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週刊READING LIFE vol.126

腑抜けだった私を目覚めさせた、たった一つの秘訣《週刊READING LIFE vol.126「見事、復活!」》


2021/05/03/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
早いもので、新年度に突入して、早くもひと月が経とうとしている。
ついこの間まで桜も咲いていたのに、瞬く間に散ってしまった。今では、きらきらと光る新緑が目に眩しい。
春は、始まりの季節だ。4月からスタートするものも、何かと多い。
そんな季節に背中を押され、何かができるのではないかという期待で、新たなチャレンジに飛び込みたくなる。かく言う私も、その一人だった。
ところが、そうこうしている内に、あっという間に5月が目前に迫ってきている。
 
ここ数日、気がつくと夕方だった。
焦る気持ちと裏腹に、4月からの意気込みは、クルクルと空回りだ。
またしても、今日終えようと思っていたことが、できずに持ち越しになりそうだった。
夕闇が迫ってくるころになって、ようやく腰を上げる。何だか、時間がワープしているかのように、あっという間に過ぎ去ってしまう。
 
最近、意味もなく、スマホやパソコンにかじりついている時間が増えた。
画面を覗けば、そこには無数の情報や、興味を引くコンテンツが溢れている。
親に怒られてもゲームを止められない子どものように、私の手は知らず知らずのうちに画面を操作していた。
 
4月に入り、夫は部署移動でさらに忙しくなり、毎晩帰りが遅くなった。
娘は大学生になり、親元から離れていった。
家族がいない空間に、私は一人でいることが増えた。
自由になる時間は増えたが、それと引き換えに、何かを失ってしまった気がするのだ。
 
減ってしまった洗濯物の量や、作る夕飯の量。
寝室に行くときに見える、娘の空になったベッド。
何より、活気がなくなった家に一人でいることが多い。
無音の中で、とても自分を持て余してしまうのだ。
家事も普段通りやっている。仕事にも行っている。何なら、放射線治療のために病院にも通う日々だ。
それでも、どこか現実感の欠ける日々で、自分の置かれた状況に、未だ慣れることができずにいた。
 
それでも、先月まではまだ良かった。
やらなくてはならないことがたくさんあり、リストにしておかなければならないほどだった。
忙しさが私の生活のスパイスとなり、切り替えが上手くできていたのだ。
 
今月からは、たっぷりと時間がある。だから、何でもスパッと終わらせて、その後で自分の時間を楽しめばいいのだ。
なのに、ダラダラと流れるように時間を消費していくのはなぜだろう?
真っ平らな平面の上を水がスルスルとすべっていくように、何の障害もなく流れ続けるのだ。
あっという間に終わる1日と、この条件反射的にのめりこむ習慣を何とかしなければ。
 
理由は分かっている。きっと寂しいのだ。
4月から、ポッカリと開いたスペースの居心地が悪いのだ。
薄々こうなることが事前に予想できたから、4月から意欲的にいろいろなことに取り組もうと計画を立てていたのに。
あの意気込みは、どこへやら。
現実は、実行することがとても億劫に感じられた。
ダイエットと同じだ。明日から頑張るから、今日までは食べても大丈夫。一歩踏み出すことを、引き延ばす理由づけは得意だ。明日こそはと思っていても、その明日とは、何とも曖昧で不確実なものだ。
 
やる気が起きないのなら、せめて気分が上がることをしていこう。
その内に、やる気スイッチが入るだろう。楽しくしていれば、こんなフワフワとした虚脱感から抜けることができるはずと思った。
 
興味のある記事や好きなアーティストのコンテンツ、チャンネル登録しているユーチューブ、気になるドラマ、果てはインスタやツイッターなど、片っ端から触れてみた。
今は、手軽にそういうものを摂取できる時代だ。
スマホ一つ、パソコン一つあれば、無限ループに陥るように、検索や再生する手を止められなくなる。
 
次第に、暇さえあれば、というか、こちらが主となって、家事などを合間にする感覚にすらなった。
頭では、こんな時間の使い方じゃダメだと警告サインが出るのに、私の神経は上手く伝達できないらしい。頭の発する信号が、手にきちんと届かないのだ。
やばい。これではネット廃人もどきへ、まっしぐらだ。
 
こんな私に、特効薬はあるのだろうか?
完全に、私の生活からメリハリが失われている。こんな「心ここにあらず」の状態から、脱出したい。
この魂が宙に浮いたような状態を早く引き戻さなければ、私は永遠にバーチャル空間にさまよったままになってしまう。
一つのことを集中して終わらせることができ、達成感とやる気を起こさせてくれるものは何かないのだろうか?
 
