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週刊READING LIFE vol.55

私にも怪獣は退治できる《 週刊READING LIFE Vol.55 「変人伝」〜変だけど最高に面白い人物図鑑〜》


記事:侑芽成太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「変」とは軽蔑の言葉でなく誉め言葉だ。
「面白い」とは敬意と尊敬の言葉だ。
 
唐突で申し訳ないが私は特撮ヒーロー番組が大好きだ。中でも「ウルトラマンシリーズ」は子どもの頃から一番好きな特撮番組で、30年以上のファン歴になる。
2019年現在、最新作である「ウルトラマンタイガ」が放送中だ。主役ヒーローであるウルトラマンタイガはウルトラマンタロウの息子という設定。
 
ウルトラマンタロウ……ウルトラマンに詳しくない人でも名前くらいは聞いたことがないだろうか?
 
深紅のボディに二本の角、そして「タロウ」というインパクトのありすぎる名前。
名前からして一風か変わったヒーローであるが、だからこそシリーズの中でも知名度の高い「初代ウルトラマン」や「ウルトラセブン」に匹敵する知名度を持つヒーローである。
そんなウルトラマンタロウは作品内容においても際立った特色がある。
歴代の作品の中でもとりわけファンタジー色が強いのだ。企画自体がSFとしてよりも「現代のおとぎ話」を目指して作られたタロウはそれまで、またはそれ以後の作品と比較しても荒唐無稽な描写が多くそこが個性であると同時に批判の的になる部分でもあった。
 
しかし、こうした作風だからこそ他の作品以上に強く描かれた点がある。それは「人間の持つ力」である。
暗いニュースばかりが相次ぐ今だからこそ、強烈なインパクトと強さを持つタロウ世界の人々のことを紹介したい。
 
ウルトラシリーズには多くの作品で怪獣と戦う地球人の防衛チームが登場する。
突然だがあなたがそのチームのメンバーだとして、怪獣なるもとの戦うならどのような方法を考えるだろうか?
 
戦闘機や戦車を使っての攻撃、または手持ちのライフルや機関銃を使っての攻撃。普通なら多くの人はこのように考えるだろう。
ウルトラマンタロウに登場する防衛チーム「ZAT(ザット)」のメンバーも基本的には有事の際は戦闘機による攻撃をメインとしている。
しかし、それだけではない。ZATは身長何十メートルもある怪獣に対して数々の奇怪な、しかし効果の高い作戦を実行している。
 
怪獣に飲み込まれた人間を救出するために、大量のコショウを戦闘機でばら撒き怪獣にくしゃみをさせようとする「コショウ作戦」。
巨大なトリモチを怪獣にぶつけてからめとり、炎で焼き尽くそうとした「トリモチ作戦」。
視力を失ったウルトラマンタロウを援護するため敵宇宙人に巨大な鈴付きの首輪をはめて音で位置を知らせた「ベル作戦」。
極めつけは戦闘機で合成した白酒を酒好きの怪獣に飲ませて酔っぱらわせる「酔い潰し作戦」など。
 
まだ物事の分別もつかない年齢にタロウを観た私は特に変だとも感じなかったが、冷静に考えればかなり無茶苦茶な描写に思える。大量のコショウやトリモチを用意するための費用や時間を、強力な兵器に置き換えればその方が普通なら効果的だろう。
 
しかし、一見変なことをしているように見えて実はここに深い意味が隠されていると私は考える。
一つは怪獣との戦いを一種のショーにするということだ。
ウルトラの世界には常に怪獣の恐怖に脅かされる人々がいる。その人たちは防衛チームの戦いを見つめいている。それならば馬鹿馬鹿しくても一つの「見世物」としてのサービス面を作戦に持たせれば、果てしなく火器を怪獣にぶつけて街に大きな被害を出すよりも人々の心はいくらか救われるのではないだろうか。
もう一つは科学的な根拠よりも直感的または感覚的な発想を大事にするという点だ。例を挙げればベル作戦で使われた首輪は本当に猫の首に付けられているような巨大な鈴だ。しかしながら、その効果は抜群で実際にタロウの勝利に大きく貢献した。
 
こうした発想は、実は我々の実生活でも使える。
もしも大きな問題に遭遇した時、深刻に考えて動けなくなるよりも駄目で元々。事態を楽しむくらいの気持ちで馬鹿馬鹿しい方法でも試してみるほうが建設的だ。
ZATのメンバーの発想は実に自由だ。そこには事態に対して「普通ならこうする」というリミッターがあまり感じられない。
ZATの行った作戦は一見すると変に見えるかもしれないが、戦いにおける悲惨さをまるで臭わせないクールさを合わせ持っていたように思えてならない。
とても面白いチームであるZATメンバーの姿からは学べることが多い。
 
タロウの世界で荒唐無稽な活躍を見せる人間は何もZATメンバーだけではない。
この世界では一般人ですら怪獣に立ち向かっていく。
それも文字通り「身体一つ」で。
それはまるであなたが身一つで戦車と戦うようなものである。
 
息子に真の勇気を教えるために竹槍一本で怪獣に立ち向かっていった父親。
怪獣とバレーボール勝負をした少女。
己の存在意義を掛けて真剣で怪獣に挑んだ少年。
そして個人的にとても大好きな一般人がタロウの29話と30話の前後編に登場した塾講師の海野(うんの)さんだ。
ちなみに演じたの大和田獏さん。
 
