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週刊READING LIFE vol.124

とある中古車屋さんで車を買って本当によかったと思うわけ《週刊READING LIFE vol.124「〇〇と〇〇の違い」》

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2021/04/19/公開
記事:伊藤あさき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
10年と10ヶ月。これは、私が愛車ミラココアと過ごした月日だ。
4回目の車検を前に、私は新車を買うことにした。とある中古車販売店さんで。自分史上最高金額の買い物だったけれど、こんなに気持ちよくお金を使えたことは今までになかった。
 
私は、社会人になって岐阜県に移り住んだ。学生時代は横浜で、就活を機に運転免許は取ったものの、教習所で運転への適合能力の低さを実感していた私は、車を持つつもりはなく、家も会社から自転車で15分のところに借りた。1年目は、特に不自由なく生活していたのだが、だんだん、会議や近隣県への出張など、車がないと仕事に支障が出るという問題に直面した。
 
そして、社会人2年目の私はディーラーへと赴き、人生初の100万円超えの買い物をした。ちなみにディーラーというのは、トヨタとかダイハツとか、主に新車を取り扱う販売店のことである。このとき、車が手に入る喜びよりも、予定になかった大きな出費のことで頭がいっぱいで、契約の直前になっても「本当にいいのだろうか」という気持ちが消えず、不安でいっぱいだった。だって、契約したら最後、毎月約2万円のローンの支払いが3年間続くのだ。ボーナス払いも利用するから、ボーナスも毎回少しばかり捧げなければならない。車って、みんなこんな気持ちで買うのだろうか? CMのようなあんな笑顔で乗る気持ちには到底なれなかった。私と車との出会いはあまり明るい感じのものではなかった。
 
それから10年と少し。私の相棒ミラココアは、とてもよく頑張ってくれた。
最初の1年目に脇見運転で追突事故をしてしまったものの、それ以外は自分では大きな事故はしなかった。2回追突されたけれども、どちらも傷はきれいに直って、あれだけ運転が怖くて苦手だった私にしては、上出来なくらいの10年間だった。この10年の間に3回の車検と半年ごとの定期点検をディーラーで受けていたのだが、このディーラーの営業担当の人に対して、初めに感じていた信頼感が徐々に薄れてきているのを感じながら、それでも買い換えるときはまたこの人にお願いするしかないのだろうなと思っていた。車関係に詳しい知り合いもいなかったからだ。
 
信頼感が薄れてきた原因は、事あるごとに新車への買い替えを勧められたことが大きかったように思う。その人にとっては車を売ることが仕事だから当然のことだと思うのだが、まだまだ問題なく走れているのに、そしてやっとローンを払い終わって月々の支払いから解放されたというのに、また振り出しに戻るなんて絶対に嫌だと思っていた。その意思表示をしても、月々の支払いが少なくて済む買い方や、数年ごとに新車に乗り換えることができるプランなどを紹介された。勧められる度にやんわりと断るということが続き、いつの間にか10年以上が経っていた。
 
「車を買い換えるなら、10年か10万kmの早い方」とよく聞く。そろそろ替えどきなのだろうかと思い始めたとき、「今度車を買うときは、ちゃんと自分で納得して、買ってよかったと思えるものにしたい」と強く思った。今の車を買ったときのように、不安ばかりで全然嬉しくない買い物にだけはしたくなかった。毎日乗る車に対して、やっぱり買ってよかったな。いつもありがとう。という気持ちでいたいと思った。
 
「車を買いたいと思ってるんだけど、新車にするか中古にするか、まずそこでも悩んでて、誰か詳しい人っていないかなー?? 相談させてもらえるとありがたいんだけど……」
私は幼馴染に相談した。
 
すると、すぐに返信があった。
「中古でもいいんやんね〜? 友達に中古車屋さんがいるから希望を言ったら探してくれると思うー!」
 
なんということ! 友達の友達に車の中古車販売店さんがいるなんて!
幼馴染の紹介で、私はさっそくその中古車販売店に赴いた。
 
たかさんは、マスクをしていても人柄が伝わってくるような柔らかな笑顔が印象的な人だった。さっそく車の買い替えで悩んでいることを伝えると、まずこう言われた。
 
「ボクがまず来られたお客さんによく言うのは、親戚や友達に車屋さんがいませんかってことなんですよ」
 
「????」私の頭の中にはハテナがたくさん浮かんだ。
 
「車は値段があってないようなものなんですよね。車に詳しくない人は、言われたままを受け取ることがどうしても多くなってしまうから、それならいいことも悪いことも全部含めて本当のことを言ってくれる人がいい。高い買い物だからよけいに。そして高い買い物ならば、売ってくれる人の営業成績みたいなものを上げてあげられる方がお互いにとっていいですよね〜」
 
