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オオカミ少年の息子から学んだこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福井裕香(ライティング・ゼミ朝コース)
 
「おかあしゃん、あのね、おなかいたいの」
 
今日もか……。
 
最近、息子が毎日のように「おなかいたい」と言う。
 
言い始めたばかりのころは、本当に体調が悪い時が多かった。風邪を引いた時には、その言葉通りに受け取って、病院で相談することもあった。
 
「おなかが痛いと言ってるんです」
 
というと、病院の先生は「子どもは熱があってきついだけでも『おなかがいたい』と言います」と返されてしまった。つまり、体調の悪さを一番表しやすい言葉なのだ、と。
 
その後、徐々に「おなかいたい」の頻度が増えていって、最近は毎日言うようになった。まるで、オオカミ少年みたい。村の人の反応がおもしろくて「オオカミがきたぞー!」と毎日のように言って回った少年が、本当にオオカミが来てしまった時に信用されなくて、自分の羊を食べられてしまった話。そんな息子に慣れてしまって、私も夫も「ハイハイ、今日もおなかいたいのねー」と流してしまうことがある。
 
つい流してしまった後から「本当におなかが痛かったらどうしよう」とハッとする。念のため、「本当に? いたいの?」と表情やしぐさを確認する。すると、息子はいつも通りふざけて踊り始める。そんな時、「また、だまされてしまった」と思う。がっかりなのか、「ホッ」なのか、いまいち自分の気持ちはつかめないけれど。
 
「おなかいたい」ボタンが発動する場面に、バリエーションがあることがわかってきた。「叱られる!」と思うようなことをやってバツが悪いとき。寝起きで機嫌の悪いとき。私にかまって欲しいとき。その場がイヤで、逃げたいとき。
 
子どもには自分の気持ちを伝えるのに、ボキャブラリーという手持ちの手段が少ない。そんな中、まるで下ろしたてのスポンジが水をぐんぐん吸い込むように、周りの友達や大人とのやりとりから、毎日色々なことを吸収している。そうして、息子が「自分の不調や気持ちを表すのに便利だ!」と選んだ言葉が「おなかいたい」だった。
 
大人の側からすると、その一言で完結されてしまうのは正直大変だ。子どもが何を思っているのか、どんな状態なのか、その一言から推理しなければならないのだから。まして、こちらが仕事から帰って家事に忙しく動き回っている時間帯に「おなかいたい」ボタンを発動されてしまうと、こちらのイライラボタンも押されてしまう。息子はかまってほしいだけかもしれないけれど、余裕がない自分には、それを受け止めることができなくてイライラして、つれない対応を取ってしまったりする悪循環。
 
それに時おり、息子の「かまってほしい」サインに、責められているような気にもなる。そのサインは、母として十分受け取っているのだ。
 
かまってほしいのはわかってる。わかってるんだよ。でも、ご飯の準備して、お風呂はいって、歯磨きして、早く寝ないと。そうじゃないと、明日の朝、また起きられなくてグズグズするでしょ? 
 
母として「やらねば」という責任感と、かまってあげられないことへの後ろめたさと、両方うまくできないことへのいらだちと、なんでこっちの言う通りにやってくれないの? という息子への思いと。そんなグチャグチャな感情に責められながら、なんとか一日をやり終えて、布団に入る時、先にスヤスヤ眠っている息子の顔を見ながら、なんとも情けないような、申しわけないような気持ちになる。「こんなお母さんでごめんね」って。
 
ある日、私は偏頭痛で動けなくなった。幸い、夫がいてくれたから、食後の片付けを夫に頼んで私はリビングで横になることにした。とにかく横になりたい。息子のおもちゃが散らばっているけれど片付ける気力もないまま、それをかき分けてゴロン。
 
すると、息子が面白そうにのぞき込んできた。遊んでもらえるのかと思って、私の腹の上にマウントしようとしたが、さすがに夫に叱られた。それからどこかに行ったかと思うと、ブランケットを持ってきて、そっと私の体にかけてくれた。
 
「おかあしゃん、おなかいたい?」
「ううん、おなかじゃないよ、頭が痛いの」
 
すると頭の上に回り込んで、小さな手を額に当てて
 
「いたいのいたいのとんでけー。もうよくなった?」
 
一緒に眠る時も、私の手をにぎって寝てくれた。さすがにすぐ治りはしなかったれど、涙がこぼれるほどうれしくて、ふわっと温かい、やわらかい気持ちでいっぱいに満たされた。こんな気持ちになれるなら、「あたまいたい」っていつも言っていたいわ。
 
そう思ったところでハッとした。
 
息子も、本当に「おなかいたい」の時に、私がやっていること、かけている言葉がうれしくて、その気持ちを味わいたくて、「おなかいたい」ってつい言ってしまうんだな。自分がしてもらってうれしかったこと、私にもしてくれたんだな。私、ダメなお母さんだと思ってたけど、それなりにちゃんとできていて、息子に伝わっているんだな。
 
たぶん、基本的に余裕がない私だから、これからもイライラボタンは押しちゃうんだろうけど。でも、息子と一緒に少しずつ大きくなっていけたら、それでいいかな。そして、私もダメな時は、この時みたいに「いたいのいたいのとんでけ」をしてもらおう。いつも自分を責めてばかりの自分に、やっとマルが出せた日だった。
 
 
 
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2018-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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