この海野さん、ウルトラシリーズでも最強の一般人と言われている。
一人の生徒の父親が怪獣に襲われ死亡。ZATが怪獣に無力だったことから子どもたちの中で「タロウさえいたらいい」という考えが蔓延っていた。そんな現状に海野さんは人間の力を示すべく生身で怪獣に戦いを挑んだ。
一度目は建物から怪獣の口に飛び込みダイナマイトを投げ込むという方法!
二度目は何十メートルはある怪獣に特訓の末会得したロープ投げで飛び移り、怪獣の目に直接ナイフを何度も突き立てるという強烈なものであった!
補足すると、その怪獣というのは前編でウルトラマンタロウを倒した強敵だ。後編ではタロウは新たに出現した怪獣と戦ったため実質的は海野さんがタイマンで怪獣と戦っていた。
一番強い怪獣の相手が一般人。物凄い話だ。結局とどめを刺したのはZATなのだが、その勝利には海野さん無しではありえなかった。
海野さんは人間の持つ力を身をもって子どもたちに教えることに成功したのだ。
 
この話で一つ大切なポイントがある。海野さんが本当に戦った敵は怪獣ではない。それは子どもたちの「タロウに依存する気持ち」だ。
実はこの話で取り上げられた「ウルトラマンに依存する地球人」というテーマはシリーズの初期から語られていたテーマである。
子どもたちの依存心という怪獣に海野さんは全力で戦った。やろうとする気持ちこそが奇跡を生むのだと。
 
確かに現実的に考えれば海野さんの行動や怪獣との戦いの演出は十分に変と言える。
一般人がどこからダイナマイトを調達できたのかも疑問だが、巨大な怪獣から落っこちてもほぼ無傷で生還している。
繰り返すが海野さんは訓練を受けた人間でもなければ特殊な装備を付けた人間でもない。ただの塾講師である。
 
だけど私は海野さんがとても好きだ。ひたむきに特訓を続ける海野さんの姿にタロウに変身する主人公も奮起させられる。海野さんの頑張りがウルトラマンをも動かしたのだ。
それだけでも海野さんの姿は人間が決して無力ではないことを示している。
 
この巨大な困難に立ち向かっていく勇気。人生には大切なものだ。何も怪獣に挑まなくていい。もしもあなたの心に誰かに依存する気持ちがあるのなら、その人に頼るのは後回しだ。いや、一つの手段として頼ってもいいかもしれない。ただし、最後は自分の手で何とかするという気持ちを持ってさえいればだ。
 
タロウの世界で怪獣と戦うということは己自身と戦うということを意味している。一般人が怪獣事件に巻き込まれるのは成り行きからだが、そこには絶対に逃げられない現実がある。
私たちの日常もそうだ。多くの場合、困難や不幸は成り行きでやって来る。自分に非などない無いにも関わらず。だけど私たちはそれと戦わなければならない。その時に大切になるのは自分を信じる気持ちだ。
 
タロウの世界で最も変わった人物と言えば、タロウに変身する主人公・東光太郎だ。
ウルトラマンに変身するなら特別な人間だと思われるだろう。だがそうではない。私が注目したいのはウルトラマンの力が無い状態での光太郎だ。
第1話でウルトラマンになる前から光太郎の行動は凄まじい。一般人ながらクレーンを使って怪獣と戦う。怪獣の足もとにしがみつき一緒に空に舞い上がるなど凄いの一言。
そして最終回では海野さんと同じようにタロウに依存する少年の気持ちに向き合うために自分の正体を明かして変身に必要なバッチを手放す。その状態でコンビナート一帯を大爆発に巻き込んで巨大宇宙人を生身で撃破するのである。
破天荒な行動以外はウルトラシリーズの主人公の中でも品行方正な光太郎であるが、やはり彼と言えば数々の無茶なシーンの印象が強い。
ただ彼のそうした行動も、人間の持つ力を視聴者の子どもたちに示すためには必要なものだった。
 
特に印象的なのは最終回。ウルトラの力を持っていてもできないことがあると知った光太郎がバッチを手放すシーンは画面の外にいる私からすれば非常にもったいないように思う。
その力を私にくれとも言いたくなる。何も捨てなくてもとも思うのだが、その決断を下せる強さが光太郎の魅力なのだと気づかされる。
重い決断を下した後でも光太郎の笑顔はどこまでも明るい。本当に最高の人物だ。
 
作品の内容や演出に整合性とリアリティを求められる現在では、タロウのような世界を描くことは難しいだろう。CGの技術が進化し、タロウで観られたようなシーンが作りやすくなっていることを考えれば皮肉な話だ。
だからこそ、タロウの世界は永遠に揺るがない世界としてこれからも語り続けられていくだろう。
 
怪獣のいる世界に「普通なら」とか「常識で考えたら」などの言葉は野暮かもしれない。それでもタロウの荒唐無稽さが受け付けられない人もいるだろう。
それでも、もしいつかあなたがお子さんとウルトラシリーズを観ることがあったらウルトラマンタロウの世界も覗いてみて欲しい。
 
そこには子どもたちに生きていく上で大切なメッセージがたくさん詰まっている。型にはまった生き方だけではいつか悩む時がくるかもしれない。
そんな時は是非タロウの世界で生きた人々を思い出してほしい。
自分の限界に全力で挑めばあなたの中のウルトラのバッチが輝く。
困難や試練という怪獣はきっと退治できる。私にも、あなたにも。きっと。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
侑芽成太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

ゆうがせいたろう。
サラリーマン生活を送る一方、煮え切らない日々の中で天狼院書店に出会う。だけどやっぱり煮え切らずに悩むこと一年。やっとゼミに通いだす。
名前に親近感を感じるためか、タロウには親しみを感じておりました。ウルトラ兄弟の設定などが有名なタロウですが、改めて作品の持つ人間ドラマの魅力を考えさせられた次第です。
ライティングゼミを経てライターズクラブを受講中。


 


2019-10-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.55

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