これを聞いて、たしかに……! と思った。食べ物や服、日用品なんかだとだいたいこれくらいかな、と見当がつく。値段が高くても、あぁそうか、これは国産なんだなとか値段の根拠がなんとなくわかる。品質も、ここはこだわられているなとか、目に見えてわかりやすい。けれど、車となると何が標準的な性能で、妥当な金額なのかわからないという人は多いのではないだろうか。頻繁に買うものではないから、日々進化する車事情やそれに伴って上がる標準価格もよくわからない。もちろん私もその一人で、野菜ならここのお店の品質がよくて、しかも安い! みたいな判断が車についてはまったくできないのだ。パンフレットに提示されている金額がまずあって、機能とか性能を説明されて、なるほど、だからこの金額なのかと納得した気になる。その機能や性能が具体的にいくらなんてことはわからないけれど、きっとこの金額はそれに見合った額なのだろうと思うのである。
 
車は値段があってないようなもの。その際たる例が中古車だと、たかさんは言った。どんな値段をつけるかはそのお店次第なのだそうだ。つまり、どれだけ利益を上乗せするかはお店次第なのである。そしてその値段は、年式や見た目の良し悪しなどはあっても、お客さんからその根拠が見えにくい場合も多い。仮に理由を尋ねたとしても、それらしい説明をされたら納得せざるを得ない。知識がないからだ。知識がないということは、同じ土俵で戦えないということだ。もしごまかされていることがあったとしてもそれを見抜くことは困難だ。そう思うと、たかさんの言う通り、車に詳しくてさらに自分にちゃんと本当のところを教えてくれる人から車を買うのがいちばんいいように思えた。
 
「もちろん、〇〇さんの紹介だから、そのへんはちゃんとやらせてもらいます! 仲介手数料は5万円いただきますけど!」
たかさんの心強い一言とともに、私の買い替え計画は始まったのである。
 
まず、全国の中古車販売店が中古車の競りを行うオークションを見せてもらった。ちょうど魚市場での競りと同じような感じで、全国の中古として売り出された車に対して買取金額を提示して、より高い金額を提示した人が落札する。ちなみにこの競り、落札決定までは秒単位とのことで瞬く間に競りは終わってしまうそうだ。
 
このオークションの落札履歴から、私の希望条件の車がだいたいいくらくらいで落札されているかを調べて、中古で買った場合と新車で買った場合の差額を見て、どちらにするとよいのかを考えようということになった。
 
初めて知る車の世界にとても興奮したのを覚えている。
そして、こんな風に対応してくれることがとてもありがたいと思った。
 
私の希望条件に似た車は、140万円くらいで落札されていた。ディーラーで見積もった新車の場合の金額は189万円。差額は50万円ほどだから、中古のほうがだいぶ安い。やはり中古のほうがいいのかもしれない。そんなことを思っていたら……。
 
「これはあくまで落札価格。ここにいろいろ経費がかかってくるよ」
「えっ?! 140万円に仲介手数料の5万円で、145万円で買えるってことじゃないんですか??」
 
聞くと、落札価格に加えて手数料、消費税、名義変更の手数料、リサイクル費、落札した車が遠方だった場合は陸送費がかかるのだそうだ。これらを合計するとだいたい24万円くらいの費用がプラスでかかることになる。落札価格140万円+費用24万円=164万円。新車との差はみるみる縮まってしまった。なんでも、軽自動車は価格が下がりにくく、こだわりの条件、ゆずれない希望がある場合、それらを兼ね備えた中古を買う場合と新車を買う場合ではあまり値段が変わらないということは多いそうだ。それほど値段が変わらないなら、やっぱりきれいな新車にしようというのもよくあることなのだそうだ。この展開になると私は迷った。中古で164万円は高く感じる。それでも新車よりは25万円ほど安い。
 
むむむむむ。どうしよう……。
 
そのときだった。
 
「うちでも新車販売してますよ」たかさんが言った。
「中古車屋さんなのにですか?!」
中古車屋さんは中古しか扱っていないものと思っていた。だが、各ディーラーともお付き合いがあるようで、新車購入希望のお客さんがいれば、仲介をしているそうなのだ。もっとも、新車購入となるとほぼディーラーの利益になってしまうから、中古車屋さんの儲けにはあまりならないそうなのだが。
 
「知り合いのディーラーに、伊藤さんの希望条件で見積もり取ってみますよ!」
「すでに岐阜のディーラーさんで189万円の見積もりをもらっているんですが……」
「じゃあ、その見積もりと、僕が懇意にしてるディーラーの見積もりを比べてみましょう!」
 
そんな風にして、ただいろいろなことを教えてくれたり、私の気持ちに寄り添いながら提案してくれたりする姿に、私はいつしか「車は絶対この人から買いたい」と思うようになっていた。
 
そして、数日後。
 
たかさんから送られてきた見積書には164万円とあった。
え?! 同じ条件なのにこんなに安いの?!
10年以上お世話になったディーラーさんは189万円。見ず知らずのディーラーさんは164万円。新車なのに、この間の中古と同じ値段!
 
