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週刊READING LIFE vol.131

そこにどれだけの思いが込められているのか《週刊READING LIFE vol.131「WRITING HOLIC!〜私が書くのをやめられない理由〜」》


2021/06/06/公開
記事:九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
胸を張って生きているか。
それを問われた。
 
相撲が大好きな西山厚先生が書かれた、読売新聞のエッセイを読んだときだ。
内容は、照ノ富士の優勝の話だった。
 
大相撲の五月場所は、幕内は照ノ富士が優勝した。
事実はこれだけだ。
私は相撲に関心を持っていないので、このことに特に感動もなかった。
 
でも、そのエッセイを読んで、泣いた。
 
4年前、照ノ富士は最高位の横綱に手が届きかけていた。関脇だった平成27年夏場所にて初優勝、それは、年6場所制となった昭和33年以降、幕下付け出しの力士を除いて、歴代3位のスピード記録だった。場所後に大関に昇進し、横綱候補として期待されていた。
しかし、膝を怪我して、思うように相撲が取れなくなり、大関から落ち、幕内から十両に落ち、さらに幕下に落ちた。
大関経験者が幕下以下に陥落するのは、昭和以降では初めてのことだそう。
十両と幕下では身分が違って、十両になると一人前、関取とよばれ、幕下までは半人前と扱われる。大関経験者が幕下に落ちたら相撲は続けられない。自尊心があるからだ。
 
両膝の怪我に加えて、内臓も病んだ照ノ富士は、師匠の伊勢ヶ浜親方に何度も引退を申し出たそうだが、許されなかった。
さらに、三段目に落ち、序二段に落ちたが、伊勢ケ浜親方は「必ず幕内に戻れる」と励ました。
 
怪我が病気の回復に伴って、すこしずつすこしずつ稽古を再開し、再び番付を上げていった。
去年七月場所で幕内に復帰し、およそ5年ぶりとなる2回目の優勝を果たして、復活した。今年3月の春場所では、3回目の優勝を果たし、21場所ぶりに大関に復帰した。
 
しかし、両膝の怪我は治らない。
「長く相撲を取れる体ではないと思うし、いつ何が起きるかわからない状況の中で、相撲を取っている。全力を出し切ってどこまでいけるか勝負してみたい」
 
そして、五月場所で、大関として初めて優勝した。
 
優勝インタビューで、
「前の大関のときから、横綱ということを常々口にされてきたが、これで来場所は、横綱昇進に挑む場所となる。大関にとって『横綱』という地位はどんなものか」と問われて、照ノ富士は答えた。
 
「なりたいからと言ってなれることでもないし、だからこそ、経験してみて、できたらできたでいいんで、できなかったらできなかったでいいんで……」
場所から笑いが起きた。
照ノ富士は、一息ついて、これまでのたくさんの思いを込めて、言葉を紡いだ。
 
「一生懸命がんばって、最後まで自分の力を絞りましたと言って、胸張って歩きたいです」
そう言い終えて、口をぐいと引き締めた。
 
大きな拍手が沸き起こった。
 
落ちに落ちて、底までいって、苦しみを乗り越えて、3年余りをかけて、ようやく横綱まであと一歩というところまできたのだ。
その生き方に、涙が出た。
 
そして、私は、胸張って歩いていると言えるだろうかと思った。
人間は、楽なほうへ楽なほうへとつい向いてしまう。
でも、本当に生きたい道は、胸張って歩ける道だろう。
 
照ノ富士は言う。
「普段やってきたことしか場所ではでない。いつ何が起きるかわからない状態で土俵を務めている。いつ辞めてもおかしくない覚悟の上で、もう今日で相撲取って最後かもしれない、という思いでやっている。だからこそ、心の準備を最初からしておかないといけない。上がっても上がらなくても、自分で納得できる終わり方をしたい」
 
私はいま、納得できる生き方をしているかと、突きつけられた気がした。
照ノ富士のように、最大限に自分を発揮したいと思った。
 
照ノ富士のこれまでのことを知らなければ、ただ、一人のお相撲さんが優勝した、ということで終わってしまう。
私は、西山先生のエッセイを読むことで、照ノ富士のこれまでの試練を知り、この優勝にどんな意味があるのかがわかったからこそ、心を突き動かされた。
その出来事の意味を知っているのと、知らないのとでは、感動が全く違うのだ。
 
