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週刊READING LIFE vol,111

映画『私をくいとめて』を観て、脳内が天然色であふれていてもいいんだとわかった日《週刊READING LIFE vol.111「世界で一番嫌いな人」》


2021/01/18/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
SNSを始めて14年目になるが、結構な数の人と決別してきた気がする。
もちろん取っ組み合いのケンカではない。オンライン上のゴタゴタである。
 
多いパターンとしては、「相手がこちらの投稿を読んで、相手の方から友達申請があり、しばらく友達が続くのだけど、ある日向こうが私の投稿にキレて友達解除する」ものである。
 
対立構造が生まれやすい話題の代表である、政治とか宗教的な主張をしているわけではない。ひたすら面倒くさいことが嫌いなので、ハナから揉めやすいそんな投稿はしないことにしている。友達申請してくる人の多くは、趣味が同じとか、コミュニティに投稿したものを読んできましたとか、共通の何かがあることがほとんどだからだ。「類は友を呼ぶ」のごとく、近しい者が集まるのはオンでもオフでも同じ。
 
ただ志や好みが同じだからといって、全く同意見とは限らない。自分とは感じ方が違う、そこだけに妙に引っかかって、そしてなんとなく突っかかって、厄介なやりとりが続くのが本当にウザい。大抵の人がリアルで人と揉めるのは嫌だと思うけど、それがネット上でも展開されるとリアルと同じくらいストレスを抱える。
 
そんなことは何回も経験してきたはずだが、昨年末に久々にデカいやつが起きた。
 
コミュニティの中では全員平等であるはずなのに、「管理者が許可したから」ということだけを錦の御旗にして、全員に知らせずに勝手にコミュニティを動かそうとした者がいたことがきっかけだった。
私は「なぜ皆に知らせずに、決定するのですか?」と問うたのだが、それに対する彼の返事は私に対する誹謗中傷だった。あることないことを組み合わせて、もっともらしい言葉で逆に私が悪いかのように論点をすり替えたい相手を見て、「だめだこりゃ」と思った。
 
彼が論理が通らないことを言ってきたのは何も今回に限ったことではない。それ以前にも、コミュニティの会話の中でいきなりピントがズレた返答をしてきて閉口したこともあった。どこにでも自分の論理だけでしか物事を考えられない人間はいるし、その返答を読んで「極力この人とは関わらないようにしよう」と思ったものだった。
そう心に誓ったはずなのだけど、決めたはずのことを皆に相談せずに1人で覆そうとしたことはどうしても納得が行かなかった。そこで私が口を出さなければよかったのだろうけど、つい出してしまった。
 
昔から納得いかないことは食い下がるたちで、とことん変わらない自分の性格にも呆れるけど、彼に関しては失礼な発言はこれが初めてではない。罵詈雑言の限りを尽くして攻撃してくる姿勢を見て、ああ、いずれこの人とは決別する運命だったのだと思うことにした。

 

 

 

ネットでもリアルでもそうだけど、人間関係でゴタゴタした時は、私は徹底的に相手と関わらないようにしている。
 
リアルだったら挨拶のような礼儀は尽くすが、必要最低限のことしか会話しない。顔を合わせないといけない、利害関係がある相手だったら完全無視はできないのでそこが限界だ。
ネットであればまずは反応をしない。初期段階はミュートする。それでも大人しくならずにリツイートやいいねが流れてくるのが嫌な時は友達を外す。友達を解消しても、いいねで名前を見かけるのすらも嫌な時はブロックする。
 
今回の暮れのゴタゴタに関しては、以前から不快な思いをさせられてきたこともあるが、多少は利害関係がある相手だったために今後の関係をどうしようか随分考えた。「このままにしておいて、私が悪いとやられっぱなしの方が、事は穏便かもしれないよ」とコミュニティのメンバーも助言してくれた。
 