きっとこの値段には、日頃のたかさんとディーラーさんとのお付き合いが反映されている。一見さんかもしれない私なんかに割引価格はもったいないですよ……! という気持ちもありつつ、「車は値段があってないようなもの」ということが少しわかった気もした。何はともあれ、とてもありがたいことには変わりなかった。
 
ディーラーさんは安く売る分、たかさんの方で利益が出るようにしてくれていいとおっしゃったそうだが、たかさんの考えは、本業は中古車でそちらで利益を上げるから、新車の場合は、安くなった分はそのままお客さんにということで、提示価格がそのまま販売価格になった。
 
聞くと、仲介手数料の5万円も税金などにほとんど消えてしまうそうで、ほぼ善意で対応いただいているようなものなのだということが後でわかった。
申し訳ないなと思うと同時に、あらためて本当にありがたいと思った。
 
そして、その日から1ヶ月ちょっと。
私は、郵便局で振り込み手続きをしようとしていた。
支払い額として人生最高額で、振り込み用紙に記入するのも自分史上最高に緊張したが、こんなに清々しい気持ちでお金を払うのも自分史上初だと思った。
 
いつもなら高い買い物をすると、「こんなにお金を使ってしまうのか……」という後ろめたいような気持ちが多少なりともあるのだが、今回はちがっていた。
「この人に払いたい。この人になら惜しくない」
そんな不思議な気持ちがあった。
 
そして、「早く来ないかな〜! 本当にいい買い物ができたな」と毎日思いながらの1か月と少々は、私にとってかけがえのない日々だった。
こんなにも嬉しい気持ちと感謝の気持ちを感じながら日々を過ごせるなんてとても幸せだった。
 
お金には代えられない「何か」をもらったような、そんな感覚だった。
 
安くしてくれたから、いい人に出会えた、いい買い物ができたというのとはちがう。
もちろん、安くしてもらえたからとてもありがたかったし、迷う背中を後押ししてくれた部分は大きかった。
けれども、私はきっと値段が高くても、この中古車屋さんで車を買っていたと思う。それは、ものではなく「人」に魅了されたからなのだとようやくわかった。
 
自分にとってほとんど利益にならないことを、「相手のために」と誠心誠意向き合ってくれたということ。
 
「車は高い買い物。だから納得して買えるのが一番いい」
そんな風に考えて、私の立場に立って一緒に考えてくれたこと。
 
それが何よりも嬉しくて、心を動かされたのだと気づいた。
 
新車の販売は本業ではないからそんな風にできた部分もあったかもしれない。けれど、人は、普段していないことはできないものだ。ましてや、なんのエピソードもない初対面の人に対しては特に。「この辺でいいかなー。ま、適当に切り上げよ!」みたいなことが一切なくて、どんな些細な質問にも丁寧に答えてくれて、保険の相談にものってくれた。今思えばなんて厚かましい客だったのだろうと思うのだが、嫌な顔一つせずに付き合ってくれたことに感謝しかない。
 
「売りたいモノ」があるとき、商品のセールスポイントを挙げてお勧めするのは商売ならば当然だ。だが、商品の魅力をアピールするというのは「売りたい」が先行する、どちらかというと「自分主体の営業」になってしまう場合が多いと思う。必要もないのにPRにつられて買ってしまったなんていうことは私にだって経験がある。モノがよければ全く問題ないのだが、「言うほどでもないじゃん」と思ってしまうことも結構あったりする。そんな時、もっといいお金の使い道があったのではないかと後悔することもあるし、もうここでは二度と買わないと思うこともある。そしてリピート買いをするとしても、買えればどこでもいい、むしろ安いお店を探すという人は多いのではないだろうか。
 
けれども、「相手が求めていること」に徹底的に耳を傾けて、とことん相手を中心に展開される「相手主体の営業」は人の心を動かす。そして、一度動いた心は、その時だけでなくその先もきっとずっとその人の心をとらえて離さないのだ。誰だって、自分のことのように考えてくれる人と出会うと嬉しくなるし、「本当のこと」を言ってもらえたら信頼が生まれるからだ。
 
「この人なら、安心。何があっても大丈夫」
 
そして、こんな風に思う気持ちはまた別の出会いを繋いでいく。よいと思ったもの、自分が自信をもってお勧めできるものがあると、他の人にもお勧めしたくなるからだ。きっと私も、「車買い換えようかなー」なんて声が友人や家族から聞こえてこようものなら「いいお店、知ってるよ! 紹介させてっ!」と言うに違いないのだ。自分の大切な人たちにも、納得できる、よかったと思える買い物をしてもらいたいと思うから。
 
私は今、全国の車の購入を考えている人に声を大にして言いたい。
ここにオススメの中古車販売店さんがありますよー!! と。
 
 
 

□ライターズプロフィール
伊藤あさき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ。父の転勤で中学時代をオーストラリアで過ごす。慶應義塾大学法学部卒。
天狼院書店主催の【ライティング・ゼミ】を通して書くことに興味を持ち始め、人の心に届くようなライティングを目指して勉強中。

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2021-04-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.124

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