伝えるということは、そこにどれだけ人の思いが込められているかを、書いたり話したりして表現することだ。
 
そのことに気づかされたのは、能楽師の大島さんの話を聞いたときだった。
ゴルフのトーナメントをテレビで観ていたそうだ。ちょうどそのボールが入るか入らないかで、重要な大会の優勝が決まるという決定的瞬間だった。大島さんは、それがどんなに固唾を呑む瞬間かを知って見守っていたので、入った瞬間、思わず声を上げて喜んだそうだが、後ろで見ていたお母様が、プロだったら当然だと仰ったという。
そのときに、そのボールが入ることがどんな意味があり、どれだけすごいことなのかを知っているのと、知らないのとで、全然違うのだと思ったそうだ。
知らなければ、感動しない。
それは、能楽も同じで、その演じる演目の内容を知っているのと知らないのとでは、観客の感動が変わってきてしまう。だから、演じる前に解説をすることの大切さに気づいたという。
 
確かに、能楽は、言葉もわからないし、動きもゆっくりで、一体舞台で何をしているのかよくわからない。でも実は、そこには、たくさんの人間の思いが込められている。どんな深い思いが描かれているというようなことがわかれば、関心度も変わってくるし、観たときの感じ方も異なるだろう。
 
先日、お世話になっている方から、熊本震災復興支援のクラウドファンディングの案内をいただいた。熊本という遠い場所の震災の支援というのが、正直のところ、まったく身近に感じられなかった。
 
でも、その案内には、クラウドファンディングを立ち上げた平澤さんの言葉で、どういうプロジェクトで、何をきっかけに復興の支援をしようと思ったのかが、詳細に書かれていた。
9年前の世界一周の船旅ピースボートでお寺のご住職と出会って、102日の間、ともに生活をして帰るころにはもう家族のような存在になったという。そして、熊本で震災が起き、そのお寺が被災してしまった。そのお寺のご住職は、周りの人のボランティアをしたり、お寺をボランティアの方の宿泊所にしたり、人のためにいそがしくされていた。ご住職は東日本大震災のときには、同じ浄土真宗でお寺をしている仲間が大変なことになっていると、毎月東北に通い復興支援のお手伝いをされていたという。いま、ご住職ご自身はどうなのかと思って電話をしてみると、屋根もぶっ壊れてご本尊もバラバラになって、お寺をたたもうと思ったほどだという。5年経っても、まだ復興できていない。修繕費が高いから、なかなか動き出せずにいると聞いて、クラウドファンディングを立ち上げたのだ。
 
そのお寺は、熊本県宇城市の光照寺だった。地域の人たちを支えてきて、困ったときの駆け込み寺としての存在で、17代も続いているという。私は、中高6年浄土真宗の学校に通っていた。お寺が瓦礫と化した写真を見て、胸が張り裂けそうになった。地域の人が集って祈る場所であるお寺が、復興できないのはつらい。それに、偶然にも私は、宇城市のミニトマトがとてもおいしいので、毎年取り寄せたりしていた。ご縁を感じた。とても僅かながら、支援させてもらった。
 
私が動かされるきかっけは、その思いのこもった文章だった。ご住職の、人のためにいつも尽力されている人となりを知り、お寺のことを知り、そこにどんな物語や人生があるのかを知って、心揺さぶられた。
そして、自分のこととして、近しいこととして、受け止めることができた。
 
思い。
それは、なかなか言葉に言い表せなかったりする。
言葉にするとき、私はいつも、砂をすくおうとして、すくってもすくっても、するすると指の間からこぼれ落ちてしまうかのように、思いのかけらのようなものがこぼれ落ちてしまう感覚がする。
 
それでも、もどかしい思いをしながら、言葉を紡ぎ、心動かされたものをとらえようとする。
 
心動かされることが、生きる力となる。
そんな原動力のようなものを、共有できればいいと思う。
 
どれだけ私の思いを込められるか。
それは、自分の人生に、どれだけ思いを込めているのかということかもしれない。
心を込めて、一瞬一瞬を生きよう。
それを言葉にして書いていく。
いま私が生きている証として。
 
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部で、心の花を咲かせるために日々のおもいを文章に綴っている。

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2021-06-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.131

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