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週刊READING LIFE vol.131

2000字の女王の呪いをはねかえす《週刊READING LIFE vol.131「WRITING HOLIC!〜私が書くのをやめられない理由〜」》


2021/06/06/公開
記事:馬場 さかゑ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「今ね。文章、習っているんですよ」
「へ〜、そうなんですか」
「毎週5000字書くんですけどね。ほんと、だめだめ。一度も合格したことないんです」
「なんで合格しないか、わかってますか」
「そうね。ダメな理由は、簡単なコメントで毎回くれるんだけど、なるほどねと思うのが、5割。3割は、何言っているのかわからない。2割は、でも、それって、書く人の個性の部分じゃないのと思う」
「あはは」
「ま、実力がないってことだけど」
「・・・」
「その前は2000字だったのよ。その時は、結構いい線いっていたと思ってたんだけどなあ。5000字になったら、ぜんぜんだめ」
「あれ、天狼院ですか」
「え、知ってるの」
「僕も習ってましたよ」
「そうなんだ」
「ほら、○○さんも、それから××さんも。習っていたんですよ」
「へえ〜、私は、たまたま、ネットで見かけて始めたんだけど。結構、みんな知っているみたいで、あ、天狼院ですかって、よく言われるわ」
「ぼくもね、2000字の時に、ぜんぜんだめで、担当の人に個人的にメール送って聞いたんですよ。そうしたら、すごく長いメールが返ってきて、それが、すごく参考になったんです。直接メール送ってどこがダメか聞いてみたらいいじゃないですか」
「なんか、そのレベルじゃない気がするのよね。5000字になった時に、最初の講座で『2000字の女王』の話があったのよ。2000字だったら素晴らしいのだけど、5000字が書けない人の話。なんかさ、その呪いにかかっちゃったみたいなの」
「え〜」
「私、書くの好きなのよ。子供の頃から。基本おしゃべりなんだけど、混乱した時とかには文章を殴り書きする。そうすると、気持ちが収まるし、新しい視点が見えてきたりする」
「そうなんですか。僕は、書くの苦手なんです。仕事場でも、書いたものすごく直されるし」
「ま、仕事の書類っていうのは、求められることが違うしね」
「直されると、なるほどなあってなりますよ」
「そうなのよね。その素直な姿勢がきっと大事なのよね」
「そうですよ、何事もね」
「でも、5000字は、書いていても自分でつまらないって思っちゃうのよね」
「書いている人がつまらないんじゃ読む人はもっとつまらないでしょうね」
「でしょ。あ〜、わたしも2000字の限界が超えられない。どう書いていいかわからない。ってなると、ますます、つまらない気持ちになってくる」
「原点は、なんですか。書いてみたいと思った」
「子供の頃ってさ、作文とか感想文とか、賞をもらえることが多かったじゃない。そんなこともあって、書くの好きとか、得意って思って育っちゃったんだよね」
「いいことじゃないですか」
「笑っちゃうんだけど、子供の頃の夢は作家だったこともある」
「へえ」
「父がね、文学青年だったみたいで、茶色く変色した文学全集なんかが置いてあったんだけど、その中に『紗翁傑作集』っていうのがあって、また、旧仮名遣いで難しい。字も小さいし」
「紗翁?」
「シェークスピアのことなのよ。父に聞いたら、これを全部読めたら、小説家でもなんでもなれるよって、今思うと、わけわかんない根拠と理屈…だけど、一生懸命読んだわよ。挫折したけど。あれ、きっと、父も読み終わらなかったんだと思う。だからあんなこといったんだろうなあ。でも、その頃は、作家になりたいって思っていたんだと思う。小学校2年生ぐらいだったけど」
「そんな頃に」
「子供の頃ね。病弱だったの。当時にしては命がけの小児結核とか、腎臓炎とかを患って、何ヶ月も学校にいけなかった時がある。入院するわけじゃなくて、自宅療養なんだけど、布団の中で一日中過ごす。医者が往診に来てくれる。ま、あんまり覚えてないけど。だから、楽しみは、本を読むこと。だって、テレビもまだ、なかったから」
