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メディアグランプリ

試着室は監獄だ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:廣渡一子(チーム天狼院)
 
コツコツコツ
足音が近づいてきて、私が入っている箱の前で止まった。
 
「お客さま、お洋服、いかがですか〜?」
看守の声がする。
 
「……」
私は、ひっそりと息を潜め、聞こえていないふりをする。
 
不幸中の幸いなのが看守からは中の様子が見えていないことだ。これを生かすほかに私が生き延びる方法はない。
 
「ああ、なんでこんなことになったんだろう」
ポロリと、うっかり声に出してしまった。ハッと口をおさえ、外の様子を伺う。
「……」
「そうなんですよ〜、これとか今日入ってきたばっかりで〜……」
遠くで看守が別の囚人に声をかけている。よかった。奴は近くにはいなかったみたいだ。
近づいてくるときは足音を鳴らすのに、離れて行くときはなんであんなに静かなんだろうか。まるでプリウスだ。
 
「ふう」
息を吐き、もう一度鏡に向き直る。
無理だ、似合ってない。サイズが合ってない。え、太った? 太ったよ、絶対太った。
いや、違う。過去と比べて太っているかどうかではない。これは主観的な問題だ。友達より太ってるとか、一般的より太いとかではない。現時点、いまこの監獄の中で鏡の中の自分だけを見て思っている。わたし全然イケていないじゃないか。私に着られている洋服がかわいそうだ。それはジッパーが無理をしているのもあるけど。
ごめんね、みんな。
こんなとこに来たのが間違いだったのかな。この場所は普段なら絶対に近づかないようなファッションビルだった。普段の私は、無印良品系でアースカラーで、ゆるいシルエットの服を好んで身につけている。でも、今いるのは、股上の浅いスキニーを履いた山田優さんのような店員さんがたくさんいるショップ。周りは、誰が客で誰が店員かわからないほどのハイレベルなモデル空間だ。香りすら威嚇的で、甘くて濃い空気が漂っている。決してラベンダーやゆずのような優しい香りはしない。
 
所属しているバンドで出演するオーディションのための衣装を買いにやってきた。ビビットで原色で派手なアロハシャツと、ミニスカートorショートパンツorスキニーを用意して、という指令が出たとき、私は絶望した。ガラガラと膝から崩れ落ちるような思いがした。だって、どれも持っていない。全てが私の嗜好と真逆。衣装代がかさむが持っていないものは仕方ない。バンドコンセプトには逆らえない。普段の私がどれだけ隠キャでも歌っているのはそういう曲なのだから。
 
「買うしかない!!!」
と勇んでファッションビルの地下から最上階までぐるぐると見回る。一通り見た後は決断のために試着だ。アロハシャツとスカートがセットになっているハンガーを凝視し、服の上から合わせてみていたら、ギラッと目を光らせたお姉さんが近づいてきた。
 
「試着してみますか〜?」
「あ、はい。おねがいします」
「サイズなんですけど〜、お姉さんだったら多分これくらいで大丈夫だと思います〜」
こんなに体型の見えない服を着てるのに、ボトムのサイズわかるのか……? と思ったけど、そこはプロだからわかるんだろうな。
試着室に入り、扉が閉まる。そしてやっと、ここが監獄だということに気づいた。
 
しまった。ぜんっぜん似合っていないし、着こなせていないし、まずサイズが合っていない。お姉さん、さっきこれくらいで大丈夫って言いましたよね? と半泣きになっても悪いのは私なのだ。ゆったりした服を好んでいるのは、単純に楽で体型を気にしなくていいからという理由があるのを、気づかないふりしていた。自分が生きやすい環境の中では割と自信があったのだ。いつも行くお店の服は大体全部着こなせるからって満足していた。でもそんなの当たり前だ。ひとたび、女を問われるような環境にくると、もう全く歯が立たない。というか相手にもされない。似合う似合わない以前に、野暮ったい。
 
コツコツコツ
「お客さま、サイズ、いかがですか〜?」
 
看守が来た。
もう無理だ。逃げられない。降参!
「はい……着てみました」
「出てこれますかぁ〜?」
 
慢心して、女をサボっていた自分の罪に気づき、反省しなければここから出ることはできない。まだ今ならやり直せる。やり直せない人生なんてないんだから。
 
監獄の扉が開く。
 
よし、更生するぞ!
 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2018-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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