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魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く!Vol.6-2】こだわりを伝えるために、ジャムを作り続けたい(後編)《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2021/08/30/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)

新倉さんちの手づくりジャム 新倉有文さん

 
(前編記事はこちら)
 

手間をかけてでも、守りたいものがあるから


無添加の商品を作るためには「どうやってジャムの粘りを出すか」が一番苦労しているポイントです。
砂糖の入れ方とか煮詰め方、材料の切り方も工夫しています。基本は手で全ての材料をカットしますが、粘りを出すために材料によっては時々フードプロセッサーを使ったりもします。
 

 
ジャム製造の基本は鍋で煮詰めてかき回すことですが、これが大変な重労働です。工房の中は火をたくさん使っていますから冬でも暖かいですが、これが夏場になると凄まじい暑さです。
 
作るのに一番大変なジャムは何か? と訊かれたら「夏のトマト」と答えますね。これが実は一番大変です。トマトを加熱すると最初に水分がたくさん出てくるので、そこから煮詰めていくのはなかなか根気がいる作業です。
 
逆にレモンはペクチン(=果皮に含まれる天然の多糖類。とろみを補う役割)が多いので固まる力が強いから、加熱してから30分くらいでジャムができてしまいます。だから煮詰めすぎないようにしないといけない。「では、レモンのジャムは早くできるから作るのは簡単でしょう?」と思われるかもしれませんが、実は一番商品化が難しかったのが、このレモンのジャムでした。
 

 
レモンはペクチンの含有量が多いので、煮詰めすぎるとカチカチになります。スプーンの歯が立たないくらい固くなる。ですから水で薄めないと柔らかさが出ないし、薄めすぎるとデレデレになる。その調節が難しいんです。
 
レモンも含めてマーマレードにするような、主に柑橘系の材料がそうですが、果物の皮の食感を残しながら煮詰める時に長時間掻き回し過ぎると、皮が溶けてなくなってしまいます。火を入れる加減もとても難しいですね。
 

 
いろいろ難しいことも多いですが、それでも僕は市販のペクチンをジャムに入れようとは思わない。もしもペクチンを入れたら材料は今使っている1/3の量で済みますから、販売価格も抑えられる。でも入れたら素材の良さが薄まってしまう。みんな同じようなジャムになってしまうんです。
 
素材の良さは残ります。食べた時にその果物がわかる。そういうのが大切なんじゃないかと思っています。この湘南ゴールドのジャムも、「まるで湘南ゴールドを食べているみたい」という舌ざわりにしないと、せっかくお値段を費やして買っていただいてもつまらないじゃないですか。
うちのジャムは作り方も含めて労働集約なので、ペクチンを入れて沢山作るジャムとは全然違うものなんです。人数を使って手間をかけたらお値段をいただくのは致し方ないですが、それでも守りたいものがありますし、満足していただける自信がありますから。
 
 

商品開発とは、永遠に続く試行錯誤


うちは「こういうジャムがあるからどうですか?」と自分たちから発信するというよりは、「いいものを作っていけば、いつか気が付いてもらえるんじゃないか」という地道な販売戦略です。
新しい材料でジャムを作る商品開発ですけど、実は全国から問い合わせがありまして、そこからヒントを得ています。「自分のところにはこういう果物があるから、ジャムにしませんか?」みたいな、ある意味売り込みですけどね。そんな話が来ると「じゃあやってみましょうか」と新しいジャムを作っているうちに、とんでもなく種類が増えました。シークワーサーや、ルバーブのジャムがそうですね。ルバーブは、僕が探していたら長野の方で「送りますよ」という方がいらしたので、作ることになりました。そもそもルバーブという野菜を知っている人が少ないし、しかもルバーブには青と赤がありますからね。これはジャムにしたら絶対面白いと思いました。
 

 
商品開発はいろいろやりましたが、面白いけど大変です。
野菜のジャムの試作は、やってはいますが、現在あるのは今商品になっているものだけですね。ほうれん草のジャムも作りましたが、緑の色が出ない。加熱すると色が抜けてジャムが真っ黒になっちゃいました。
ジャムの色止めにはよくビタミンCをお使いになるところもありますが、うちではレモンを色止めに使っています。でも野菜のジャムの色止めでレモンを使っても、野菜の色が出ない。葉物の野菜をジャムにするのは本当に難しいです。
それと難しかったのはスイカ。これは元の水分が多すぎますよね。ジュースみたいなものです。せいぜいスムージーにしかならない。たとえ煮詰めて売ったとしても1瓶の単価は1,000円以上になってしまいます。労力も倍以上かかって価格も高騰しますから、これも無理でした。
 
商品化したけど売れなかったものもありまして、それはじゃがいものジャムです。北海道に赤いじゃがいもがあって、それを商品化したけど売れなかった。あとはカリフラワー。これは臭いがあるんですよね。煮詰めるとほんのちょっとでもすごく臭います。だからこれもボツにしました。
玉ねぎのジャムも作りましたが、これは材料を切っているときに目に沁みる。それが理由で嫌がられましたので商品化はやめました。なかなかおいしいんですけど、残念です。
 