「なるほどね」
「でもね、本だって、高いからそんなには買ってもらえない。近所のお兄ちゃんがくれた読み終わった本とか、姉が図書館で借りてきた本とか、選べないのよね。少年タイガーって知ってる?」
「なんですか、それ」
「少年ケニアは?」
「それは、聞いたことあるような気もする」
「山川惣治って言う人が書いた、半分絵で、半分文字の冒険小説。漫画の前身みたいなもんだと思う。日本人の少年がジャングルで親とはぐれ、虎に育てられて最後に両親と会うというありがちなストーリーなんだけど、陰謀があったり、原始時代のままのロストワールドに入り込んだり、もう、ワクワクして次が待ちきれなかった。大人になって、神田の古本屋回って、一冊ずつ見つけては、買い揃えたわよ。11巻シリーズ。あと、最終巻一冊ってところで、何年もそれがみつからない。ところが、なんと、ヤフオクで全部揃って出品されていたの。しかも、単品の2冊分ぐらいの値段。即買い。結局ほぼ2セット持っている。今読んでみたら、面白いけどちょっと退屈。でも、買ったのは本じゃなくて、あの頃の自分の思い出なのよね。これは、プライスレスだわ」
「そういうものってありますよね」
「あるある。小学校、中学でも図書館の本読み漁っていたわ。当時大好きだった、CSルイスやケストナーやリンドグレーンなんかの本は、高校になってバイトして買い集めた。いまだに、引越し先に持って歩いているわよ」
「20回以上も引越しているのに」
「そ。重くて場所取るだけなのにね。引越屋さん泣かせだわね。イギリスとスウェーデン好きすぎて、結婚の条件にしたぐらい」
「結婚の条件?」
「イギリスに住みたい、スウェーデンに住みたい、山小屋を持ちたいって、3つの願いね。そうしたら、いいよっていうので、結婚した。で、本当に、イギリスにもスウェーデンにも住まわせてくれたわ。感謝よね」
「すごいなあ」
「あ、話があっちこっちしちゃったけど、本の虫みたいに本が好きで、いつのまにか、そういうワクワクする気持ちを読み手にも感じてもらいたいという夢になって、作家になりたいと思ったのよね。だって、そこに別の世界が開けるんだよ、文字だけで」
「でも、今の仕事は違いますよね」
「そうなの。仕事したいと思った時に、縁があったのが、今の仕事。ライターってのはどうやったらなれるのかわからなかったし。そしたら、今の仕事、楽しくて、仕事があるだけでもありがたくて続けてきたらこの歳になっちゃった。老後の人生を考えたら、やりたいことをやり出すのは今だって言う気がしてね。スウェーデンにいた時、メールマガジンのハシリの頃で、毎週発行していたスウェーデンエッセイに読者が結構いたのよ。帰国の時には、出版社から出版の打診が来て、読者にも『本になったら教えます』って告知していたんだけど。帰国して間もなくから、今の仕事が忙しくなっちゃって、ずるずるしちゃったのよね」
「ずっと忙しかったですもんね」
「その出版の話を一番喜んでくれたのが父。だから、本を出すなら父が生きているうちに実現させたいのよね。そのリミットも刻々と近づいてきている。もう92歳なのよ。何千人かいた読者にも約束しちゃったしね。って、そう思っているのは私だけで、父も当時の読者ももう覚えてもいないだろうけど」
「僕は、読んでみたいですけどね」
「ありがとう。で、文章勉強してみようかと思ったらこの体たらく。自信なくしている今日このごろ…って、感じよ」
「僕も5000字の時、2回続けてダメだったので、また、メールして聞いてみたんですよ。そうしたら、なるほどって思って、書けたんですよね。聞いてみたらいいのに」