ぼんやりした頭で、何か良い物はないかと、頭の引き出しを開けたり閉めたりしていると、ふとあるものが思い浮かんだ。
 
それは、キッチンタイマーだった。
料理を作るときに、時間を計るアレだ。
現在私は、ベーカリーショップのパートスタッフとして働いている。
厨房には、いくつものキッチンタイマーがある。きちんと時間を計って作らなければ、商品としてのパンを提供することができない。次々と鳴るタイマーは、次の作業を教えてくれる道標のような役割を果たしているのだ。
様々なパンを同時進行で作っていくため、あるパンを作っている途中なのに、他の作業に集中していると、そのことすら、うっかり忘れてしまうこともある。
キッチンタイマーをかけさえすれば、必ずその存在に気づくことができ、どの工程までできているかを確認することができる。
工程の終わりをハッキリと告げてくれて、そこから先に進むべきことを教えてくれる意外なマストアイテムなのだ。
 
物事の終わりと始まりをクリアに知らせてくれるタイマーは、けじめをつけることができない今の私にうってつけかもしれない。
音が鳴って知らせてくれるから、ハッと我に返り、意識の切り替えもできるのではないだろうか。
 
ある日の朝、洗濯物を干し終わった後、私は、いつもだったらドラマに吸い寄せられる自分の手をたしなめた。
違うでしょ。キッチンタイマーを試してみるんでしょう?
まずは、今日やるべきことと、やりたいことをリスト化した。
リストの中で、その時間配分をしてみた。午前中の時間ですることを、時間配分に従ってタイマーをかけてみた。
 
ピピッ。ピピッ。1時間が経過した。
時間に限りがあることを脳が思い出したのか、思ったよりも集中して取り組むことができた。
時間を切り取ることで、脳の集中度が一気に上がることを感じた。
この日は、午前中に記事を1つ書き終え、主な家事もスムーズに終えることができた。
午後からは治療へ向かい、その後は買い物をして、いつもの夕方の家事も楽々と済んだ。
早々とお風呂にも入り、帰りが遅い夫と夕食をとろうと、待つ時間に色んなコンテンツを楽しむことができた。
何だか清々しい気持ちに溢れ、スッキリとした自分がそこにいた。
 
あっという間に終わる1日は、時間が足りなりないのではなく、時間の使い方が下手だったのだ。
時間が不足しているように感じて、睡眠時間まで削っていた。
おかげで寝落ちするのは、深夜だった。あれもこれもと手を出すうちに、自分でも収拾がつかなくなっていたのだ。
次から次へと面白いものを繰り出してくるスマホやパソコンは、言うなれば、ドラえもんの四次元ポケットだ。興味を引き続け、目が充血し、肩こりが酷くなっても私の心を離さない。
 
何とも、グータラで自堕落だ。
確かに、自由な時間は増えた。
けれど増えた時間と引き換えに、手に入れたものがこんな自分だと思うと情けなかった。
 
もう一度、仕切り直しだ。
楽しむことはいいことだ。けれど、主体性を持たない楽しみ方は、ただの時間の浪費になってしまう。やはり、メリハリが必要だ。それに、様々なコンテンツを垂れ流しのように観ていくよりは、絞っていくほうがいい。目的意識を持って観た方が、絶対に心に響くのだ。
例えば、美味しい焼き肉を食べに行くとする。お腹がいっぱいで何となく義務的に食べるよりも、焼き肉を食べることを楽しみに、一日汗を流してから食べれば、同じものでも美味しさに違いがあると思うのだ。
 
今日は久しぶりに、日課だった散歩を再開した。好きな音楽をイヤホンで聞きながら、リズムに乗って歩いてみた。
2月の手術が終わってから、医師に勧められて散歩を日課としていた。ついこの間までは、受験が終わった娘とも、よく散歩に行っていた。
寒くてどうしようかなと思う時も、娘と一緒だと楽しかった。けれど、今月に入ってからはサボっていた。娘がいなくなって、やる気がしぼんでいたのだ。
体を動かすことも、生活のリズムをつけるにはもってこいだ。
事実、散歩が終わって戻ってくると、次は何をしようかと前向きな気持ちに変わっていた。
今日の夕飯の、新しいレシピまで思いついた。
 
見事、完全復活! とまではいっていないが、そろそろ立ち上がるために踏ん切りをつけなければならない。
沈んだ沼から浮かび上がり、お日様に当たってジメジメした私を乾かすときだ。沼に浸り過ぎて、カビだらけになる前に。
分別を持って、沈まぬうちに再浮上しなければ、沼の底の住人になってしまう。
自らの意志でコントロールできるようにならなくては、同じことの繰り返しだ。
 
だから、しばらくは、キッチンタイマーに頼ってみようと思う。切り替えが自分でできるようになるまで、私の見張り番になってもらうのだ。
他力本願なのは重々承知だが、目を離すと、すぐに寂しさの穴埋めへ逃げ込む私のために、現実世界と私を繋ぐ足枷となってもらおう。
 
やり方は、至って簡単だ。
何かを始める前に、時間をセットしてスタートボタンを押す。
時間を知らせる音が鳴ったら、ダラダラと続けずに、ここでキリよく一旦終わることにする。そして、次の予定や作業の前に、再度タイマーをかける。
そのサイクルが上手く回り始めたら、しめたものだ。
その合間に、上手に楽しみをぶら下げるのだ。馬の鼻先にニンジンをぶら下げるように、これが終わったご褒美という風に、やる気が倍増するような楽しみ方を組み込んでいくのだ。
 
リズムを刻むように、生活にアクセントをつけながら、軽やかに過ごしていこう。
そうやって、できないことを悔やむ日々から解き放たれれば、生活の充実度も上がり、心のすき間風も止むことだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)

福岡県出身。
自分の想いを表現できるようになりたいと思ったことがきっかけで、2020年5月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。更にライティング力向上を目指すため、2020年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
興味のあることは、人間観察、ドキュメンタリー番組やクイズ番組を観ること。
人の心に寄り添えるような文章を書けるようになることが目標。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

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2021-04-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.126

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