しかし私の、日々の不愉快な思いは解消することはなかった。しまいには血圧が上昇しているのが自分でもわかるくらいになってきた。持病があって数ヶ月ごとに大学病院に通院しているので、治療の効果が出ないとどうしようもない。表面上は穏便にしたほうがいいからという理由だけで友達関係を続ける必要はあるのだろうか。あの人のために私の体調が悪くなる必要性ってあるのか? 否、全くそこに媚びる必要はない。少なくとも私に害を与える人間は断じて友達ではないと判断して、私は彼をブロックした。
 
もうこれで何にも相手のことはわからなくなるし、相手も私に余計なことを言ってくることもなくなる。とりあえず、自分にとってとても嫌なことは遮断した。
 
遮断したはずだけど、言われたことの不愉快さというものはそう簡単には消えない。早く消えろと思えば思うほど、人は自分を苦しめたことにこだわってしまうものだ。中学の時に、卒業までずっと受け続けた嫌がらせを思い出した。同じ部活だった女のことだ。彼女は練習にはいい加減にしか出なかったのに、試合になるといつもスタメンに選ばれていたことに納得がいかなかった。あの時も私が納得がいかずに顧問に相談して、顧問が彼女に注意したところ、彼女は私を逆恨みして卒業まであることないこと触れ回って嫌がらせをして来たのだった。
 
学校にいる間は、校内で鉢合わせするといつも女が罵詈雑言を浴びせてくる記憶。今回のSNSのゴタゴタもそれに似ていた。言われたことを引きずっているようじゃまだまだだけど気分はスッキリしない。スッキリしない上に年末の業務は多忙で、家の用事もどんどんやってきて全く気分転換ができない。さてどうしたものか。
 
年末でいろんな用事も山積みだけど、映画に行こうかな。
ライフワークとして映画鑑賞を始めて15年くらいになる。以前は年間300本くらいをスクリーンで観ていたけど、今の仕事になってからは通勤に時間がかかるので時間的に余裕がなく、そこまで鑑賞できない。2019年はせいぜい100本くらいだったけど、2020年はコロナ禍の影響で多分70本行ったか行かないかの本数だと思う。12月も本当に忙しくて映画館に足が向かなかったけど、観たい映画を見逃すのも残念なので思い立ったら行こう。ということで半月ぶりに映画館に向かうことにした。

 

 

 

どれを観ようか考えて、2020年の東京国際映画祭ではチケット完売で取れなかった大九明子監督・のん主演の『私をくいとめて』にする。
もう1日に2回くらいの上映しかなくなっていて早く観に行かないと終わっちゃうかもしれないと思ったのと、大九明子さんの作品は今までどれもツボにくるものばかりだったので、多少の期待を胸にシアターの座席に沈み込む。
 
おひとりさま生活が長い31歳のOL・黒田みつ子の脳内には、「A」という相談役がいる。困ったとき、ムカついたとき、みつ子は「A」と脳内で会話をする。そんなみつ子が年下の営業マン・多田くんに恋をする。みつ子の周辺で起こる出来事や、みつ子自身の恋の行方をユーモラスに描く作品だ。
 
みつ子はオフィシャルでは従順そうに見えるが、プライベートではかなりゆるめだ。「長いものには巻かれろ」風な考えなのかと思っていたら、「A」を相手にした時は日頃感じている毒がどんどん吐き出されてくる。「え、この子、ゆるふわみたいな顔をしてこんなに激しい性格だったの?」と観ている方がたじろぐくらい、みつ子の中の「黒い部分」はとめどなく出てくる。
 
会社のお局OLにされた意地悪への怒り
ヘッドハントで入社してきた女上司へのやっかみ
親友と信じていた、海外在住の友人への嫉妬
片想いの多田くんへの疑い
 
みつ子の中から「A」に向かって、どんどん毒が生産されていく。自分が好感を持っているはずの相手にさえ、気がつくと不満の種を育ててしまっているみつ子。贅沢な、わがままな不満は、空想の世界でのみしか聞いてくれる人がいないのかもしれない。リアルやネットでもそんなこと言えやしない。もし口に出したら、どこかに書いたら最後、相手に伝わってしまうんじゃないか。それが絶対にない安心感からか、みつ子は脳内で「A」に堂々とありのままをさらけ出している。
 
