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人生初のスポットライトを浴びて選手宣誓したくなった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西元英恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
第4月曜日、19時。
仕事が終わった足でいそいそと、とあるビルの7階に向かう。
今日は毎月楽しみにしているゴスペルのレッスン日だ。
 
ゴスペルとはひとつの音楽のジャンルである。
もとは「good spell」=良い知らせ というのが語源であり、それが転化して「god spell」=神の言葉として教会で歌われてきたものだ。
 
約10年前、仕事帰りの駅前で配られたチラシを見て入会を決めた。
クリスチャンというわけでは無かったが、上手とは言えなくとも好きに変わりはない「歌」を趣味にできるなんて楽しそう! と思ったのだ。
 
音に乗ってリズムを刻み、お腹の底から声を出してみんなで歌う。
殻を破るまでが恥ずかしかったが、慣れてしまえば体の中からエネルギーが沸いてくるような気がした。
 
しかし、私たちはなかなか上達しなかった。
理由は簡単、自宅での練習不足だ。
レッスンでは「音取り」という音程確認作業を先生が丁寧に行ってくれる。
自宅で反復練習をすれば良いのだが、仕事の忙しさを理由にサボっていた。
和気あいあいとするのは得意だったが、悪くいえばなあなあで一つの曲を仕上げるのに
毎回結構な時間がかかった。
 
私たちがつい甘えてしまう理由が他にもあった。
それが毎月第3月曜日にレッスンをしているグループの存在だ。
仮に第3月曜日をAグループ、第4月曜日の私たちをBグループとしよう。
A、Bレベルの差は歴然だった。
Aグループのメンバーは音楽経験者が多く、声楽出身、ボーカルレッスンに通う人、なかには歌手を目指して海外留学する人もいた。先生は明らかにはしなかったが入会時にレベルの差で振り分けられているのでは、と思っている。
 
年に一回の発表会ではこのA,B両グループが一緒にステージに立つ。
上手いAグループが前に立ち、私たちBグループはその後方に並んだ。
彼女たちの前にはスタンドマイクが用意され、1人1人の歌声がマイクに乗るようになっている。そして前列には眩しいほどのスポットライトが当たる。
一方Bグループは後ろに隠れているのをいいことに、歌詞が飛んだり、音程が不安定な箇所があったり、振り付けを忘れたり……と詰めが甘いままステージに立つこともしばしばだった。
 
ところが、Aグループに甘えられない事態が起きた。
今年の発表会ではA、Bそれぞれ違う楽曲で歌うというのだ。
私たちは焦った。今まで後列でのんびりやるくらいがちょうどよかったのに……。
本番まであと1か月。時間がない。
 
それから猛練習が始まった。
 
私はまず、楽譜を部屋の一番見えやすい壁にテープで貼り付けた。
隙あらばすぐに音源をかけて歌い、歌詞や音程を確認した。
そして姿見の前に立ち、踊りながら振り付けを体に染み込ませた。
 
私は「アルト」といって低音のパートを担当している。
アルトはソプラノの下をハモる事が多いのだが、しっかり自分のパートを歌える状況にしておかなければ他のパートにつられてしまう。
仮に本番で音程がわからなくなっても他のパートを歌うという禁じ手があるが、それだとハーモニーに深みが出ない。
担当している「アルト」に初めて責任感のようなものを感じ始めていた。
 
本番が近づいてきた休日の午後、私たちは集合した。
借りた会議室でまず本番通りの並び順に立ってみる。
そして音源をかけて歌う。いつもよりは調子がいい。
みんなも自宅での個人練習に励んできていた。
更にはスマホのカメラを会議室の壁に立てかけ、歌っている姿を撮影する。
 
その映像をみて唖然とする。私、棒立ちだ……。
自分ではリズムに乗っているつもりだったのに、表現力の乏しさが浮き彫りになった。
(こんなことでは人前で堂々と歌えない)
本当に楽しそうに表情豊かに歌うメンバーの見よう見まねで、最初は笑顔から。
顔の筋肉ってこんなに動くんだ……、と変なところで感心する。
そして普段の倍以上に体を揺らし、リズムを取ってみる。
もう一度録画して映像を確認。
多少ぎこちない感じは否めないが、最初に比べれば幾分ましだ。
自分が楽しく歌うのと、見ている側を楽しい気持ちにさせることにこれほどの乖離があるとは。勉強になった。
 
いつになく「歌」への情熱を燃やした私たちは無事本番の日を迎えた。
例年通り、17時からの本番を前に入念なリハーサルが始まる。
私たちが呼ばれた。
指定された位置に立ってみるとそこにはスタンドマイクがそびえたっていた。
恐れ多い。私の歌声がこのマイクに乗るのか。その現実に一瞬目が眩みそうになる。
イントロが流れ始めた。
するとステージの天井と壁を沿って降りてきたスポットライトが、私の全身をとらえるとそこで止まった。
(おぉぉぉーーーー!)
冷静を装っていたが、内心は人生で初めての事にかなり興奮していた。
私、今、スポットライトを浴びている!!
そして、これまた人生初のスタンドマイクに向かって歌声を乗せてみる。
この時自分の中で何かが明らかに変化した。
 
「スポットライトに恥じない歌を歌おう」
 
私は今までのどの発表会よりも心を込めて丁寧に歌った。
そしてメンバーの歌声をよく聴き、ハーモニーに深みがでるように調和を心掛けた。
音程・歌詞・リズム・振り付け全てにマイベストを目指した結果、少しばかりの余裕がうまれたようだった。
 
本番を迎え、控室でいつもとは違う緊張感がみんなを包んでいた。
今までで一番練習したという自負もあり「やってやるぞ!」という意気込みもあった。
 
本番ではリハーサル以上のみんなの胸の高まりが良いように作用し、今まで立ったステージの中で一番出来が良かった。
「プロ」のそれとは比べようも無いが、メンバー全員の一体感が生まれたのを肌で感じることができた。
興奮と嬉しさで胸が熱くなり、涙がこぼれそうだった。
こんな事初めてだ。
ステージから降りると先生がこれまた興奮した面持ちで駆け寄ってきた。
「すごい! どうしたの!?」
どうしたのとは失礼な、と苦笑いしそうになったが、そう思わず言ってしまうくらい私たちが見せたステージが今までと違っていたのだろう。
「今までで一番よく歌えました!」私は満面の笑みで答えた。
 
あのスポットライトが
「いい歌を届けるんだ」
と確実な意思を芽生えさせてくれた。
 
まるで「ゴスペル」に参加させてもらう身としての選手宣誓だったようだと振り返って思う。
あの時、当事者としての意識を持たせてくれたスポットライトに感謝している。
 
 
 
 
***

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2021-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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