗客を無理やり押し込む係員。少しは空いているであろう最後尾まで走れ、というのは、まだ落ちた感覚が抜けなくて、若干フルフルと震えている右足には無理な相談だった。
 
なんとかギリギリで乗り込んだ女性のスカートを挟んで、電車のドアが閉じた。係員が気づいてなんとかドアをこじ開けようとしたが、叶わなかった。結局、見なかったことにするかのように係員はその場を離れ、電車は出発した。
 
私は見送りながら、考えていた。
 
どうする? いま自宅に戻れば、まだギリギリでライブ中継には間に合うぞ。でも、私はリアルで、東京天狼院で、初回を受けたいんだ。リアルの臨場感とその場のパワーを吸収したいんだ。
 
数分の葛藤の結果、次の準特急を待つことにした。まもなくそれはやってきて、さっきの超満員特急が嘘だったかのように、人と人との間に余裕があった。一応電車とホームの隙間には気をつけながら、でも普通に乗って、普通につり革につかまり、普通に新宿までの道を進み出した。
 
電車に揺られながら、また、考えていた。「雨が降っていなかったら電車は遅れなかっただろうに」「雨が降っていなかったら息子を自転車で幼稚園へ送り届けられたから、私はもっと早い電車に乗れただろうに」「そもそも夫に話していれば、息子を送ってもらえたかもしれない」「最初から最後尾の車両に並んでいたら乗れたはずだ」……考えれば考えるほど、だんだん嫌な気分になる。「タラ」「レバ」がキリなく浮かび上がってきて、もう考えるのはよそう、と決めた。私の悪い癖だ。
 
時間は誰にとっても平等だ。そのスピードも、感じ方の差はあっても、実質的なスピードに差はない。私たちは時間という名のエスカレーターに乗っていて、後戻りすることはできない。本物のエスカレーターだって、後戻りしようと思えばできなくはないけれど、流れに抗って逆走しようとするのはたいてい小学生の子どもくらいで、大人がやっている姿は想像しただけで滑稽だ。「タラ」「レバ」を考えて、過去を延々と問い続けているのだって、同じく滑稽ではないか。いくら過去を問い続けてみたところで、もう元には戻らないし、現在が変わるわけでもない。いっそのこと、誰かそんなクヨクヨしている自分を笑ってくれたらいいのに。恥ずかしい思いを味わったら、悪癖とも言えるこの過去志向を直せるに違いない。
 
あと一駅で新宿、というところで座席に座れた。ただ、と私は思う。「過去志向」で止まってしまっているからクヨクヨしている自分。でもそれをもっと突き詰めてみたらどう? 過去を直そうと考えるんじゃなくて、未来にどんな対策が取れるか、という視点で見てみたら、意味があるんじゃないか? 例えば、ライティングゼミはライブ中継があるんだから、これからはイヤホンを携帯していれば、遅刻しても電車の中で川代さんの映像を見ながら行けるぞ、とか。いや、遅刻をしないに越したことはないのだけれど。
 
私たちの時間は前に進むだけだから、適当なところで振り返るのはおしまいにして、未来志向に切り替える癖をつけていこうじゃないか。そこまで突き抜けたら、右足が落ちたことも次の電車を待ってこうして考える時間が取れたのだから、悪くない経験だった。もう二度と経験したくはないけどね。
 
そういえば、電車にスカートが挟まれた女性、どうしただろう。特急が止まるのは笹塚・新宿。どちらも反対側のドアしか開かない。「無理して乗らなかったら」と、今ごろ彼女も後悔しているのかもしれない。
 
 
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2018-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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