不満だけは次から次へ途切れないのと同じくらい、苦手なことについての心配が離れないみつ子が、ある日嫌いな飛行機に乗らなくてはいけなくなった。離着陸の不安を「A」にぶつけていたみつ子のイヤホンから音楽が流れてくる。大瀧詠一の「君は天然色」のメロディーに乗って、機内にいっぱい極彩色の風船が飛んでいるシーンになった。
 
(なんて幸せいっぱいの映像なんだろう……)
 
それまでの不安定な、ジメジメした様子が一気に変わり、空気が明るくなった。
どうしてこんなに、この音楽と映像がマッチしているのか。
 
とげとげしいセリフを吐いていたみつ子の表情が変わり、色がいっぱいにあふれたその印象的なシーンは私を満たした。同時にリマスタリングされたサウンドが腹の底に響き、それは実に幸福感あふれる映像になった。
 
それを見ながら自分の中で、「これだ!」と膝を打つものがあった。
 
生きていく上で、誰しもが不満からは完全に逃れられない以上、そこをなんとかどうにかして忘れることができないものかと思っている。
しかし、不満にこだわることはなんの解決策にもならない。それならばいっそのこと、真逆をいけばいいのではないだろうか。不満や怒りを吹き飛ばすくらいの、大きなエネルギーでプラスのことを考えればいいのではないだろうか。
 
SNSの失礼な彼にだって、中学の時の嫌がらせ女にだって、もしかしたら私は奢っていたのかもしれないな、と一瞬思った。こちらが言うことのほうが正しいのではないかという奢りだ。いつまでも感情的になっていたらそのことは見えてはこない。常に常にマイナスの感情を抱えたままでは、何が一体原因なのかは見えてこなかった。その原因が、ポジティブなベクトルが出現したことで少しだけ解析できるかもしれないと思った。
 
すぐに感情に走ってしまう自分の弱さが一番嫌い。だけどそんな自分が可愛くてしょうがないから守りたくなる。人生は矛盾だらけ。そんな負の感情をも隠して、そつなく笑って過ごさなければいけないことに勝手に疲れてしまう。
 
何かが100%絶対正しいことはない。それは私も相手も同じこと。
忘れかけていたポジティブな感覚を与えてくれた映画のおかげで、まるで鬱屈した何かが打開されていくかのような、自分の中から抜けていく感覚があった。
 
負の感情が大きければ大きいほど、それに引きずられないようにするためには逆転するエネルギーが必要になる。相手を憎み続けることだけでは救われない。自分のゴールは一体なんなのか。ここでずるずると流されるがまま終わっていいのだろうか。忘れそうになっている目標を取り戻したい、夢を実現させたい。そんな感覚を持ち続けること、それも思い切り大きくふくらませていい。それだけで、いいんだ。
 
周りに流れてくるのはモノクロームの味気ない風景や、刺々しい言葉ばかり。どっちを向いても嫌いなことしか起きてこない、ダメージに負け続けている自分が嫌ならば、試しに頭の中に天然色のカラフルな世界を描いてみて欲しい。最初はうまくイメージできなくても、自分がやりたいことって何か1つくらいはあるでしょう? それを思い出すことができれば、今まで嫌だったことも、これから起きてくる嫌なことも乗り越えられそうな気がするのだ。映画に教わってきたことはたくさんあったけど、また1つ、大きなことから救われたような気がしている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

日本女子大学文学部卒。
団体職員の傍ら、「客観的な文章が書けるようになりたくて」2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月READING LIFE編集部公認ライター。映画を観ることが全てにおいて優先される生活が理想だけどなかなか厳しい。

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2021-01-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol,111

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