「2000字の女王の呪いなのよ。5000字で行き詰まったら、書いていても5000字にすることばかりに意識がいっちゃって、楽しくなくなっちゃったの。書いている時って、時間を忘れるぐらい楽しかったのに。メールマガジンを発行している時は、家族のご飯の支度も面倒くさいと思うくらい、熱中して書いていたのよ。こう言う感じが、フローっていうのかな。で、毎週金曜日に発行すると、その瞬間から読者の感想がメールで届き出すの。それがまた、うれしくて。ネタ探しにあちこち出かけたり挑戦するから、結果的に、スウェーデン生活が豊かになった。文字を通して伝わるのは、あの楽しさとかワクワクだと思うのよね。行間に込めた思いっていうか。笑いながら書いている時は、笑いが、泣きながら書いている時には、その思いが。私が書きたいのは、そういうのが伝わるエッセイだってことに気づいたのよ。スウェーデンで。その上、こんな仕事していると、なるべくわかりやすく簡潔にって考えるじゃない。2000字で書くものをなんとか1000字にまとめられないかって。それが5000字になったら、どうやって膨らませようかっていう思考との戦いで、つまらなくなっちゃったのよ。書くことが」
「そうなんですね。ま、楽しめないのなら、そこに時間を使うのもね。僕の場合は、ビジネスの文章のためだから、すごく役に立ちましたけどね」
「まだ、続けているの」
「もう、期間がすぎたので今はやっていませんけど」
「私も、次は続けないつもりなのよね。っていうか、あまりダメダメすぎて、続けられないと思うんだけど。でも、毎週、課題提出だけはしていたのよね。まずは、書かないことには始まらないから」
「すごいじゃないですか」
「だって、これで書きもしなかったら本当に無駄じゃない。忙しくて講座の内容をちゃんと見てないんだし」
「いや、講座の内容見る方が大事でしょ」
「あはは。だね〜。録画だといつでも見られる気がして、これまたずるずるしちゃうのよ。締め切りがあると、そこに合わせて、何かしら考えて書こうとするでしょ。だって、締め切りなかったら毎週5000字書かないでしょ」
「別に普通の人は、毎週5000字書かなくてもいいんですよ」
「そりゃそうだわ。確かに。でも、書くことで見えてくるものは、確実にあったのよね。自分の思考のパターンであったりとか、限界とか、ワクワクの源泉とか。今の仕事もね。最初からすごい人はいなくて、やっぱり場数なのよね。後輩とか育成していて、本当にそう思う。器用な人は、初めからそこそこの完成度でくるけれど、それでも、やっぱり場数なのよね。そして、その人の持ち味、個性、人間性。そこが、ぼんやりしているとリピートにつながらない。個性が強すぎでも、クライアントを選んじゃうけど、でも、指名される仕事には個性は必要。誰でもいいけど、あなたでもいいという仕事だと、どこかで、先細っちゃう気がするのよね。あと大事なのは、何を伝えたいかという思い。結局、最後に相手に伝わるのは、そこだけだから。あ、それって、書くことも同じかもね」
「そうですね。こっちのスタンスとか、人柄とか、隠そうとしても透けて見えちゃいますものね。繕おうとするとそれも見えちゃうしね」
「だよね。あ〜、じゃあ、もう少し、勉強してみようかな。だって、書くこと好きなんだから。伝えたいこともいっぱいあるんだから」
「素直に聞いてみることですよ。どこがだめか。勉強中なんですから」
「そうだね。でもね、だってね、それってさ…って、自分に言い訳していても成長にはつながらないものね。ただし、今度は、課題提出のためじゃなく、楽しんで参加してみる。あのワクワクした、時間を忘れて書きたくなっちゃう感じを思い出してみる」
「そうですよ。趣味なんだから本気でやらなきゃ。だって、やらなくていいことをやっているんですからね。本気でやらなきゃ楽しくないじゃないですか」
「そうね。本気で楽しんでみるわ」
 
 
 
 
 

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馬場 さかゑ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2021-06-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.131

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