誰かの1番になりたくて
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:甲斐菜々子(ライティング・ゼミ平日コース)
「菜々子が1番の親友!」
相談を聞いてあげていた友人が、わたしに向かって泣きながらそう言う。
そんなこと言ってくれてありがと〜! なんていいながらわたしは安堵していた。
これでまた、誰かの「1番」になれた。
親友、とか1番の友達、とか。
1番大好きな人、とか。
そんな枠を意識しだしたのはいつだろうか?
小さい頃は誰が1番なんかなくて、みんな平等に好きだったし、平等な立ち位置だった。
きっと、その平等が壊れ始めたのは小学校高学年の頃だろう。
「○○ちゃんが1番だから!」
三人組で行動していたメンバーの内、わたし以外の二人がこっそりと2人でこのセリフを囁き合っていたのを思い出す。
なんとなく、そんな気はしていた。わたしの前では三人で行動してくれていても、二人でコソコソ遊びに行ったりしている空気に気づいていた。
そしてその空気に気づくたびに、どちらか一人がわたしと変わってくれないだろうか、
その1番という場所を奪えないだろうかと黒い気持ちが渦巻く。
そして、家に帰っても私は2番だった。
3つ上の姉は、誰に対しても優しくて、天然で、どこにいっても人に愛された。
毎日の家族の夕食の話題はいつも姉が中心で、両親を笑顔にするのはいつも姉で。
わたしは負けじと声をあげるのだけれど、両親を笑顔にできるか、というと姉には敵わなかった。
だからこそ、わたしは頑張らなきゃ両親にも振り向いてもらえないのではないか? と焦っていた。
1番を取れば、両親が私のことを1番に見てくれるのではないか? と考えた私は、
寝る暇も惜しんで学年で1番の成績を取った。
部活動で、県1位の成績を取った。
これで、私も認められると思った。
でも、ダメだった。
母も父も、私に対する態度は変わらなかったし、特別褒められることもない。むしろ、多忙なスケジュールに両親を巻き込み、苦労ばかりかけた。両親にため息をつかれるたび、なぜ頑張っているのに認めてくれないのか? 姉よりも、わたしの方が優秀じゃないのか? と黒い感情が渦巻いていた。
自分自身、賞をとってちやほやされたい、なんて安易な考えが甘ったれているのはわかっている。だけど、性格や愛嬌では勝てない姉に、わたしはどうやったら並ぶことができるかと考えたら、それしかなかったのだ。
でも、そんな努力も無駄だと気づいた時、
「人に愛されるのって、努力してもダメなんだ」と思った。
努力でなんとかなるものではない。才能なのだと。
誰かの心の中に1番いる人。
それが自分でありますようにと努力してきたことや悩んできたことがバカらしく思えた。
だから、やめた。
もっと簡単に、誰かの1番になる方法を探さなければ、私は崩れてしまいそうだった。
姉は、いつもニコニコと笑っている優しい人だ。
みんなに好かれていることが本当に羨ましかったから、私も真似をした。
いつもニコニコと。褒め上手に。気が強い自分をなるべく出さずに、空気を読んで。
結構、うまくできていたはずだった。
誰かの1番にもなれるし、嫌われることもなかったし、相談もたくさん受ける。
毎日、些細な気を遣ったり、言いたいことが言えなかったり、愚痴が吐けなかったり、辛いこともあったけれど。
周りの人から嫌われないこの性格が正しいんだと思っていた。
でもある日、ある先輩に見抜かれた。
「なんだか、菜々子はずっと作り笑顔っぽいね」と。
なんだか他人に素をみせてないよね、関わりづらいよ、と笑われた。
その先輩は個性的で、反感を買うことも多いけれど、本当に理解しあっている友達を数人もっているような人。
そう言われて、気づいた。
例えば、私が何かに悩んで苦しい時、誰にも相談していないということ。
誰のことも、信頼できていないということ。誰かに好きになって欲しかったくせに、私自身の心は、誰にも開いていないこと。
誰かの1番、を必死に拾い集めて、集めて。人のために相談に乗ってたんじゃない。
自分を守るためにいい顔をして。
何より、自分自身が嫌いだった。
ニコニコして、表面上ばかり人と付き合う自分が、心底嫌いだった。
言いたいことも言えなくて、飲み込んだ言葉が喉に詰まって、窒息しそうだった。
いつも脳裏で追いかけていたのは、姉の笑顔で、人柄だった。
私は姉になれない。そんなことはわかっている。
姉になれない私は、どうやって人に好きになってもらえるのだろうか。
よくわからない。
わからなくて、姉と、私をよく知る共通の友達に、「私ってお姉ちゃんと似てる?」と聞いた。
友達は、何よ急に? と笑って
「根本は似てるけど全然違うよ、菜々子は、あのこじゃないよ」
でもそれがいいんでしょ、と何の気なしにいう。
その、テキトーで、温かい言葉を聞いて、思わず泣いてしまった。
急に泣いちゃってきもちわる! なんて笑ってくれることがありがたくて、私をしっかり見てくれている目の前の友達がありがたくて。
泣きながら笑っていたら、なんだか、もういいかなと思えた。
どれだけ追いかけても、私は姉とは違うのだ。
そろそろ諦めなければならない。
姉とわたしは、違う人で、違うことを考えて、生きている。
きっと、私にしか話せないことや、言えることもあるはずだと信じたい。
誰かの一番になれなくても。今、私は1人じゃないなら、
今目の前にいてくれる人を目一杯大切にしないといけない。
ねえ、わたし今猫かぶってないし、実はちょっと口が悪くなっているんだけど気づいてる?
目の前の友人をチラリとみてみる。
これ、結構心を許している証拠なんだよ。
何なん! ニヤニヤして! と突っかかってくる友達をツンと無視する。
嬉しくて、思わずほころんでしまった顔を隠すために、わたしは急いでそっぽを向いた。
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