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メディアグランプリ

12インチの癒やし


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まちだ ねこいち(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
15年ほど前、とある顧客のオフィスに数ヶ月の間通って仕事をしていたことがあった。そのオフィスは東京都の竹芝という、大きな客船が停まる港の近くにあった。その顧客と仕事をするために来ていた私たちに、顧客はかなり良いオフィスを割り当ててくれた。机も椅子も大きく、大きな窓がついた個室だった。
そのオフィスでふとパソコンから目を上げると、大きな窓から青い空に白いレインボーブリッジが見えるのだった。地方出身の私はその「いかにも東京」な風景にすこしワクワクしていた。
当時の仕事は深夜におよぶ残業が毎日のように続くハードなものだったが、疲れてくると、席に座ったまま窓からぼーっとそのレインボーブリッジを眺めることが、つかの間の休息となっていた。そのオフィスで仕事をしたのは数ヶ月だったが、その風景は私の心に強く印象に残った。
 
そして2021年の現在。新型コロナウイルスの影響で勤め先の都心のオフィスは一時的に閉鎖されることになり、テレワークが始まってすでに1年半あまりが経過した。今も東京近郊の自宅で仕事をしている。
私のテレワーク環境は賃貸マンションのリビングルームに隣接した和室だ。和室自体に窓はなく、日が当たらずかなり暗いため、昼間でも天井から吊り下げた照明とデスクライトをつけて仕事をしている。デスクの上にはノートPCと、24インチのサブディスプレイを並べて、壁に向かって仕事をしている。
家には一人でいるため静かではあるが、時々静かすぎて集中できないこともある。気を紛らわすため、12インチのタブレットをデスクに持ってきて、YouTubeで見つけたカフェの環境音を流してみた。画像は静止画で、3時間くらいの長さで録音されたカフェの注文の声や客の話し声が流れるというものだ。最初は適度な雑音があることで仕事にも集中できていたのだが、そのうち毎日同じ音を流すことには問題があることがわかった。いつも同じ時間が経過したタイミングでエスプレッソマシンの大きな音がする。いつも同じタイミングで「いらっしゃいませー」と店員の声がする。つまりは飽きてしまったのだ。
次に同じくYouTubeで、日本の自然環境を4Kの高画質で録画・録音したチャンネルを発見し、それを流しっぱなしにしてみた。音声だけだったカフェ音とは違ってさすがの4K映像で、森の緑の輝きや川の水の反射がとてつもなく美しい。また、適度に鳥の声や川の水音などの自然音がするので集中できる。たまにパソコンからタブレットに目をやると、緑の中で池の上を静かにゆっくりとすべっていくカヌーが見えた。このカヌーを見て、風景に動きがあるというのは意外に気分転換になると気づいた。お気に入りにしたそのチャンネルは日本の多くの場所で撮影されており、選択肢が多いので飽きることもない。
 
ところで、私の和室テレワーク環境の弱点は部屋が一日中暗いことだ。そのため昼間でも照明をつけているが、暗い部屋で一日中電灯がついていると、時間の感覚がつかみづらくなる。オフィスでも電灯はついていたが、大きな窓があったので外の明るさの変化がわかった。しかし今の和室テレワークでは、何時間仕事をしているのかもよくわからなくなる。
これをどうにかしたいと思っていたところ、またもやYouTubeに、4Kのライブカメラ映像があることに気づいた。東京のお台場や汐留に固定カメラが設置されていて、お台場のカメラは海と運河、埋立地の建物が映っている。汐留のカメラは大きなビルを中心に、新幹線・ゆりかもめ・JR在来線の電車が走っており、高速道路を走る車も映っている。
そして、どちらのカメラにも空が写っている。当然だが夕方になると空が赤く染まり、夜になると暗くなって建物や車の明かりがつき、時間の経過が目に見える。
カメラの位置は固定だが、映像には動きもある。お台場のカメラはたまに海を船が通って水面がキラキラと波打つ。汐留のカメラにはマイクもついており、電車の通る音が聞こえ、風の強い日は風切り音、嵐の日は雷の音がする。
 
その映像をデスクに置いたタブレットで眺めていたとき、突然わかった。
私がほんとうに欲しかったのは、窓だったのだ。
これまで求めていた気が紛れる音やきれいな風景は、その一部分でしかなかった。
15年前のあのレインボーブリッジが見えるオフィスのように、疲れた時にちょっと目を上げれば、時間とともに変わってゆく空や海を、ぼーっと眺めることができる窓が欲しかったのだ。
 
しかし現実に今の和室には窓は作れない。かわりに4Kのライブカメラ映像を流しっぱなしにしておく。海外のライブカメラもあるが、時差があって空の色がリアルタイムに感じられないので、日本のライブカメラを選ぶ。4Kのライブカメラは少ないので、先程のお台場や汐留のカメラを選ぶ事が多い。現在の住まいが東京近郊なので、映る天気もリアルタイムだ。
15年前に働いたオフィスの窓のように100%満足なものではないが、タブレットの中で赤く染まってきた汐留の空を見て「もう夕方か……」と感じることはできる。
こうして私の和室のテレワークオフィスに、「窓」−−いや、そう呼ぶにはおこがましい、似て非なる12インチの「ジェネリック窓」ができた。まだしばらくは続くテレワークの間、ふと息をつくための癒やしとなってくれることだろう。
 
 
 
 
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2021-06-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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