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私が葬儀司会を辞めた理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:浅倉史歩(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
MCとして、マイクを持つ仕事をしてかれこれ20年。
イベントや結婚式の司会、選挙のウグイス嬢、ナレーター、ケーブルテレビのレポーターなどいろんな仕事をさせてもらってきた。
どれもそれなりに楽しさもあるし、しんどさもある。
 
現場でのてんやわんやはもちろんのこと、新人のころにはディレクターや会場スタッフに見下されたり露骨な嫌味や暴言も言われたりで、ずいぶん涙も流してきた。
 
それでも辞めずに続けているのは、どの現場もどんな仕事も、終わってみればそれなりに楽しいと感じるし、自己成長を味わえるから。
デスクワークでは味わえない達成感があるから。
後日お礼のお手紙やメールや、次の現場を指名でいただいたりすると、感激はひとしおである。
 
結局そういう瞬間が大好きで、ある意味「現場中毒」みたいなものかも知れない。
じゃなきゃ誰が土日祝、盆正月、ゴールデンウィークなど、世間が盛り上がるときにプライベートを全部つぶしてまで続けるものか(笑)
 
ところが、そんな私がどうにもできなかった分野がある。
それが葬儀司会である。
 
葬儀の世界に足を踏み入れたのは30代も終わるころ。理由は二つあった。
一つは、「お姉さん」と呼ばれる子供イベントを卒業する年齢になったこと。
もう一つは、平日もマイクを持つ仕事をしたかったこと。
 
イベントも披露宴も基本的に土日祝のみ。選挙なんて不定期でいつ仕事があるかもわからない。
またそのころは「副業」「セカンドビジネス」というものを認めている企業など皆無で、正社員としての勤務は難しかった。だから平日は非正規社員という立場を転々としてきた。
そのうち非正規とはいえそう簡単に仕事も見つけられなくなるだろう。
 
そう考えたとき、平日でしかもマイクを持てると葬儀司会に行きついた。
しかも通夜と本葬はセットで同じ司会者が行う。司会者の年齢は50代以上がほとんどの中、30代で始めておくと、後々の居場所が確保できる。
なんと、願ったりかなったりじゃん!
 
というわけで修行が始まった。
まずは通夜式から葬儀全般の流れ、どのタイミングで遺族にご挨拶に伺うか、何を決めるか、通夜・本葬の進行はどうなっているかなどを学び、それに合わせてコメントを作成。
 
また今だから言うが、披露宴みたいに事前打ち合わせの必要はない、あれこれサプライズだの気の利いたコメントの必要もない、現場の拘束時間も短いなどなど、「披露宴より楽!」と不謹慎な思いを抱いていた自分がいたことも事実である。
 
こうして修行を終えたのち、まずは見習いとして現場に入るようになったのだが……
 
甘かった。自分の不謹慎さを呪うほどきつかった。
 
一人暮らしの父親を孤独死させてしまったと泣き叫ぶご遺族、こちらの問いかけにはすべてけんか腰の返答で怒鳴られた。
 
やはり一人暮らしの人が入浴中に亡くなっていた、というケースは、お棺をテープでぐるぐる巻きに密閉してもにおいがきつくて、吐きそうになりながら現場をこなした。
 
焼香順位を決めるだけなのに、これがまさかの修羅場。
「この葬儀の費用は誰がどこから出すんだ?」という会話が耳に入ってきたときには固まってしまった。まさか葬儀代の負担額で焼香決める?
 
「最初は喪主様、そのあとはご兄弟の順に家族ごとが一般的で……」と説明し始めると、
「でも兄嫁はなんもしてへんのに、なんで喪主の妻というだけで私より先なんですか?」と。これは故人を最後までお世話してきた故人の娘の発言。
 
「配偶者とご家族は後回しにして、まずは実のお子様方から、そしてそのご家族……」という提案に、「この子は○○家の跡取りやのに、なんで後回しやねん!」と返してきたのは、故人の長男、つまり喪主の嫁。
 
刻一刻と本葬の葬儀開始時間が迫る中、「それはそれ、これはこれ!とにかく順番決めましょう」と言い切って遺族をまとめるだけの力はなかった。
もうただおろおろあたふたしていただけで、どうやって乗り切ったのか覚えていない。
 
世の中、きれいな亡くなり方をする人ばかりではないのは十分承知していた。
テレビやラジオの人生相談などでご遺族の諍いについても覚悟はしていた。
でもそれが目の前で展開されると、正面から立ち向かうことも、受け入れることも、うまく立ち回ることも、何一つできなかった。
そんな自分が悔しくて、帰り道でも泣いてばかりだった。
それが、帰宅後の極度の疲労につながっていたのかもしれない。
 
生まれてこの方霊感の「れ」の字も感じたことないのに、葬儀の仕事から帰宅したらもうぐったりしてしまって、何も手につかない。
ベッドに倒れこむと、そのまま朝まで眠り込んでしまう。
目覚めてもすっきりせず、嫌な疲れだけが残る。気持ちがしんどい。吐き気も治まらない。
現場に出ると毎回このような状態が続いた。
 
ここまでくると、もう辞める理由が云々ではない。
そう、続けていく理由が何一つ、どこにも見当たらないのである。
理由だけでなく、続ける意味も、価値も、なにもかも。
 
だから、だから葬儀の世界からは足を洗った。きっぱりと洗った。
何もできないまま、やりがいも達成感も何も得られないままだったが、何一つ未練なく葬儀業界を去った。
 
それから10年以上たった今、自分の不謹慎な思いが原因の一つだったことを確信している。
「マイクを持つ仕事」という部分にだけフォーカスしていたという思慮は浅はか過ぎた。
「人一人が亡くなるその背景すべてを受け止めるだけの覚悟」なくやり始めたことも大間違いだった。
 
それは自分が大好きだった祖父母をはじめ、伯父や伯母、時には友人を見送りを何度も体験したことで悟ったことだと思う。
 
もしかして今の年齢なら、もう少しだけならうまくやれるかもしれない。
実際、「もう一回やってみない?」と声をかけてもらうことがあることも事実だ。
 
でも二度とその世界にもどるつもりはない。
今の自分があの場に立たされたら……
そう、自信がないのだ。トラウマになっていると言われたらそれまでだが、でもやっぱり
どんなにてんやわんやしても、ギャラ安くても、土日お休みなくても、笑い声と笑顔と「ありがとう」の飛び交う中に身を置く方が、私の性に合っている。
 
だからこれからも、現場に受け入れられる限りはブライダルを中心に、イベントやナレーターをやっていく。
 
なお自分ができなかっただけに、どんなご遺体ともご遺族とも丁寧に向き合って、日々粛々と葬儀を行う関係者の皆さんには、人並み以上に敬意を払っているつもりである。
 
 
 
 
***

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2021-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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