 
よく言われるのは「今これが流行っているから、作ったら?」みたいなことで、それに即対応できればいいんですが、実際そうはいかないです。
例えば花を使ったジャムがありますね。桜のジャムも作りましたがとても難しかった。塩漬けの花を使いましたが、花びらが浮かんできちゃうんです。もう1つの試作はバラのジャムですが、これはペクチンを使わないととろみが出ない。そこでペクチンの代わりにレモン汁を使おうと思いました。ところが今度は、バラの花びらも桜の花びらのように水に浮かんできてしまいました。ジャムの中に花を残して咲かせるのは難しいですね。もし商品化できたら、美しいだろうなとは思いますが。
 
 

商品ができてからの「その先」を考えていく


ピューレなど、ジャム以外のものを作ることは今のところ考えていません。ジャムで精一杯です。
いちごのピューレは、できることはできますが、アクをすくう時に中の汁まで一緒に取れてしまうので商品にはなりません。あとはブルーベリーも、ピューレはできますがこれも商品化はしていません。内々で食べるくらいの量にしかならなくて。幻のブルーベリーピューレだから希少価値はありますけど、残念ながら売るところまではいかないですね。
 

 
うちでまだ商品化されていない野菜は、例えばピーマンなどでしょうけど、ピーマンは好き嫌いがありますね。こんな話をすると「ピーマンをジャムにしてどうするの?」とか言われますが。今までは「どうするの?」で済んでいましたが、これだけ種類が増えると「どうするの?」の先の、「どうやったら食べていただけるか?」まで考えないといけない。むやみに商品開発だけして、「こんなのができちゃって、どうしましょう!」だけじゃだめなんですね。それは内輪ウケでしかなくなりますから。
 
「こういう風に食べてください」という写真、料理と一緒にジャムを使う写真などがあったらいいですよね。サラダとかサンドイッチとかなら合うと思います。パストラミビーフみたいなハム系でもいいと思いますね。そんなときはうちの三浦大根のジャムがおすすめです。大根おろしのジャムバージョンなので肉料理に合いますよ。
大根おろしって、おろしてしまうと水分が出てほとんど水ですからね。だからそうならないように、大根のジャムは敢えて潰して、大根の塊を残して作っています。素材の形を残しています。
 
そんな風に、商品ができた先まで考えるのが最近の商品開発になっています。大根ジャムとお肉系ならハンバーグやローストビーフも合うだろうし、照り焼きのタレの甘みにいちごジャムを使うのもいいですよね。
 

 
どこかのレストランと提携するとか、そんな話はまだないです。飲食店さんの方でも、横須賀にジャム屋さんがあることはわかっていてうちの商品は知っていても、実際どう料理にジャムをコラボさせたらベストなのかがわからないのかもしれません。ジャムと名がつくからいけないのかもしれませんが。
 
今後は、野菜のジャムをたくさん料理に使っていただきたいと思っています。三浦大根のジャムを付け合わせにしたり、トマトのジャムをソースに使ったりすることによって、今までの「ジャム=果物」という概念が外れるんじゃないでしょうか。野菜のジャムをお料理に使っていただければ、消費も増えますしね。
 
「60種類もあるからもうそろそろ限界ですか?」とも訊かれますけどそんなこともなくて、いろいろと考えが広がっていくことが楽しくてやっています。
今のところ後継者はまだいません。息子は勤め人ですし、娘は子どもがまだ就学前で子育て真っ最中ですから。でも案外娘は子どもの手が離れたらやりたいって言うかもしれないかな? などとぼんやり思っています。跡を継いでくれたらいいなという気持ちはありますけど、あと10年位しないと現実的は話にはならないのかもしれませんね。この先どうなるかはわかりませんけど、僕はのんびりと、自分がこだわりたいジャムを作ることを心から楽しみながらやっていきたいと思っています。
 

 
自分が生み出すものにこだわりを持ちたい。ひたすらいいものを作りたい。
ジャム屋さんも「ものづくり」においては立派なクリエイターだということが、新倉さんのお話から静かに伝わってくる。
約60種類をルーティーンで作りながらも、なおもその先を探求する原動力を、新倉さんのジャムを食べて、ぜひ感じ取ってほしい。

 
 
 
 
(取材・文:河瀬佳代子、撮影:山中菜摘)

新倉さんちの手づくりジャム
神奈川県横須賀市秋谷1-15-20    046-855-5706
営業時間: 10:30~21:00
カフェ営業日 11:00~16:30 (定休日:水・木)
公式サイト: https://niikurajam.com/
※取材時の情報です。営業時間等、変更している可能性もありますのでご注意ください。

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都豊島区出身。日本女子大学文学部卒。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul 、 「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/ 連載中。

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)
神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」店長。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。

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2021-08-30 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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